第51話 開幕に向けて

「大会の成功を祈って……乾杯!」


「「「「「かんぱ~いっ!」」」」」


 きんっ


 乾杯の音頭と同時に合わせたグラスが涼やかな音を立てる。


 シローさんたちが企画した「世界ダンジョンバスター競技大会」の開幕を1週間後に控え、俺たちは明石邸でささやかな決起集会を開いていた。


「んぐんぐ……やべ、この塩から揚げ、超美味くね!?」


 さっそく俺特製の塩から揚げを頬張るレミリアさん。


「ユウのごはんは最高なんだよ!

 わたしの食べたいもの何でも作ってくれるんだ~♪」


 誇らしげなリーサが超カワイイ。

 この顔を見たいがために毎日料理しているのだ。


「え!? なにそれ!? リーサたんミアたんだけじゃなくユウっちも神なの!?

 ゴッドハウスイズヒアー!? シロー、あたしここに引っ越していい!?」


「こないだ家を買ったばかりだろ……。

 ていうか、お前はいい加減カップ麺以外を作れるようになってくれ」


「むぐっ!?

 転生組にとってはこっちの料理のレベルが高すぎて、作れないのよ!」


「……あはは、リーサも否定できない」


「なはは! 余も何もできんぞ!!」


「わ、わたくしは転生者じゃないんですけどね」


 ……どうやらヤマダ家も旦那が飯を作っているようだ。

 シローさんに親近感を覚えてしまう。


「それにしても、ここまであっという間でしたね」


「途中から協会本部に引き継いだとはいっても……忙しかったな」


 季節はもう師走、忙しく動いていたらクリスマスも過ぎ去っていた。

 大会の開幕は年明け、1月5日である。


「んぐんぐ……あたしなんて一生分書類作ったってば!」


「レミリアもよく頑張ったな」


 レミリアさんの頭を優しく撫でるシローさん。


「やべぇ! シローのイケメンムーブ来た! これで勝つる!!」


 おちゃらけながらも赤毛を逆立て、頬を染めるレミリアさん。

 やっぱりいいコンビである。


「世界90か国、2000人以上のダンバスが参加するんでしょ?

 すっごいね!」


 リーサが参加者リストを見て歓声を上げている。


「世界ランク1位のウィンストン卿も参戦か」


 日本ランク1位、世界ランク3位のシローさん夫妻だけでなく、現時点の世界トップのダンジョンバスターの参戦。


「ブレンダちゃんの、娘さんのプッシュがあったらしい」


 ウィンストン卿はイギリスのダンジョンバスター行政のトップである。

 そう簡単に動けないと思うのだが、向こうの本気度が伺える。


「世界ランク2位のレニーっちが不参加なのは残念だけど、トップ20はほぼ参加表明をしてくれたよね?」


(うおおおおおお……!)


 ダンジョンバスター関係のニュースでしか見たことのないレジェントたちの名前を見て、興奮を抑えきれない。


「で、でもこのメンツで俺たちが日本代表入りってのも気が引けますけどね」


「ははっ、気にしなくてもいい。

 わずか半年で4つもランクを上げた”ユニーク”、しかも異世界帰りのスキル持ち。

 それに”オリジナル魔法”を使うパートナーが2人もいるんだ」


「ダンバスランクだけで実力を判断する者など、上位ランカーにはいないさ」


「たはは……」


 それはそれで、ノーマークからの下克上が出来なさそうで厄介だけど。


「だが……」


 お酒も入り、穏やかな笑みを浮かべていたシローさんの顔が曇る。

 参加者リストの下、今大会のスポンサー企業の名前が目に入ったからだ。


 世界的な自動車メーカー、電機メーカー、巨大ITグループなどそうそうたる企業名の中に、ノーツ財閥の名前がある。


「直前に本部の方からねじ込まれてね。

 大会全体の警備と、競技用ダンジョンの整備を請け負ったらしいが……」


「最近ダンジョンバスター協会本部に熱心にロビー活動をしているらしいですからね、は」


「フェリナ……」


 僅かに寄せられた眉に彼女の苦悩がにじむ。


「ふふ、お気遣いありがとうございます。

 ダンジョンバスター関連の大会ですもの。

 ノーツの影がちらつくのは仕方ないでしょう」


「まあ、彼も財閥の名にキズが付くのは嫌だろうから、変な事はしてこないだろうが」


「ですね」


 そうであって欲しい。

 シローさんの言葉に心から頷く。


「……おっと、すまんすまん。

 つまらない話をしてしまった。

 パーティを続けよう」


「追加の料理を持ってきますね」


 俺はキッチンに行くと朝かじっくり煮込んでいた豚の角煮を鍋から取り出しスライスする。たっぷり旨味がしみ出した煮汁で、リーサたちにおうどんを作ってやるのもいいだろう。


「やたっ! ユウ特製の角煮だっ」


「むっ!? そのカクニというのはどういう食物じゃ?

 先ほどからかぐわしい香りが漂っておるが」


「くくっ……ミアちゃんも魔王時代に色んな美食を経験しているだろうけど。

 お肉が舌の上でとろける……そんな経験をしたことがあるかなっ?」


「な、なぬっ!?

 肉がとろける、だとっ……どういう魔法を使っておるのだ!?」


「愛情、だよっ」


「あ、愛!?」


 本当の姉妹のようにじゃれ合うリーサとミア。

 今さらながら、あの日死闘と繰り広げた魔王様とこうして食卓を囲んでいる事実にほっこりしてしまう。


 まってろ?

 最高のメシ顔をさせてやる!


「それにしても、リーサちゃんも大きくなったな。

 大阪湾トンネルプロジェクトで会った時はまだ子供らしさの方が勝っていたが」


「身長はだいぶ伸びましたね」


 毎日見ているからか、変化に気付きにくいかもしれない。

 1週間ごとに可愛さゲージが5%ずつ伸びている事は確かだが!


「ホントぱないってば! あたしユウっち達の配信全部見てるもん!」


 尊い二人の絡みに顔を緩ませていたレミリアさんがシローさんの隣に座る。


「ふむ……頼りになる若手も育ってきた事だし、来年あたり少し休養して……」


 シローさんはレミリアさんの肩を抱くと、にやりと笑う。


「お?」


「私たちも跡継ぎを作ろうか」


「!?!?!?!?

 ちょっ、えっ……もうぅぅぅ♡」


「あ、レミリアお姉ちゃん真っ赤になった!」


「ごちそうさまです♪」


「もう! あたしのキャラじゃないのに!!」


 レミリアさんの可愛いリアクションに、賑やかな笑い声が家の中に満ちるのだった。

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