第50話 シローの提案

「凄い! リーサたち大人気だよ!!」


 リーサが見ているのは大手ニュースサイト。

 そこには、とあるダンジョンバスターが始めたダンジョン攻略配信が大バズリしたことが書かれている。

 俺たちの事だ。


「累計動画再生回数は1000万回を突破、サポーターも5000人を突破か」


 これだけでも、月に100万円程度の収入になる。

 安定はしないが、投げ銭を含めればもっとだ。


「ねえユウ?

 これでフェリナお姉ちゃんの無駄遣いをフォローできる?」


「うぐっ!?

 こっ、こここ今月は30万円しか課金していませんよ!?」


「……リーサちょーっぷ!」


 べしっ!


「ぐは~っ!?」


「……余の食費は大丈夫かの?」


 フェリナの教育はリーサに任せるとして、自分が食べ過ぎている事を気にしているのだろう。

 椅子に座る俺の膝に手を置き、上目遣いで見つめてくるミア。

 真っ赤な双眸な潤み、尻尾は不安そうに揺れている。


 くっ……この魔王様あざといな!


「……ああ、問題ない」


 ダンジョン攻略配信作戦の効果で、今月の収支はなんとかなりそうだ。


「そ、それだけではないですよ!」


 リーサのお仕置きチョップ(結構痛い)をかいくぐったフェリナが、おでこを押さえながら何枚かの書類を見せてくれる。


「これは……カタログ?」


「はいっ!」


 ふんすっ、と胸を張るフェリナ。


「配信収入と投げ銭はしょせん水ものです。

 安定収入の為に……こんなものを用意してみました」


「ダンジョン配信スターターキットの販売及び、コンサルティング?」


 カタログの表題をそのまま読み上げる。


「はいっ」


 大きく頷くフェリナ。


「わたくしたちの”成功”は、ダンジョンバスター協会内でも大きな話題となっており……」


「ふむ」


「ダンジョンバスター業務の知名度向上と、中~低ランクダンジョンバスターの生活安定を掲げて、協会の方でも動画配信の推奨をすることになりました」


「つまり?」


「ダンジョン内での通信速度をアップさせる”アミュレット”と、配信のノウハウ……それを、これからダンジョン攻略配信をするダンジョンバスターたちに(高値で)販売するのです!」


「おお!」


「これこそが、一番おいしいビジネスですね!」


「いま月額契約をすれば、配信用カメラ付きアミュレットがもう一つ特別価格で!

 金利手数料は弊社が負担!!」


「あくとくしょーほー……」


 さすがノーツ家で英才教育を受けていたフェリナである。

 ビジネスに関するセンスはピカイチだ。


「……それはそうと、無駄遣いをしていい訳じゃないぞ?

 なんで事務所の執務机が最高級のマホガニー製に変わってるんだよ?」


「ぬはっ!?

 いやそのあれはその……セールで安かったので」


 このギルドマスターさんは部屋の模様替え(という名の家具総入れ替え)が趣味だ。

 いくら事務所の内装とはいえ、経費で落とすにも限度がある。


「いいのじゃぞ、フェリナよ。

 己が欲望に抗うのは自然とは言えぬ……ほら、余も遠慮せぬゆえ」


 蠱惑的な笑みを浮かべたミアが、床で正座するフェリナを背後から優しく抱きしめる。しゅるる、と長い尻尾がフェリナの頬をくすぐる。


「ああっ、ミアちゃん……貴方はわたくしの味方なのね」


「……共犯者を作ろうとすんな、ミア!」


 ミアにはお小遣いを渡しているが、ゲームへの課金で全額使ってしまったようだ。


「リーサ、これは」


「おしおき、だねっ!」


 沢山金を稼げるようになっても、締めるところは締めるのだ。

 俺はリーサと頷き合うと、教育的指導を開始する。


「ひゃああああああっ!?」

「ぎにゃ~~~!?」


 今日も明石家は賑やかである。



 ***  ***


「突然すまないね、お邪魔するよ」


「ぬっは~~~~~!!

 リーサたんにミアたん、フェリたんもこないだぶぅりぃいいいいいいいいい!!」


 ごん!


「ふぎゅっ!?」


 いつも通りなレミリアさんとシローさんが訪ねてきたのは、フェリナとミアに反省文を書かせている最中だった。


「シローさん、レミリアお姉ちゃんいらっしゃい!

 すぐにお茶を淹れるねっ!」


「リーサたんのお茶(意味深)!」


「……シローさん、それは?」


 レミリアさんへのツッコミはもうあきらめている。

 俺が気になったのはシローさんの荷物だ。

 数冊のバインダーに閉じられた資料と……アレはポスター、だろうか?


「君たちのダンジョン攻略配信は私たちも見たんだが……」


「……ちょっとやりすぎでしたかね?」


 硬派を良しとするダンバスから見れば、ちょっとはっちゃけ過ぎだったかもしれない。


「いやいや、それどころかユウ君たちの動画は世界ランカーたちの間でも評判でね。

 こういうことをもっと盛大に出来ないかと話題になったんだ」


「マジですか」


「それに日本協会だけでなく、ジュネーブの本部も食いついてきてね」


 ダンジョンバスター協会の総本部が!?


「ダンジョンバスター業務の知名度向上と、協会全体の収入アップを期待して」


 右手に持ったポスターをテーブルの上に広げるシローさん。


「私たち主導でこういう企画を進めているんだ」


「世界ダンジョンバスター……競技大会!?」


 でかでかとポスターに書かれた文字が目に飛び込んでくる。


「コイツに……日本代表として出てくれないかい?」


「えっ、えええええええっ!?」


 思わぬ申し出に、目が点になる俺なのだった。

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