第15話 スキルポイントバグの謎を一部解明する

「よ、よし。

 リーサの魔導書に話を戻すぞ」


「うん!」


 ……まだリーサはニヤニヤしているが、ここで触れるとからかわれるので我慢する。


「この魔導書は、大陸きっての大魔導士と期待されていたリーサ・レンフィードが持てる知識の全てを記したもの」


「……あう、魔法の知識のほとんどは、転生時に抜け落ちちゃったんだよね。

 力が残ってたら、もっとユウを助けられたのにな」


 リーサのおぼろげな記憶では、最期の力を振り絞ったかなり無理な転生だったようで、リーサは過去の記憶やスキルの大半を忘れていた。


「ユウとの甘い日々の記憶はしっかり残ってるけどねっ♡」


「うっ」


 リーサいわく、強烈に魂に刻み込まれた記憶は世界を渡っても残るらしい。


「にひひ~」


 ……いったんその話は置いておこう。

 向こうの世界で俺は剣士として戦っていて、魔法はそんなに得意じゃなかった。

 だが、リーサと共に過ごす時間の中で魔法の研究に付き合ったり、時には実験台になったりした。


 その時に得た成果の全てを記したのがこの本……多分向こうの世界的には超SSRのヤバいブツだ。


「結局俺は魔法の事はよく理解できなかったけど、リーサが良く使っていたこの文字(?)の事は覚えていて」


 俺は魔導書を開くと、末尾に綴じられた”付録”を開く。

 ソイツは何重にも折りたたまれ、広げると二メートル四方ほどの大きさになる。


「確か、リーサは”ルーン文字”とか言っていたような」


「……う~ん…………あっ、そうか!」


「”魔法”の”構成言語”!」


 何かを思い出したのか、ぽんと手を叩くリーサ。

 たまに何かをトリガーとして、知識の一部が復活することがあるらしい。


「構成言語?」


「うん!

 こっちの世界でいうプログラム言語、みたいなものかな?

 詠唱者の魔力とマナに反応して魔法を発動させるんだ~」


「なるほど~、ユウはこのルーン文字と”スキル取得倍率”に表示される文字が似てるって思ったんだねっ!」


 知識が戻って嬉しいのか、うきうきのリーサ。

 先ほど回転させたスキルポイント獲得倍率文字のデータを印刷し、ルーン文字と見比べる。


「確かに……にてるね!」


 思った通り、逆さまにした平仮名と記号が、ルーン文字の1つと相似するように見える。


「わたしもルーン文字について全部を”思い出した”わけじゃないけど……」


「あ~、これが”1”かっ!」


「うん、いけそうかも!

 2~3時間貰ってもいい?」


 何かを掴んだのか、目をキラキラとさせるリーサ。

 ここは専門家に任せた方がいいだろう。


「あまり根を詰めすぎるなよ?

 その間に俺は晩飯を作っておくよ」


「メニューは?」


「お肉たっぷりのビーフカレー」


「!! やった~! ユウだいすきっ!!」


 魔導書にかじりつくリーサを横目に、とびっきり美味しいカレー作りに勤しむのだった。



 ***  ***


「それで、どうだった?」


「ふひひ~、バッチリだよ!!」


 2時間後、じっくり煮込んだはちみつたっぷりのビーフカレーが出来上がると同時に、リーサの作業も終わったようだ。


「ごはん食べた後に説明するねっ!」


 よほどうれしいのだろう、満面の笑みでぱくぱくとビーフカレーを口に運ぶリーサ。


「ふはぁ! やっぱりユウのカレーライスは世界一だよ!」


「……市販のルーだけどな」


 リーサは本当においしそうに俺の料理を食べてくれる。

 底辺ダンバス生活が長く、リーサにはいろいろ苦労を掛けてしまったけど、これからは絶対もっといい生活をさせるんだ。


「もう、わたしはユウがそばにいてくれるだけで……美味しいご飯を食べさせてくれるだけで幸せなのに!」


 にこっ♪


 スプーンを持って微笑むリーサは、拝みたくなるほどに尊い。


「おかわりも食え……デザートもあるぞ!」


「わ~い!」


 料理に込めた愛情はそのままに、食材のレベルが数段上がった明石家の食卓は、今日も賑やかである。



 ***  ***


「はふぅ~食べた食べた。

 それでね、さすがにわたしもルーン文字の全部を思い出すことは出来なかったんだけど……」


「ふむ」


 夕食の後、改めて魔導書を床に広げたリーサは、俺に”成果”の説明をしてくれる。


「1から9、0の数字をマッピングすることが出来たんだ」


 ぴっ


 リーサが俺のスマホをPCに繋ぎ、何かのソフトをインストールする。


「これは、さっきわたしがつくったダンバスアプリの”プラグイン”。

 スキルポイント獲得倍率の文字列とルーン文字を紐づけて……数字として表示できるようにしてみましたっ!」


「マジか!」


 リーサの言葉に、俺は慌ててアプリを開く。


 ======

 ■個人情報

 明石 優(アカシ ユウ)

 年齢:25歳 性別:男

 所属:F・ノーツギルド

 ランク:C

 スキルポイント残高:13,500

 スキルポイント獲得倍率:250%

 口座残高:3,910,800円

 称号:ドラゴンスレイヤー

 ======


「おおっ、凄い!」


 意味不明な文字列が並んでいたスキルポイント獲得倍率が、数字に変わっている。


「まだ分からない部分も多いから、1000%……10倍までしか表示できないけどね」


 それでも十分だ!


「ありがとうリーサ!

 さすが大魔導士、だな!」


 感動した俺は、わしゃわしゃとリーサの頭を撫でる。


「えへへ~、それほどでも」


 ふにゃふにゃと相好を崩すリーサは神掛かってカワイイ。


「とりあえず、10倍以上にはリミットを掛けておくね」


「頼む!」


 ポイント倍率は何倍まで上がるのか、なぜDランクダンジョンでアイテムガチャが出現したのか。

 分からない事は多いけれど、ポイント倍率の一部が見えるようになったことは大きな前進だ。


 俺はリーサを撫でながら、さっそくダンジョンに潜ってみようと思うのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る