承認欲求高めなTS転生配信者エルフちゃん

世も末

第1話えるしぃちゃん(三百三十五歳童貞処女)

「こんえるしぃ~! リアル系Vチュ―バー【えるしぃ】だよぉ~! 人よりちょっ~と、承認欲求高めな年齢十八のハイなエルフだぞ!! え? 痛いって? クッソ可愛いエルフ捕まえといて何言ってんの? あ゛ぁん?」


 開幕早々、喧嘩腰の自称・永遠の十八歳なハイエルフ。


:イッタタタタ!!

:このまえ、三百三十五歳って言ってませんでした?

:新参者に媚を売っていくスタイル

:こんえるしぃ!

:その手に持っているシュワシュワな麦の缶ぽいものは?

:おいおいおい、未成年なわけねーだろロリババア

:媚び売っても可愛いのは反則です

:こんえるしぃ~!!

:大草原不可避www

:くさぁッ!

:えらい解像度高めなVチューバーだな


 シュワシュワの麦の飲み物ぽい缶を片手に持ち、今日も配信を行う自称ハイなエルフ(年齢不詳)


 おっさん臭さも綺麗なお顔で相殺していく。


「ん? ち・み・た・ち!? こ~んなとっても可愛い長いお耳が生えている人間さんはいないでしょ!? だ・か・ら、ヴぁ~ちゃるなわけよ! ヴぁ~ちゃる!!」


 ウェブカメラに近寄り特徴的な長い耳の根元をドアップで映す。透き通るような長い銀髪をたくし上げ、長し目で視聴者を惑わす魔性のハイなエルフ。


:エッ

:えっ!

:エチチなのはいけないと思います。

:キャプ代【1000円】

:拝観料【5000円】

:自称・Vチューバー説

:こんな、解像度の高いVチューバーが在ってたまるか

:生えてんねぇ~!!【500円】


 ウェブカメラから離れる際に小さく舌を出しテヘリと笑う。その笑顔は男女問わず心を撃ち抜く。下の毛も生えていないピュアな少年たちを強制的に思春期へと突入させる。


 今、彼女が配信活動を行っているサイトは、世界的に有名な企業であるゴッゴル社が提供する【ユアチューブ!】である。


 配信者が開設したチャンネルの登録者数と配信時間が一定の数値を超えると、収益化を行うことができる。


 そしてコンテンツ視聴者は【投げ銭】というシステムを介して、配信者にお布施をすることが出来るのだ。


「お、おっ~! どうもどうも~。投げ銭、あ・り・が・と・う! その【おちんぎん】で材料を購入してお料理配信でもしますかねぇ~。でもでも、エルフ的家庭料理は、あんまし得意じゃないんだよね。――ゴッキュ、ゴッキュ。プッハァーうまぁ~い!!」


 シュワシュワな麦の飲み物を一気に飲み干してテーブルへカーンと打ち鳴らす。その圧倒的美貌に反して仕草がおっさん臭いと有名なハイなエルフである。


 【ユアチューブ!】という人気コンテンツは多種多様な配信者で溢れかえりまさに戦国時代!! 綺麗なのは当たり前、可愛いのも当たり前、面白く無ければ食っていけない。

 

 そんな戦国時代を生き抜くには何か特徴的な特技や、人を引き寄せる魅力を持っていなければいけない。


 そして、このハイなエルフの超絶的な特技とは――


「んじゃ、ま~。今日も何か占っちゃいますか~。わたしがコメントと打った前の人の質問に答えちゃうぞ~!! すった~と!!」


 遠い遠いどこかの異世界で国の発展を促し、戦乱の世を平定し、数多の民衆を救い、崇め奉られ、神格化されたハイエルフが存在した。


 そのハイエルフはかつて日本の都内に住んでいた――――おっさん。田中菊次郎三十五歳の生まれ変わりであり。俗に言うTSエルフ転生をした。


 承認欲求高めで童貞なおっさんはロリエルフに生まれ変わり、調子に乗った結果なんやかんやで世界を救い、神格化されめっちゃモテた。モテにモテた。高齢者に。


 肝心のお色気ムンムンでバインバインのメス属性との、えちちな行為には至らず数百年物のヴィンテージ処女(童貞)


 時が経つにつれ顔を拝むことさえ恐れ多いと民衆は平伏し、えちちなお店にすら行くことも叶わず。


 とうとう、堪忍袋の緒が切れたえるしぃちゃん(田中菊次郎三十五歳プラス三百年)は極大魔法を使用してかつての故郷である地球へと戻って来た。


 だがしかし数百年もまともに会話を行っておらず、戻って来たかつての時間軸、かつての自身の部屋で引きこもる始末。


 けれどもえるしぃちゃん(田中菊次郎)ピコンと閃いた。


 ――せや! 今、流行ってるVチューバーになれば会話のリハビリになるし、お金稼げるんやないか!? と。


 だがしかしお金が無い! 高級なウェブカメラも、ガワであるバーチャルなボディもない。しかし、かしこいえるしぃちゃん三百三十五歳はまたしても脳内に電流がビリリと走った!


 ――耳が長いしリアルなVチューバーって言えばいけるやろ!!


 いけません。


 そうして舐め腐った精神でVチューバー界隈の黒船(笑い)で殴り込み。この世ならざる超絶美貌と、なんか神聖な歌声、そして的中率百パーセントに近い占いがバズった。


「ここぉっ!!」


:明日の競馬の三連単!

:明日の日経平均株価の終値

:日本の災害予測

:アイドルの山島ナナナちゃんは彼氏いますか?

:【えるしぃ】↑

:七億円事件の真犯人の名前

:妻が浮気をしているかもしれない

:現総理の汚職の有無

:宇宙人はいますか?

:ノトシックスの当選番号っ!


「ふんふんふんふん、彼氏の名前ね~。そぉいっ!!」


 華奢な両手をギュッと握りしめ、お手々の中に用意していたダイスをフリフリ掻きまわしテーブルの上へと放り投げた。


 三つ用意されたダイスの出目を見つめ。ふんふん、と頷くえるしぃちゃん。毎回占う度に占星術だったり、タロットだったり、ダイスを振ったりと統一性が全くない。なのになぜか的中し続け。良くネット上で炎上している。


 承認欲求が強いのですっごくエゴサーチをしたいのだが、自分の陰口を書かれているとえるしぃちゃんはメンタルブレイクしちゃうので、検索して見ないようにしているのだ。――まさに、臭い物に蓋をする理論。


 だからなのか配信の度に大炎上していることを本人は知らない。


:彼氏の名前大・公・開w

:質問は彼氏の有無なのに、えるしぃちゃんコメントの前後が混ざっていない?

:またしても大炎上不可避

:や・め・ろw

:これは名誉棄損待ったなしですわ

:震えて待ってろ! 彼氏!


「ナナナちゃんは彼氏の事を『ユースケきゅん』呼んでいるみたい? ――あっ! 今、ドラマで共演してる人だねぇ~。ふんふんふん、うっわぁ……。ナナナちゃん……五股されてるから早く別れた方がいいと思うよぅ?」


:大炎上待ったなし

:ツブヤイタートレンド急上昇

:ユースケきゅんの事務所の公式ページダウンしました

:えるしぃちゃんしか勝たん!【10000円】

:ナナナのファン辞めました

:絶許

:名誉棄損(笑)

:事実棄損(はぁと)

:その力を世の為に役立てろよ!


 えるしぃちゃんの占いの的中率を理解している視聴者によって情報が拡散され、ネット界隈の大量のガソリンが注ぎ込まれた。名誉棄損で訴えたくても何故かえるしぃちゃんには内容証明も情報開示すら通じない。

 

 きっと魔法的な何かで、個人情報は守られているのだろう。


「ん? ん~? 世の為に役立てろ~? や~だよ~。もう充分世界を救ってきたし、たま~になら災害予想や事件の犯人の名前を占っちゃうぞっ! えるしぃちゃんはちょっと承認欲求が満たされてちやほやされれば十分なんだよ~! あ、投げ銭ありがと~! コミュ障なんで、頑張って外食に行けたら使わせてもらうね!!」


:いつもの異世界救世主ネタ

:はいはい、異世界転生異世界転生

:おばあちゃん、晩御飯はもう食べたでしょ

:引きこもり系ハイなエルフ

:期待せずに待ってまス!


 人気アイドルの彼氏発覚でツブヤイターが大炎上するも、えるしぃちゃんはアカウントを持っておらず実質無傷。

 

 毎回【えるしぃチャンネル】の生配信の際に芸能界は戦々恐々としている。


「じゃあじゃあ、世の中の為に視聴者の中で――――君、さっき家族を殺しているね。自首しなさい。君の心は泣いている。本当は仲良くしたかったんだ、とね。死んでもなお家族は君を愛しているようだ。どうか、どうか、それ以上人を殺すのは辞めなさい」


 会話の途中でえるしぃちゃんの纏う雰囲気が神々しいものに切り替わる。雰囲気の飲まれてしまったコメント欄は流れが停止した。異世界生活の中で民衆に崇められ、神格化された本物のハイエルフ。その威厳に偽りはない。


:どうし たら いい


「君の為に泣いてくれる家族の想いを受け止めな。――――ほら、時間を上げるよ」


 コメント欄にて繋がった縁を辿り、殺された家族の魂を具現化する。


 血濡れの手でコメントを打ち込んでいる人物は、口論の末家族を殺めてしまった事に絶望してしまっている。今は心の底から後悔し、忘我の境地に陥っている。


 家族を殺してしまった人物を死んだはずの両親が優しく抱きしめる。魂が一時の間、具現化されるも残り時間は少ない。ゆっくりと、半透明な状態が段々と薄く、透明になっていく。


:あ ああああ ああ ああああああ


「――≪精神治癒≫自害するのは辞めな。殺害した死者に対して祈り、悔い改めろ。これから貴様がどう生きるかの道筋など私には分からん。ただ、家族の愛だけは信じな」


 えるしぃちゃんの告げた言葉以降、殺人犯のコメントが途絶えた。神々しい雰囲気は段々と消えて行き、いつものポヤポヤしたえるしぃちゃんに戻った。


 新しいシュワシュワの麦の飲み物の缶を、プシュッとプルタブを開け、ゴッキュゴッキュと美味しそうに飲んでいく。見た目の幼さに反して豪快な飲み方をしている。


「ぷっはぁ~!! ちょっと世の中の為に頑張っちゃうと堅苦しいんだよねぇ~。ね? ね? こうなるから嫌なんだよ~! みんなみんな、へへぇ~ってなっちゃうでしょ?」


:たしカニ

:ポンコツエルフが神々しく見えちまったぜ

:これ、まじなん?

:こういうのは初めてだな

:視聴者に殺人犯は初めての出来事

:えるしぃちゃんならマジだろうな

:本気でゾクゾクした

:なんか涙が出てきちゃったよ


 ちょっとしんみりとした空気になり、えるしぃちゃんはこの場の空気を変えようと頑張っちゃう。頑張っちゃった。(二回目)


 適当に放り投げたダイスが三つの数字を指し示す。


「あ、明日の競馬の第二レースは三、五、七だよ!! 騎手さんがこのチャンネルを見て居なければ結果は濃厚かもね~! 今日の配信はここまで! また見てエルフ~バーイビー!」


:またエルフ~

:またエル~

:よっしゃ! 馬券買うぞ

:騎手さん見ていませんように

:またエル~

:あり が とう ございま す

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