第23話 雑貨屋
ガーレットとフレアは、昼ごはんのサンドイッチを食べながら、地図と睨めっこしていた。
領地は全体として扇状の形で、周りを山脈に囲まれている。その角の部分に領主の城下町、ゴルドーがある。
そしてゴルドー街から半日足らず南下するとアシナ村に着き、さらに南下すると道が枝分かれて、四つの村にたどり着く。
○ゴルドー
○アシナ村
○バッタル村 ○シーシャ村
○プラック村 ○メイジ村
「こうして見ると、アクセスは悪くないのですわよね」
「そうなんですよね。ゴルドーは他の領地に接しているので、他所からアシナ村に来る人もいましたし、バッタル村ほか領主内の村からも冒険者は集まってきていたそうです」
と、ここでガーレットは、サンドイッチに挟まっていた、塩気がやけに濃いハムに、顔を顰める。
「これ、しょっぱくありませんこと?」
「え、そうですか?あー保存が効くように塩が多くまぶしてありますからね」
フレアはこの味を食べ慣れているので、苦もなくパクパクと咀嚼を続けていた。
アクセスはいいと言うのに、都からは新鮮な食材ではなく保存食が入ってくる。
ガーレットは推測する。バッタル村など他の村に食糧を届ける際に、ついでにアシナ村で一部の積荷を売り捌いているのかもしれないと。
そんなことを考えながら舌を慣らして、ガーレットは少しずつサンドイッチを食べ進めていく。
食べ終わったフレアは、水を飲んでひと息ついたところで、ふと思い出す。
「ふぅー。あ、そういえばガーレットさん。空き店舗にお店を出したいって子がいるらしいんですけど、この後話聞きにいきませんか?」
「あら、一店舗だけでも埋まるのなら街の外観にとって良いことですわね。ぜひ伺いましょう」
「ええ!きっと素敵な店になりますよ!」
フレアは楽しそうだった。気持ちを切り替え、先日の失意から立ち直れたのだ。次に進むための心構えはできていた。
「そうですわね」
ガーレットは、それを見て一安心した。塩辛い口の中を水でうがいしてから出る支度をした。
フレアとガーレットは村の住宅地にある、とある民家に着いた。玄関扉には針葉樹の葉のリースがかかっておいた。庭にも花が植えられており、華やかな家構えであった。
「あら可愛らしい」
ガーレットはここの家主のセンスが気に入った。彼女は暇さえあれば庭園に入り浸っていたので、丁寧に育てられた手入れされた花壇を評価した。
「ふふ、お気に召していただいてよかったです。すみませーん」
フレアが玄関扉をノックすると、中から前髪が長く、目元が隠れている女性が出てきた。セーターで厚着をしており、野暮ったい雰囲気を纏っている。
「あ、こんにちはフレアちゃん。えっとえっと、そちらの方がガーレット様ですよね。初めましてサラサと申します」
緊張した、こわばった笑顔を浮かべるサラサ。歳はフレアたちとさほど変わらないくらいだった。ガーレットは丁寧にお辞儀する。
「ごきげんよう。ガーレットと申しますわ。この度は、出店についてお話を伺わいにきましたわ」
「は、はい!散らかってますけどお上がりください」
家の中は、確かにもので溢れていたが、散らかっているというような表現は適さなかった。
ガーレットは、目を輝かせる。
「これは、すごいですわね。サラサさんが作りましたの?」
「ええ、はい……」
前髪が揺れるサラサ。恥ずかしがっているようだった。
棚という棚、また長テーブルいっぱいには、ハンドメイドの雑貨が並んでいたのだ。
玄関リースのように、植物の枝葉や花を生かした小物もあれば、毛糸を使ったぬいぐるみ、綺麗な石が繋がったブレスレットなど多種の品々があった。
「サラサさんは、雑貨屋の出店を希望しているんですよね」
フレアの言葉に、サラサは頷く。
「はい、そうなんですけど、その……お伝えした通り、一つ問題がありまして……」
「ぜひやるべきですわ。どれもクオリティの高さは保証できます。それで問題とは?」
ガーレットは太鼓判を押す。しかし、サラサが出店に踏み切れないのには事情があった。
「じ、実はお恥ずかしながら……。賃料が高くて、払えそうにないのです」
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