第29話 夕闇の城塞戦②
「勝負あったな」
前面スクリーンには、動きを止めた
モレノは勝敗がついたことを確信し、自身の口元を緩めた。
捕まえた瞬間、強力な電気を流したのだ。狙い通り、
『さすが旦那だ、終わってみればあっけなかったな』
マッティアから通信が入った。見れば、
『にしても、まさか折られるとは思わなかったぜ。もしかして手加減されてたか?』
「だろうな。普通は、できん芸当だが」
下から斬り上げる動きには、
子供を取り戻しに来た、とロクサーナは言っていたが、おそらくそれは事実なのだろう。マッティアがまた適当な子供を攫ってきたのだと思う。時折耳に入る話から、おおよその事情は把握している。彼らのしていることを肯定しているわけではない。それでも自分の雇い主はこのゴルガの城主オラツィオであり、その命令に従うのが自身の矜持なのだ。
『だがこれでオラツィオ様にいい報告ができるな。あの
「貴様にあれは扱えん。ワーカーとは全く違うのだ。だからこそ、訓練された
「へーへー、分かってますよぅ」
マッティアのいつもの軽い声を聞きながら、モレノは動きを止めている
この型式は、自分の知る中にはない。
操縦桿から手を離し、モレノは再びスピーカーを開いた。
「投降しろ、ロクサーナ・カイレン! 手動でハッチを開けて出て来るのだ。抵抗しなければ、殺しはしない」
オラツィオがどうするのかは考えたくもないが、モレノは勝敗のついた相手をどうこうするつもりはなかった。通信の向こうでマッティアが「俺がもらうぞ!」などと言っているが、それは無視する。これほどの
目の前の
返答のない
「いい加減、負けを認めて出てきたらどうだ?」
中で震えているのか。
その様子を想像すれば、それも仕方のないことかもしれないとモレノは思った。いくら威勢の良いことを言っていても、頼みの
その時、予想外のことが起こった。
『旦那、さっさと女を引きずり出してオラツィオ様に報告を――』
それは通信器から、そんなマッティアの声が聞こえた時だ。
動けない
「ありえん……!」
信じ難い現実に戸惑うも、相手の武器は封じている。あのネットはそう簡単に断ち切ることはできない――。
そう思っているうちにも、間近に紫紺色の
「な! 何が起き――」
外の景色が見えなくなり、モレノは信じられない思いで手元の制御盤を見た。赤く点滅しているのは、メインカメラの状態を表すキーだ。
「まさか、メインカメラを狙ったのか!?」
確か、相手の
だが、今対峙している
「……まさか」
ありえない想像をした時、目の前の
◇◇◇
――数分前。
暗闇に浸かったコックピット内で、ロクサーナは血の気が引く思いでいた。操縦桿が全く利かなくなり、計器類もダウンしたのだ。
「ヴァージル……!」
ヴァージルも落ちたのではないか――。その不安に耐え切れず、ロクサーナは声を上げた。が、そこへ馴染みの声が返ってくる。
『――マスター、ご安心を』
「ヴァージル! 良かった……っ」
どっと胸に安堵が訪れた。それでも周囲は暗くなったままなのだが、ヴァージルが起きているという事実に心底ほっとする。おそらく背凭れに張り付いたままであろう
「ねぇ、これ、どうなっているの?」
『電磁攻撃を受けました』
「え! じゃあ、それで動けなく?」
不安が、再び頭をもたげる。
『問題ありません、マスター。アースしましたので』
「え? アース?」
ロクサーナは意味が分からず、問い返した。
『ブリガンダインを造った博士は、電磁攻撃を受ける想定もされていたようです。この
ヴァージルから、丁寧な説明が返ってきた。
ロクサーナは小さく唸る。そんな設計もされていたとは知らなかった。もしかしたら、ブリガンダインを造った博士はろくに説明書を残さずに慌ただしく去ったのだろうか? いや、おそらくは単に、まだ自分には知らされていなかっただけのことだ。ヴァージルはブリガンダインと一体化することで何もかもの機能を把握しているのだろう。そのヴァージルが言うには、問題ないらしい。それでも、ロクサーナはまだ不安を
「それって凄いと思うけれど、中の機器は大丈夫なの?」
『問題ありません。そのために、この機体の重要な精密機器は左型に設置されています。覚えておいてください』
「分かったわ」
一応は納得したロクサーナだが、ここからどうすべきかが何より重要だった。電源を落とされたこの機体を完全に復旧させるには、それなりの時が要る。その間に機体を捕獲されてしまえば、身動きが取れなくなってしまうだろう。そうなれば、万事休すだ。なんとかして時間稼ぎをしなければならない。
「攻撃できるようになるには、どのくらい?」
『すぐにでも』
「え! すごい、」
『死んだふりをしているだけですので』
「――え?」
ヴァージルの放った言葉に、ロクサーナは思わず耳を疑った。
死んだふり、と言ったのか。とすると、この
「ええええぇ、死んだふりなのこれ……!」
驚きが収まらない。
まさかヴァージルがこんなことをするとは思わず、ロクサーナは感心するやら呆れるやらで二の句を告げなかった。コックピットまで暗くする必要はなかった気もするが、いつでも動ける状態だという事実は歓迎すべきことではある。
『イエス、マスター』
しれっとしたヴァージルの返事が聞こえた。
『相手の隙を作るには、これが最も手早い手段かと。相手は完全にこちらが落ちたと見ているでしょう』
「それは、まぁ……そのようね」
モレノの
『
「あ、う、うん」
ヴァージルの声に、仄かな怒気が
ヴァージルに声をかけようとしたその時、モレノの声が聞こえてきた。スピーカーをオンにし、こちらに投降を呼びかけてきている。ヴァージルの作戦通り、こちらが完全にダウンしていると思い込んでいるのだろう。
『プサラス、近付いてきます』
「よし、じゃあ、さっさと片付けましょ」
ロクサーナは気を引き締め直し、操縦桿を握った。
「ヴァージル!
『
一気にコックピット内が明るくなり、計器類に光が戻った。ブリガンダインで敵
『
阻むものがないまま、ブリガンダインの
「
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