100番目の願い

彼は 空を仰ぎ願った

いまこのてのひらに落ちてきた小鳥を

また空にかえしたいと


初めての願いだった

願いは叶い 願うことを知った



彼の10番目の願いは

愛しき母の笑顔だった

彼は優しかった


空を仰ぎ涙した

目をつむると願いは叶い 己が望むことを知った



彼の50番目の願いは

父のその頭上に輝く冠

父が背をもたれるその高き高き椅子


まっすぐに対峙した

願いは叶わず 願い続けることを知った



彼の51番目の願いは

兄のその賢き思想だった


彼の55番目の願いは

姉のその比類なき強さだった


彼の63番目の願いは

弟の並ぶことなき財力だった


膝をついた兄弟に彼は胸を張った

願いは叶い それが願いであることを忘れた



彼の80番目の願いは

隣に立つべきその人の一生だった

その人は母のように優しかった


彼は片膝をつき その手を包んだ

願いは叶い 彼が見上げる最後の願いとなった



彼の99番目の願いは

かつて父の頭上に輝いた冠

かつて父が背をもたれた高き高き椅子


彼は冠を戴き 椅子を背に振り返った

もう 願う相手はいなかった


彼の100番目の願いは

多くの民衆の上から叫んだ

一言 捧げよ と


見下ろす彼の 願ってきた形

願いは叶った 誰が叶えたのかさえ見えないけれど



彼らは天を仰いだ

我らをお救いくださいと

彼の民の 初めての願いだった


彼と彼らの視線が交わることはない



※ こちらの一編は、企画投稿のため分冊もしております。

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