第4話 レックスの覚醒

「これは驚いたな……」

「誰だよおっさん」

「そんなことはどうでもいい、それより、その女は死ななければならない。そして、お前もだ」

 熊はそう言うと背中から巨大なハンマーを取り出し、レックスめがけて勢いよく振り下ろしてきた。


 ズドガアアァァン!!!!


「うわっ!!」

 レックスは間一髪で避けると、地面が大きく凹んでいた。

(なんて威力してやがる!あんなのくらったら一発アウトじゃねぇか!)

 レックスはリンカを抱えてその場から離れた。

「リンカ、ここは逃げるぞ!」

「うん!」

「させないよ、ふんっ!」

 熊はハンマーをぶん投げ、入口を破壊し塞いでしまった。

「あっ!くそっ!」

 行き場を失ったレックスは立ち止まった。

「レックス、私を置いて行って」

「何言ってんだ!んなことできるわけないだろ!」

「私は足手まといになるだけなの……だからお願い……」

 その時熊はハンマーを構え、二人に向かって猛スピードで迫ってきた。

「チイッ!!」

 レックスはリンカの前に立ちふさがり振り下ろされたハンマーの一撃を両腕で受け止める。


 ズドォン!!


「ぐうっ!」

 だが力の差は大きく、徐々に押されていく。

「レックス!!」

「ぐぬぬぬぬ!!」

 レックスは歯を食いしばりながら耐え続ける。

「無駄だ、諦めてさっさと死ね」

 熊はさらにハンマーを振り下ろす腕に力を籠めていく。レックスは牙を剥き出しにし、汗だくになりながら全身でハンマーを受け止めていた。

「ぐおぉぉぉぉぉおおおおおおあああああ!!!!!!」

 レックスが体力の限界をむかえようとしていたその時、レックスの身体に異変が起きた。急に成長し始めたのだ。一回り、二回りと身体が大きくなり、腕や尻尾はさらに太くなっていく。

(何だ!?力が溢れてくる……っ!)

 レックスは徐々にハンマーの抵抗を感じなくなり、逆に押し返していった。

「な、なにぃ!?」

「うおぉぉおらあぁっ!!」


 ドガアァンッ!!


 ついに熊を吹き飛ばすことに成功した。レックスは改めて自分の身体を見て驚く。

「な、何だこれ……すげぇ」

 レックスの身体は倍以上に大きくなり、あの熊とほぼ同じくらいの身長になっていた。筋肉も大きく膨れ上がっていて、服は破けてしまっていた。

「ぐぅ……まさかこんなことが……」

「へへ、さっきまでの俺とは一味違うぜ」

「面白い、ならば本気で相手になろう」

 熊は地面に爪を突き立てて岩盤ごと持ち上げると、それをレックスへ思い切り放り投げた。

 レックスは大きく振りかぶり拳を強く握りしめると、腕がボゴッ!と膨れあがり血管が浮き出てきた。そして、迫りくる岩に向けて渾身のパンチを放った。

「オラアッ!!」


 ドガアァァアンッ!


 轟音と共に衝撃波が発生し、岩石は粉々になって吹き飛んだ。

 しかし油断はできない。熊が横からハンマーを構えて猛突進してきていたのだ。

「死ねええぇ!!」


 ズドオオンッ!


 レックスは全身で熊のハンマーを受け止めた。

「ぐっ!」

「ほう、なかなかやるな。だが、その我慢はいつまで持つかな?」


 ドガガガガッ!!


 熊は何度もハンマーを叩きつけてきた。押されていたレックスだが、不意に口元に笑みを浮かべた。

「ん?」

 それに気づいた熊が一瞬だけ攻撃の手を緩めてしまう。レックスはこの隙をつき、熊に強烈なボディブローを放った。


 ドゴォン!!


「ぐぬっ……!」

 熊はたまらず後ろに飛び退いた。

「この身体にも慣れてきた。そろそろ俺も本気で行くぜ!グオオオォォォォオオッ!!」


 ドンッ!!


 レックスの胸筋が凄まじい轟音とともに膨張した。衝撃波も発生し、塵や小石を吹き飛ばしていく。レックスの身体は反動で仰け反り、胸筋を見せつけるような姿勢になった。巨大化した胸筋はまるで鎧のように固く盛り上がっていた。

「な、なんだその力は……」

「いくぞ!!」

 レックスは地面を踏み砕きながら猛スピードで熊に迫ると、拳による連続攻撃で熊に畳み掛ける。


 ズガガガガッ!!ドガアァッ!!ドゴオオンッ!!


 レックスの怒涛のラッシュは留まるところを知らず、それどころかさらに勢いを増していった。

 熊も負けじと対抗していたが、次第に追い込まれていき、とうとう膝をついてしまった。

「ば、馬鹿な……この私が……」

 レックスは拳を構えて力を溜めていた。


 メキメキッ、ボゴォ!!


 レックスの腕が更に膨張し、まるで大砲のように変形した。レックスは巨大な腕を思いっきり振りかぶって、そのまま勢いよく殴りつけた。

「これで終わりだぁっ!」


 ズッドオオオォォンッ!!


 直撃を受けた熊は壁をぶち抜きながら一瞬で吹き飛んだ。

「ふぅ……終わったな」

 しかし、今度は建物が崩落し始めた。

「きゃあ!崩れるよ!」

「リンカ!」

 レックスはリンカのところに向かうために足に力を入れた。


 ズンッ! ボゴォ!! バキィ!


 足の筋肉が盛り上がり、床に大きな穴を空けてレックスの身体を前に打ち出した。レックスはリンカの前まで来ると、リンカを瓦礫から守るように抱きしめた。その直後、天井が崩れ落ちて二人を下敷きにした。

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