第45話 ギルドの資金繰りがヤバい

「むむむむ……」


 今日は月末……会計ソフトの画面が表示されたノートPCを前に、俺は唸り声を上げていた。


「どうしたの? ユウ」


 ミアと対戦ゲームで遊んでいたリーサが、心配そうな顔でこちらにやってくる。


「ぐぬぬ……この余が、魔界に並ぶものなしと言われた余が15連敗じゃと!?

 修行じゃ! 修行するぞ、ドレイク!!」


 がうっ!


 すっかり座敷犬と化したドレイクがミアの対戦相手を務めるようだ。

 ドラゴンは知能が高いとはいえ……肉球でどうやってコントローラーを操作するのだろう?


「ああ、ウチのギルドの帳簿処理をしていたんだが……」


「ふむふむ」


 俺の膝の上にちょこんと座ってくるリーサ。

 相変わらず可愛すぎる。

 おひさまの香りがするリーサの尻尾は最高の感触だが……。


「ぐえ!?」


 会計ソフトに表示された数字を見たリーサがうめき声を上げる。


 ノーツ財閥の傘下を離れ、独立を果たしたF・アカシアギルド。

 営業や協会本部への報告書などの事務作業はフェリナが担ってくれているので、せめて会計仕事くらい手伝おうと申し出たのだが……。


(ギルドの会計が、こんなにどんぶりだったとは!!)


 ノーツ財閥の傘下だったので、あまり細かく管理しなくてもよかったのだろう。


「ざるざる……」


 それを差し引いても、ギルドの帳簿はルーズだった。


「ギルドの運営についてはあんなに有能なのに……」


「そういえば、こないだゲームでガチャ回し過ぎてクレジットカード止められたって笑ってた」


「…………」


 フェリナの金銭感覚については再教育を施すとして……。


「たちまち、今年度中の金策だな……」


 なにしろ、現在の明石家は4人と一匹家族なのだ。(生活力皆無のフェリナ含む)


「まず新居とクルマのローンが月に50万円だろ」


「けーひで落とす?」


 ギルドの事務所はフェリナのプレハブの1階にあるので、母屋とセットで登記することで何とかなるかもしれない。


「それは税理士の先生と相談だな」


「問題はミアの”食費”だ」


 俺は画面上で輝くひときわデカい数字をタッチする。

 オーブをミアに取り込ませることで、スキルポイントの消費は月に30万にまで抑えられた。


「末端価格でさんぜんまんえん……」


「末端価格って言葉は、イメージが悪いからダメ」


 30万ポイントくらいならいまの俺たちで稼げなくも無いが、ノーツ財閥の傘下を離れたことで以前より美味しい依頼が取りにくくなったため、ある程度は市場で購入して補填している。


「これが月に300~500万円……」


「やべぇ」


 さらに、リーサとミアが無意識に使ってしまう”魔法”の影響で腹ペコ娘たちの食費も絶賛上昇中だ。


「さらにさらにだ」


 フェリナが設置したギルド事務所兼フェリナの自宅であるコンテナハウス。

 最新設備をふんだんに詰め込み、耐震強度もばっちりなコイツは……なんと1億円以上もするらしい。


 ノーツ家を飛び出し、まだ二十歳のフェリナの貯金に期待は出来ないわけで。

(ていうか、ほぼゼロだった)


「ぐぐぐぐぐぐっ……!」


 かくして、我がギルドと俺のお財布は絶賛赤字突入中なのだった。


 ======

 ■個人情報

 明石 優(アカシ ユウ)

 年齢:25歳 性別:男

 所属:F・アカシアギルド

 ランク:B

 スキルポイント残高:21,200

 スキルポイント獲得倍率:560%

 --->増減予測:

   剣技スキル+10%、魔法スキル-25%、被ダメージ-N/10%、与ダメージ+N/10%

 口座残高:12,510,000円

 称号:ドラゴンスレイヤー

   災害迷宮撃破褒章

 ======


 このままだと、年明けには借金生活。

 シローさんとレミリアさんは、困っているなら手を貸すよと言ってくれているのだが……。

(ちなみに、おふたりは書類上だけの所属なのでギルド的には支出も収入もほぼない)


「まずは自分たちで何とかしないとな」


「らじゃー! とりあえずフェリナお姉ちゃんをしどーしてくるね!」


 しゅたっ、と敬礼したリーサが、フェリナのコンテナハウスに突進していく。



「あ~~!! フェリナお姉ちゃんまたなんか買ったの!?

 リボ払いはダメだって言ってるでしょ!!」


「ふええええええええっ!?

 こ、これは通信速度が10倍になるアミュレットで……」


「そんな便利なものあるわけないでしょ、詐欺だよ!」


「ぐはっ!?」


 金銭感覚壊滅中のギルドマスターさんはリーサに任せるとして……。

 何とか現金収入が欲しい。


「くそっ、このままではらちが明かぬ!

 ドレイク! 大魔導士が言っていた参考文献をみるぞ!」


 がうがうっ!


「……お?」


 いっこうに上達しない事に憤慨したミアが、動画サイトでゲームの攻略動画を見ている。


「ほう! コイツは面白いのう!!

 ”投げ銭”ぽちっ」


「……おいっ」


 いつの間にそんな文化を覚えたのか。

 無邪気に投げ銭をするミアに頭痛がしてきたのだが……。


「まてよ?」


 その時、一つのアイディアが俺の脳裏に浮かんだのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る