第14話 食事
食堂のようなところへやってきた。
テーブルにつくなり、どこからともなくメイドたちが料理を運んできた。
さて、いったいどんな豪華料理が出てくるのかと思ったんだが……何と言うか思ったより質素な料理がテーブルに並んだ。
正直ステーキとか鳥の丸焼きみたいなのが出てくると思っていたからちょっと期待外れだったかもしれない。
用意された食事は豪華な宮廷料理というよりは、品数の多い精進料理みたいな感じだった。
どれも手が込んでいるのは分かるが……見た目はすごい地味だった。
主食はどうやらこのパン的な何かのようだ。でも、僕の知ってるようなパンじゃない。ものすごく硬そうだ。
「……あの、お気に召しませんでしたか?」
ミルカがちょっと不安そうな顔をしていた。
おっと、ちょっと顔に出ていたようだ。
僕はすぐに笑顔を浮かべた。
「いえ、そんなことないですよ。とても美味しそうだと思います」
ミルカはほっとしたような顔をした。
「それはよかったです。実はドラゴンがあちこちで発生した影響もあって、ここ数年は食料も不足していまして……ですが、料理人が精一杯心を込めて作った料理です。味はきっとお気に召すと思います」
……ここでもドラゴンか。
どうやらドラゴンのせいでこの国は本当に困っているようだ。
ま、これから逃げる僕には関係のないことだけどね☆
この国の事情など知ったことではない。
食うもん食ったら、こんなところとはさっさとオサラバだ。こんなドラゴンだらけの国からさっさと逃げ出して、安全に暮らせそうな国を目指そう。
「では頂きます」
手を合わせた。
「慈悲の女神アルベド様、今日も我らにお恵みをお与えくださってありがとうございます。あなたから賜った命を今日も我らは頂きます」
ミルカも手を合わせていた。
と言っても、僕のとはちょっと違う。僕は両手のひらを合わせるだけだったが、彼女のそれはまるで天に向かってお祈りするような感じだった。
どうやらこの世界ではああするのが作法のようだ。
「……」
……とりあえず形だけでも真似ておくか。
さて、まずどれから食べようか。
手元にあるのは二股のフォーク? とスプーンだけだった。
どうやらこれで食べるらしい。
……ふむ。カトラリーが二つしかないなら、それほどテーブルマナーとかは気にしなくてもよさそうだな。お上品に食べてさえいればいいだろう。
まずはこのサラダっぽいやつを食べてみるか。
ぱくっ。
もきゅもきゅ……。
ごくり。
……うむ。
これは、あれだな。実に……そう、実に素材の味が生きている。まるで採れたてのような新鮮さだ。というかもう完全に採れたての新鮮な葉っぱだ。食べているだけでまるでイモ虫のような気持ちになれる大自然の味である。
よし、次はこっちのお芋のスープみたいなやつにするか。
なんかポタージュみたいな感じで美味しそうだぞ。見た目は。
ずずず……。
もぐもぐ……。
……うむ。
これも実に素材の味が生かされているな。
恐らく何か味付けはしているのだろう。だが、それはきっと隠し味程度に違いない。実によく隠れている。どこに何が隠れているのか僕の味覚では判別不可能だ。つまり芋の味しかしない。もはやこれは料理なのか? と疑問に思うほどだ。
……いや、しかしこれは王族が食べるものだ。もしかするとこれが究極の芋料理ってやつなのか? 明日またここに来てくださいと言われて出されるレベルの本物の料理なのか? これが美味しいということなのか? あれ? 美味しいってなんだっけ?
僕の中にある美味しいという味覚がゲシュタルト崩壊し始めた。
……と、とりあえず、気を取り直して次はパンを食べよう。
「……」
……えっと、これパン……なんだよね?
僕の知ってるパンと違うような気はするけど……ていうかそもそもふんわりしてない。パンというか小麦粉を練って固めて焼いただけのようにも見える。
とりあえず食べてみよう。
ガチンッ!
ん゛ん゛ん゛ん゛ッ!
ってかてぇ!?
なんだこれ!?
固すぎんだろ!? 石かよ!? ていうかガチンッってなんだよ!? パンを噛んだ時の音じゃねえぞ!?
「あの、セイヤ様。そのパンは固いのでスープにつけないと食べられませんよ?」
「え? あ、ああ、そうやって食べるんですか……」
ミルカが控え目に教えてくれた。
もうちょっと遅かったら歯が何本か折れていたかもしれない。マジでそれくらい硬い。
スープ(もとい芋湯)にパンを浸した。しばらくそうしていると、何とか食べられるレベルの硬度になってきた。
ばりぼり……。
うん。どっちにしろパン食ってる音じゃないな、これ。
かろうじで食える高野豆腐のようになったパンを食べていると、口の中に小麦と芋の絶妙なハーモニーが奏でられた。
知ってる? ゼロとゼロを足してもゼロにしかならないんだよ?
つまり味はほぼなかった。
「どうでしょう、セイヤ様。我が国の料理はお気に召しましたか?」
ミルカはちょっと期待するように訊いてきた。
僕は食べていたものを飲み込んでから、満面の笑みを彼女に向けた。
恐らくこれまでで最高の笑顔だったのではないだろうか。
「はい、とっても美味しいですね☆」
こんなところマジでさっさと逃げよう――と、僕の決意は手元のパンをはるかに凌ぐ勢いで固くなっていた。
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