第19話重大発表

 リスナー達が久しぶりに【えるしぃちゃんねる】の生配信が行われると聞き、大勢ファンやえるしぃちゃんの事をツブヤイターや、ニュースで知った一般人が配信待機画面のコメント欄に書き込んでいく。


 配信を開始する予定の時間は休日の夜の時間帯であり、えるしぃちゃんの配信待機画面にはツブヤイターで公式に募集したファンアートのイラストがコロコロと切り替わっている。


:待機中~

:待機!!

:えるしぃちゃんがツブヤイター始めるなんでビックリしたわ

:それな。ちゃんと本人の証拠だしてたしなw

:ツブヤイターの美女神写真からきました

:あれ、現実味がないほどの映像だよな……もう、美し過ぎで

:待機しまっす

:【きらら】重要報告とききました!?

:引退……ではないよね? 


 えるしぃちゃんはなんと、ツブヤイターで公式アカウントをアカウントを取得し告知やファンアートの募集を始めていた。もちろん、なりすましを疑われたえるしぃちゃんはプンスコ怒り、自室のアパートで自撮り写真を数十枚も投稿する。


 超絶キメ顔で神々しさがマシマシの状態で撮影したその写真は、見るもの全てを魅了するほどの破壊力を秘めており、即トレンドランキングトップへ躍り出る。


 ツブヤイターを初めて使用して自撮りをぽんぽこ上げたらちやほやされまくり、調子に乗ったえるしぃちゃんは『どんどこえるしぃちゃん祭り』の開催を宣言。リクエストのあったポーズやシチュエーションを再現しショート動画で投稿したりと大賑わいとなった。


 チャンネル登録者数が二百万人を突破しているえるしぃちゃんは、世間一般の認知からするとゲロイン美少女でしかないのだが、今回の祭りで清楚エルフ美少女として認知が広がった。まるで、アイドルを持て囃すような一般人たちの認知のしかたに古くからのリスナー達は裏で爆笑しているようだ。


:ツブヤイターでえるしぃちゃん清楚扱いでワロタ

:草生えるわ

:え、違うんですか!?

:いつも、麦の飲み物飲んでるからな

:三十年物の駄菓子食うしな

:この前、野草を煮ていたぞ?

:でも、あの自撮り引き延ばしてポスターにしたわ

:ああ、あれはお美しかった

:うん、それは否定できない

:背景が汚いくて狭いキッチンでなければな

:ああ、その落差にいたたまれなくなる


 そのまま絵画として飾ることが出来そうな美しい自撮り画であったがボロアパートの室内で撮影したため、背景に風呂場の日焼けしたドアや夕飯に使用した皿をそのままにしたキッチンが映り込んでしまったのだ。


 今までの配信スタイルでは唯我独尊をいく全くリスナー達に配慮しなかったのだが、ここにきてファンサービスを怒涛の勢いで展開してきている。何か心変わりがあったのか? どこかの事務所に所属するのか!? など、様々な考察が繰り広げられている。


 配信開始の時間となりコメント欄の勢いが早くなっている、えるしぃちゃんの登場にリスナー達が待ちきれないようだ。


 そして、画面がウェブカメラの撮影している配信画面に切り替わると、エルフ耳をピコピコさせるえるしぃちゃんが映し出される。


「こんえるしぃ~!! 世界一可愛い事を自負している可愛いかしこいハイなエルフでVチューバーっぽい何かだよ!! 最近、ハマっている事はエフ・ピー・エスなるがんしゅーてぃんぐ! そして、無事お家賃の支払いを完了して追い出されなかったんだよ!」


 いつもの二百パーセント増しで笑顔が眩いえるしぃちゃん。だが、銀眼の透き通るような目が左右異なる虹彩、ヘテロクロミアとなっている。太陽のように輝くような金眼と凍える氷河の様な銀眼が対比と成り、強烈な存在感を放っている。 


:きちゃー

:フォオオオオオオオオ!!

:これが、噂の美少女清楚エルフ

:え、カラコン!? にしてはなにか引き込まれるような……

:ヘテロクロミア? でも、色が変わるのは成長期なのか?

:その笑顔がヤバイ可愛い

:イメチェン?

:【きらら】えるしぃちゃんさいつよ!! かわいい~


「えるしぃちゃんが可愛いのは当然よ!! んで、今日は特別ゲストを呼んでいるんだぞ!!」


:へ?

:誰!? お父さん結婚は許さないぞ!!

:初ゲスト!?

:まったく予想が付かない

:その、狭い部屋にはいるんけ?

:掃除して呼ぶんだよ?


 えるしぃちゃんは両目をゆっくりと閉じると部屋に置いている物がカタカタと揺れ始め、サラサラの銀髪はふわりと浮き始める。そして、まぶたを開いたときには両目とも金眼となっていた。


「――こんばんわ? 時間帯的にこの挨拶の仕方で合っていますか? 初めましてではありませんがご挨拶を――私はエルシィ・エル・エーテリアと申します、気軽にエルシィと呼んで下さいませ。ふふふ、たまにあなた達の前に出て来ていたのですが気付いていましたか? 見分け方は……言うまでもありませんね?」


 全身から溢れる聖母の様な雰囲気にリスナー達の心が温かく包まれる、穏やかな癒しの波動は画面越しの人間達に影響を与えるようだ。


:ままぁ……

:まま味

:ままぁぁぁぁぁぁああっぁぁぁあ

:ああ、お母さん……

:顔は一緒なのに……顔は一緒なのに……

:偉大なる母性を感じる

:これは、ヤバい

:本当に暖かい……

:ままぁ……


「今回は自己紹介だけですが今後もゲストとして参加いたしますので、私と一緒にお話ししましょうね? ――悩める人間達よ、あなたは一人ではない。私がいつも見守っていますからね。では、また」


 再び両目を閉じ開くと今度は両目が真紅に染まる。ウェブカメラを見つめるその瞳には獰猛な獣を思わせる荒々しさが感じられる。

 

:見守られている、か。

:[あなたが私の神か]

:[うちの司教が慌ててるんやけど]

:ままみ凄かったな……

:演技には見えなかったんだが……

:本物?

:【きらら】しゅごかったぁ

:ん? 紅眼? ん? え?

:あれ、もしかして? また、違うお方?

:なんか手が震えてきたんだけど

:背中がぞぞぞぞってなってる


「我か? もちろんエルシィ・エル・エーテリアに決まっておろう。まぁ、呼び方としてはこれからエーテリアと呼ぶがよい。えるしぃの奴に自己紹介しろと言われたのじゃが……とりあえず【闘神】と呼ばれてはおったな。さっきのサイコパスカマトト女は【慈愛】と言う、嘘クッサイ二つ名前で呼ばれておったのう――フゥハハハハハハッ、慈愛……慈愛って、フクククク」


 テーブルをバンバン叩いて爆笑し始めるエーテリア、笑い涙が出ているあたり本気で言っていることが伺える。自分自身であるエルシィの二つ名を馬鹿にして笑うその姿にリスナー達は付いていけていない。


:ままみを感じたお方は【慈愛】と呼ばれていたのか

:【闘神】さまのぽんこつ臭がえるしぃちゃんと変わらない件について

:えるしぃちゃんのゲスト何人いるんだよ……

:目が少し吊り上がっているね

:闘争を感じる……

:あとで自分自身に怒られそう

:ママには勝てません

:[破壊神!? 司教が泡拭いて倒れたぞ!!]

:オーラがやべーい

:えるしぃちゃん、エルシィ様、エーテリア殿、三人?


「ふくっ……ふぅ――そうじゃな、その三人がたま~に入れ替わるかんじじゃの? それよりも我は『ボケッとモンスター』とやらで通信対戦がしとうての? この前、公園で子供たちと――――あいたぁっ!!」


 片目が銀眼と紅眼のヘテロクロミアになり、自分自身をビンタしてしまった。涙目になりながら瞳を閉じると金眼と銀眼の最初の状態へと戻った。


「話が長くなりそうだったのでビンタしたんだけど、これって自分自身も痛いわぁ~。でも、エーテリアは子供っぽいから話が長くなるんだよね。――ただいま~えるしぃちゃんだよ!! ちょっと、コメントで入院をオススメしないで! 正常!! 正常だから!? たぶん……」


 ヒリヒリするのか頬を擦りながら涙目で戻って来たえるしぃちゃん、精神異常が本当に疑われる状況なのだが切り替わった際の存在感がエルシィもエーテリアも一個の人格として確立しているのが伺えた。


:なんか、他のえるしぃちゃんの本人同様濃いかったわ

:一人漫才には思えなかった、本当に別人だわ

:同一人物とは思えない存在感だったな

:【きらら】ファンアートかきましゅ

:お注射しましょうね

:都内の病院は確か……

:自己紹介の時点で超面白かったわ

:エルシィ様の自撮り希望します!

:エーテリアのクソガキ感が溜まらん


「あ、ツブヤイターのファンアート使わせてもらってるね? ちゃんと配信の時に紹介して占うか、ツブヤイターで返信するからまっててね? それと、さっきのゲストが重大発表と言う訳ではないんだよ?」


:へっ?

:内容が濃すぎて忘れていたわ

:お腹一杯だよう……

:胃薬飲みます

:なんだろう……怖いような……

:まぁ、引退ではないだろうけど

:もしかして……

:え、まじ? あれなんですか!!


「じゃかじゃかじゃかじゃか~じゃ、じゃん!! 【祝・収益化停止解除!!】です!! お~め~で~と~!! 長かった……長かったんだよ……。もう、野草を煮たり、お家賃稼ぎを頑張らなくてもいいんだよ、ね」


 コメント欄の【投げ銭】システムの解放が今の時点で行われ。お祝いの言葉と共に大量の金額が飛び交い始める。占いをしてもらった人や夏コミで加護を受けた人、助けられた対魔機関の人間などもいた。


:やっとやっとお布施が出来た【50000円】

:まっていたぜぇ【50000円】

:やったあ! お金を貢げる!【50000円】

:[神よ、命の代金としては安いのだが]【500ユーロ】

:[今度占ってネ]【500ドル】

:加護代です!【50000円】

:結婚しました【50000円】

:肩が軽くなりました【50000円】

:【きらら】あの時はありがとうございました【50000円】

:そうだ、限度額があるなら回数攻めればいいんだ【50000円】

:投げても投げ足りねえ、俺は彼女に命を救われた【50000円】

:[腕をありがとう、君は私の女神だ]【500ドル】


 止まらない、数分経てども最高金額の【投げ銭】の勢いが衰えない、えるしぃちゃんの配信活動を始めた時期は春の終わり頃。現在は初秋の季節であり活動期間が半年に満たない間に【えるしぃちゃんねる】は登録者数二百万人を突破し今もなお伸び続けている。そして、直接的にしろ間接的にしろ、占いや加護で気まぐれに救われた人間が多すぎた。それがこの投げ銭祭りの結果であり、それだけの人間を幸せにした証拠でもあるのだ。


「ひょぇっ!! ちょ、おま、ちょっとぉ!! ――――投げ銭が五千万円超えたんだけど……凄くない……? あ、もう一個重大発表忘れてた。えるしぃちゃん事務所作ります!!」


 重大発表をあっさりと投げ込んだ瞬間さらに投げ銭のコメントが加速した。

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