第29話 ラクナシアちゃんのギフテッド

「ケアルナさん、本当にラクナシアに任せるの? まだアルミラージが倒せる程度なんだよ」

「いろんな経験を積むのが一番近道なのよー。そのためにサポートがいるんだからー」


 蔓に絡まれて動けないモブAとモブCふたり、残ったモブBひとりは一生懸命に蔓を切り裂いて助けようとするが斬っても斬っても再生する。


「お前ら何やりやがったー」


 モブBは腰の鞘から剣を抜き取ると、なりふり構わぬ表情で大きく振りかぶってラクナシアに向かった。


「ほらサクラちゃん、相手の右膝ー」


 ケアルナに言われるがまま弱くよわーくフリックバレットを打ち込んだ、体制を崩したモブBはラクナシアを横切るように倒れ込んで転がった。


 大の字になったモブB、地面から伸びた蔓が手足に巻き付く。


「ラクナシアちゃーん、次が来るわよー」


 変わりにモブAが開放される。「なんだお前たちは」と怒号をあげると巨大な斧を振り上げてラクナシアに振り下ろした。


「よし、こんどはあいつか」

 フリックバレットの狙いを付け……「ちょっと待ってー」とケアルナ。「ラクナシアが」と慌てると「見て」と指差した。


 巨大な斧をひょいっと避けるラクナシア。モブAの斧は勢いあまって地面をえぐり土砂を散らす。


「すごい、すごいよラクナシア」

「ラクナシアちゃーん、斧は大振りだからしっかり見れば避けられるわよー」


 大きな斧を振り回すモブA、避け続けるラクナシアに苛ついているのかどんどん動きが荒くなる。


「さすがラクーン族、素早さはピカ1ねー」

「ケアルナはラクナシアのことを知ってるの?」

「むかーし、ラクーン族に会ったことあるのよ。その時のにそっくりねー、実はそのがラクナシアちゃんの母親だったりしてー」


 さすがにそんな偶然はさすがにないだろう。


「それよりもケアルナさん、これからどうするのさ」

「ちょっと待ってー」


 地面から伸びる蔓がモブAを絡め取って動きを封じた。身動きのとれないモブABCは怒号を飛ばすことしかできない。


「ラクナシアちゃーん、ちょっと来てー」


 テコテコ走ってくるラクナシア。


「ケアルナ様、サクラ様、攻撃をよけられました!」


 今まで自信なさげにしていた表情が嘘のように晴れ晴れしている。


「偉いわーラクナシアちゃん、ちょっとコツを伝授してあげるから耳を貸して……あ、サクラちゃんは棒っきれでもいいから剣になりそうな物を4本持ってきてくれる?」


 ヒソヒソ話しを始めるケアルナ、後ろの方では「ふざけるなー」「なにしやがるんだー」「とっとと離しやがれー」と騒ぎまくっている。


「どう考えてもケアルナさんの仕業だよなー」


 あれって地系の能力なのかなー、植物と土は関係なさそうだけど……とりあえず木を変形させて木刀でも作るか。


「そうだ!」


 こういう時こそジゲンフォーのバック、何が出てくるのだろう。

 手に吸い付く剣の束、小さなバックから出てきたのは4本の剣。まるで秘密道具のようだ。


「あ、青い刃の刀剣……ミスリルか……」


 最近はミスリルに縁がある。頭にイメージしたものが出てくるんだったな。ミスリルを考えてたってことか……いや、ミスリルが出たから考えたはずだけど。


 卵が先か鶏が先か──


「おーい、サクラちゃーん。準備できたら持ってきてねー」


 おっと、催促されてしまった。剣を脇に抱えて小走りで戻った。


「ケアルナさーん、4本持ってきましたー」


 キラリと光る青い刃。


「あら、サクラちゃん。ってそれ全部ミスリルじゃないー。どこに隠し持ってたのー?」


 あぁ、しまった。当たり前になりすぎて何も考えていなかった。


「まあいいわ、じゃあそれをラクナシアちゃんの尻尾に入れてちょうだいー」

「ええー」


 予想外の用途にビックリ。尻尾に入れた剣からどんな攻撃が繰り出されるのか想像もつかない。


「サクラ様、尻尾の付け根おしりの方が柄側です。


 試しに一本を尻尾に入れようと近づけると、吸い込まれるように毛の合間に溶け込んだ。


 二本……三本……四本……どんどんと入っていく。


「さぁ、ラクナシアちゃんやってみて」


 剣をモブABCに向けて構えると尻尾から4本の剣が浮かび上がってファンネルのように宙に留まった。


 それに合わせて開放されたモブC、蔓に絡まれながらも必死に抵抗していたせいかかなりお疲れのようだ。


「悪かった。謝るから……もうオレたちの負けで良いから勘弁してくれよー」


 必死に懇願するモブCに、ケアルナは「もう無理よー、ラクーン族は気性が激しいからねぇー、スイッチが入っちゃったみたいよー」とカラカラ笑った。


 普段と変わらぬ表情だが雰囲気が全然違う。表情一つ変えぬまま宙に漂う一本の剣をモブCに向かって放った。

 風を切る音を立てて剣は一直線、モブCは手に持った槍で振り払う。が刃は粉砕され剣は勢いを落とすことなくモブCの顔面へ……。


「ヤバイ!」


 モブCの顔面に突き刺さる瞬間、地面から伸びた蔓が剣の柄に巻き付いて動きを止めた。


 眉間の薄皮1枚で救われたモブC、その場にへたり込んで倒れた。


「見ているこっちがドキドキする。あのおっとりしたラクナシアが」


「ラクナシアちゃーん、みんな開放するわよー」


 にこやかに話すケアルナ、捕らえていた蔓は地面の中へ消えていった。


 なんとか起き上がったモブC、顔面蒼白のモブAB、3人は顔を見合わせて同時に頷くと脱兎のごとく逃げ出した。


 呆気に捉われる。何なんだ一体。そうだ、それよりもラクナシア!


「大丈夫、怪我はない?」

 

 宙に留まっていた4本の剣は尻尾の中へと戻っていった。


 汚れた服についた埃を払う、ラクナシアはさっきまでの迫力が嘘のよう。いつもの表情に戻ってはいるが震えながら涙を流していた。


「サクラ様ー怖かったです」


「ギフテッド酔いね」

「ギフテッド酔い?」

「そうよ、人型は精神武器を受け取る変わりに、獣人などの人外種はギフテッドという固有スキルを持っているの。もしかしたらラクナシアちゃんのスキルはファンネルかなぁと思って試してみたらビンゴだったわ」

「じゃあ、あの剣がふわ~って浮かんだのがそうだったの?」


 ゆりえ口になって上目遣いで見つめてくるラクナシア。


「そうよ、初めてのギフテットで種族本来の気性が出ちゃったのね。もう馴染んだから大丈夫よ」

「こ、こわかったです……。自分が自分じゃないような……体が勝手に動いて……」

「もう大丈夫ー。それにしてもミスリルの剣は破壊力が凄まじいわねー、おかげでもう一つのギフテッドを見そこなったわー」


 え、すごい技がまだあるってのか。


「サクラちゃん、ギフテッドはひとつとは限らないの。私だって複数あるんだから」

「え……ケアルナさんは人間じゃないんですか?」

「あたりまえじゃない、自由に蔓を出し入れする人間がいますか……あれはギフテッドの一つ……というよりドライアド族はみんな使えるから種族スキルかな」


 ドライアド族。ラノベで見たことあるぞ、木の精霊……森の番人……妖精? とにかくドライアドという単語を聞いただけでラノベ脳がくすぐられる。


 こうして人間と獣人と植物の旅が始まるのだった。


 目指すはリュウコウだー!

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