第21話お土産は何がいいですか?

「…………。はぁ……くだらんなぁ……なんでウチがこんなことせなあかんねん」


 日本の地方にある霊的スポットのとある山奥にヴァイスリッター氏とえるしぃちゃんに呼ばれ懐かれている――白金 蓮しろがね れんが白装束姿で滝に打たれていた。


 彼女は現代日本でも秘匿されている有名な退魔士を多く輩出している家系であり、特に日本各地に潜む大妖怪を封印している血筋であった。


 大妖怪――日本の災害エネルギーの化身とも呼ばれており、祓う事など考えるまでもなく不可能とされている。


 日本政府の暗部も秘匿された神秘に対しては大量の予算を投入しており、あらゆる面でサポートしたり優遇している。


 白金 蓮は鬼払おにやらい家の分家にあたり、妾の娘ともあって立場が低い。


 霊的なスポットで彼女の霊的資質を上昇させ何を計画しているかというと。


「大妖怪の封印の為の生贄、か。夏コミ行ったり遊んだりと好き放題させてもらっていたけど――引き換えに死むなんて納得できるわけないやん……」


 冷たい滝の水が蓮の身体を痛めつける。


 心の中まで冷え切っていき感情が薄れて行く気がする。そんな彼女の冷たい心の中にはえるしぃちゃんと楽しんだ記憶が湧き上がってくる。

 

 本人には自覚は無いが周囲を引っ搔き回し笑顔にする才能がえるしぃちゃんにはあるのだ。それを思い出すと、冷たい水の中でも暖かい気持ちになり元気が湧いて来る。


「――えらい楽しかったなぁ。えるしぃちゃんとこれからもいっぱい遊びたいわ。……寂しいわほんま。ウチを攫ってくれたらずぅーと一緒におって、あんなことやこんなことをなんでもしてあげるんやけどなぁ」


「――マジ!? 嘘じゃないよね!! 『嘘だっぴーマジにしてやんの!? ぷぷぷ』とか言わないよね! ね!?」


「――――――は?」


 話しかけられたことに驚き声の方向に視線を向けると夏コミで装着していたバイザー付きヘルメットをしたえるしぃちゃんが目の前に居たのだ。


 打たれていた滝の水流もいつの間にか止まっており、何か結界のようなもので守られているようだ。


「――迎えに来たよ? ヴァイスリッター氏――いや、蓮ちゃん!!」







 ヴァイスリッター氏を探すために“縁”を辿る。それはそう難しい事ではない。


 実は縁という不確かな物は繋ごうとしてそう簡単にできるモノではない、しかし、この結構適当な神聖存在はほいほい良縁を繋げたり悪縁をぶった切ったりしているのだ。


 その運命を操る行為を世界の理は激怒――することもなく『ふぁっ! えるしぃちゃんまた運命律いじっとるやん!? ま、ええか。どんどこやりんさい、ウチがケツもったるさかい!!』と、結構大阪のおばちゃんバリに気に入られているので問題ない。


 実はえるしぃちゃん存在するだけで世界が安定し良好な未来へと紡がれていっているので世界の理とはウィンウィンな関係なのであった。


「う~んこっち方面かなぁ~? ヴァイスリッター氏の身体に引っ付いた時にマーキングした縁が役に立つ時が来るとは……」


 このドスケベエルフべったべったに甘やかしてくれた黒髪美女であるヴァイスリッターに、何か事故が合って怪我したらいけないと加護をマシマシで付与していたのだ。  


 バインバインのぷるんぷるんが失われては世界の損失だと本当に思っている辺り筋金入りだ。


 ちなみに、空を飛ぶこともできるのだが構築する魔法を常駐するのがめんどくさいし、飛行途中で眠ってしまい墜落してしまうので電車の屋根の上に寝転がりながら移動を行っている。


 転移魔法は自転する地球の座標計算を行いつつ自分の身体を分解、再構築するという極大魔法の分類となっているのでおいそれと発動する事はできない。


「うーんデリシャスッ!! あそこの駅弁は当たりだな。この牛タン弁当何て、心地いい歯ごたえと焦がし醤油の味付けが最高~、んふふふふ」


 たまに停車する駅でパパッと駅弁を複数個購入し異空庫の中にコレクションして行っている。


 ユアチューブの投げ銭がついに振り込まれていたため、美味しい食べ物を沢山買っちゃるぞっ!! と、えるしぃちゃんは意気込んでいる。もちろん、購入した弁当を一つ一つスマホで撮影してツブヤイターに食レポを投稿している。


 宝石や装飾品にあまり興味が無く。こうして美味しい食べ物の食レポへと投げ銭が使用されている辺り健康的でリスナーに優しい。


 半額のパックのお寿司を未だに継続購入している辺り、庶民的感覚と貧乏癖は抜けていないようだが。


 ――そして。


:えるしぃちゃんの向かう先バレバレやん

:どの電車に乗ってるか分かりやすいw

:電車内にいないんだけどwww

:本当にどこにおるん

:まさか、屋根上とか言わないよね?

:くっそ美味そうなんだが

:確か霊山があったよなあの県。観光かな?

:牛タン弁当美味そう

:どんだけ食うんやw

:たくさん食べなさい……

:やっと……お腹一杯食べれるように……

:贅沢のベクトルが健康的すぎる

:駄菓子と生水生活と天と地の差ですね


 えるしぃちゃんはツブヤイターやユアチューブで配信者がしてはいけない事をどんどこコンプリートしていく、現在地が分かる内容や部屋の作り、銀行の口座番号などバレバレのバレである。


 本人が何かしらの方法で解決しているので問題が無いと言えば無いのだが。


 ――ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン。


 太陽の光でポカポカと光合成をしながら電車の揺り籠の様な揺れに包まれ、爆睡をしてしまう涎を垂れ流している呑気な駄エルフ。


 透き通るような銀髪がキラキラと反射して神聖な森の湖面のようだ――背景が電車の屋根の上でなければ。


 バチバチと音を立て大電流の流れる電車のパンタグラフのすぐ隣で、クッションを枕にしてタオルケットに包まっている大物は世界広しと言えどえるしぃちゃんしかいないだろう。







 電車が停車し体が揺さぶられて目を覚ましたえるしぃちゃん、ヴァイスリッター氏の縁が近くなるにつれ反応が強くなってきていた。


「んぁ~、良く寝たなぁ~。えーと、ここはどこじゃろほい?」


 眠たそうに眼を擦りながら周囲を見渡していくと遠目に山々が見え強い反応がそこから出てきている。身体にシビビビと、反応があったので寝過ごさずに起きることができた。


 パシパシとスマホで眺めの良い景色を撮影していく。ヴァイスリッター氏を迎えに行く予定ではあるが観光も楽しめれば一石二鳥だね。ふんふん、と。


「ツブヤイターへ投稿っと。――『観光にキタッ! いい山田!』っとね。使い始めてみると承認欲求がぎゅんぎゅん満たされている気がする」


 電車の屋根の上から連なっている山々の写真を投稿する。クッソつまらないネタでも優しいリスナーやフォロンチュ達は構ってくれるはず。


:いい山田

:これは良い山田

:う~ん座布団持って行って~

:これは山田ですね

:すごく……山田です

:お土産買って来てね


 電車の上から降りると駅の改札機に切符をダンクシュート、素早く通り抜けて行く。都会から外れた地域の為に道幅が広くえるしぃちゃんが隠れる物陰かあまり存在していない。


 気取られぬようにここまで隠密行動してきたのだが、こうなったら素早く駆け抜けていくしか方法が無いのかもしれない。


 【慈愛】も【闘神】も必要な時と気が向いた時にしか出て来る気は無いようだ。こういうえるしぃちゃんが危機の時に出て来るべきだと本人は思っているのだが。


「コミュ障を解消する為にリハビリをしろと……慈愛め……。こうなったらえるしぃちゃんのゴーストステップを披露するしかないか」


 目標捕捉――たぶんあそこらへんの山。


 経年劣化した田舎のアスファルトに片膝を突き、地面に両手を添える。


 プリティなちっちゃいおしりを――くいっと上げる。


 READYじゅんびはいいか?――GOやっちまいな!!


 駅前の広場に一陣の風が吹く、アサシン的高等身体技術【抜き足】と【差し足】を使用し素早く駆け抜けていく。


 地面に足先が触れる瞬間に反作用を完全に中和するアサシン的技術は魔法的要素を一切使用していない。敵の城塞内へと侵入し暗殺する為の技術なのだが、身体能力が神がかっているえるしぃちゃんが使用したら周囲に暴風を撒き散らし、物凄く目立ってしまいあまり意味を成していない。


 しかも、傍から見れば高速で掛けて抜けて行く幽霊みたいな存在にしか見えない。


 周囲の景色が流れて行く、けれどもえるしぃちゃんは後悔していた。――風圧で目が痛い。


 気配遮断の魔法を掛けっぱなしでバイザーヘルメットを被るのを忘れていたのだ。だけどここで被りなおすのはちょっと――カッコ悪いんじゃないかなぁ、と。


 半泣きの状態になりながらも、商店街を駆け抜け平屋の住宅街を通り過ぎ山道へと入っていく。

 

 走る速度を段々とゆるめると正確なヴァイスリッターの場所を探知していく。


「ん~あそこ、なのかな? なんか村みたいな場所の奥に石段? 結構登らないといけないなぁ――ん? 結界が張ってある、な。――あ゛ぁ!! 壊れた!!」


 今の時代中々見られない古き良き村の景色をぼんやりと観光していたら村の周囲に張り巡らされた結界を歩いていただけでぶち破ってしまった。


 えるしぃちゃん的に気付けないレベルの低い結界であったが、退魔士的には大妖怪の封印を解こうとわるものや下級の妖怪たちが来ても、一切侵入を許さない強力な大結界であったのだ。


「まぁ、でもこのくらいの結界ならいくらでも張りなおせるし大丈夫だよね?」


 大丈夫じゃないです。


「お土産売ってないかな? なんか、こう、名産品的な? 窯焼きの焼き物とかお家に飾りたいなぁ」

 

 パシャパシャとスマホで撮影しながら『秘匿された退魔士の隠れ村』をずんどこ歩いて行く。――ツブヤイターへ投稿、投稿っと。


 ツブヤイターでかまってもらう事に味を占めたえるしぃちゃん。日本の暗部である秘匿された村を世間に晒していくスタイル。しかもうっかり写真に位置情報を添付したままである。


『めっちゃ村! お土産に焼き物でも売っていないかな?』


:ん? えるしぃちゃんの写真おかしいぞ?

:あ゛あ゛あ゛あ゛! 知らないぞー

:マップにそんな村ないよ?

:ああ、これ、不味いやつ?

:焼き物www

:久しぶりに炎上っすか?www

:あー、オワタ

:えるしぃちゃん逃げてー

:ほのぼのしてますねえ

:この子強い(確信)

:ニッコリピース(存在しない村)www

:これは日本的にアウトな村っぽいwww

:[たしか、日本の暗部組織の村アルヨ。バレてるネ]

:ちーん


「ふんふんふんふん、ふん? へー、隠れ里かぁ、忍者いないかな? 忍者」


 こちらへ必死の形相で駆けつけてきている集団を望遠モードで撮影する。なんか忙しいのかな? 大変だなぁ、と。


 実際には結界を破って来た侵入者を捕縛、もしくは殺害をするために村の退魔士の精鋭たちが駆け付けてきているのだ。 


『隠れ里という事は忍者がいるかも!? サインくれないかな。なんかみんな忙しそうだね、なんかイベントでもあるのかな?』


:そいつらえるしぃちゃん目的じゃね?

:[日本の退魔士も質が落ちたな]

:退魔士の顔バレ乙

:めっちゃ必死やん

:えるしぃちゃんにげてー

:大丈夫、ウチのえるしぃちゃんめっちゃつおいから


「え? めっちゃ近づいて来る。バイザーヘルメットかぶらなきゃ!! もしかして結界破って怒られちゃうかな?」


 めっちゃ怒ってます。

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