第六話〈英心の執着〉


「蓮が、晴明殿の……!?」


 驚愕したのは泰正だけでなく、英心も同じ心境なのは、頬を引きつらせた様を見ればわかる。


 思考が混乱して無意識に唸ると、蓮が丁寧に説明した。


 蓮はこの世界に並行した別世界からやってきた。

 その世界の晴明は妻子を持ち、その血は未来に繋がり、蓮が受け継いだという。


「僕は、様々な時代の鏡の破片を集めて作られた装置を使って、鏡達が繋がり導く、時空を監視する事が役目でした」


 ある時、泰正達の平行世界のこの世界に異変を察知して、千景の声を聞いた事や、久遠が装置を使って勝手にこの世界に来てしまい、追ってきた事実を切々と話した。

 元の世界に戻る確実な術はないが、緋那

 によれば、可能性があるならばと導き出されたのが、先程の八咫鏡の話につながる。


 蓮は、さらに驚くべき事実を告げた。


「く、久遠は道満の血筋の者だと!?」

「それは……なんとも……」


 今度は英心が狼狽える隣で、泰正が静かに首を横に振る。

 二人を思い浮かべれば、共通する雰囲気があるのは感じ取れた。


「……ハハハッ」

「英心?」


 急に笑った英心が気になり、泰正はを見た――その目に釘付けになる。


 ――瞳が、赤い!?


 泰正はハッとして緋那を見た。

 緋那の隣で沈黙していた紅紗が、神妙な顔をしてこちらを睨んでいる。

 緋那は、紅紗と顔を見合わせて頷いた。


「英心よ、お主の魂に変化を感じたが……その気は、永響であろう」


 ――永響……、だと?


 泰正は英心に向き直り、顔を覗き込む。

 彼は微笑を浮かべて、泰正の頬に指を這わせた。

 ひやりとした指先に、身震いする。

 泰正は、不安に苛まれた。


「ま、まさか、英心、お前は永響にのまれて……?」

「……泰正、お前は、私のもの……永響なぞに、渡すものか……!」


「英心!」


 泰正が呼ぶ前に、緋那が呼び、英心は前のめりに倒れ込む。

 泰正はとっさに支えた。


「英心!! しっかりしろ!!」


 脱力しているが、呼吸をしていたので、眠ったらしい。

 緋那を見据えると、おもむろに口を開いた。


「大事ない。伊勢に参るのはそやつを助けることに繋がる筈じゃ」

「緋那様…」

「緋那様? このままでも、英心様なら問題ないのでは」


 紅紗の疑問に、顔を振った蓮が口を挟む。


「浄化できるなら、そうした方が良いかと」


 泰正は力強く頷き、肯定の意を示した。


「英心がこうなったのは、私に責任がある。必ず、私が助ける!」


 一月後、新しい斎王が伊勢に遣わされる

 。特別に泰正達を群行に加えさせてやると意気込む緋那が、準備を整えたら文で知らせるといって、ひとまずは解散となった。


 泰正の心中は、眠る英心を見つめてざわめく。


 ――蓮や、久遠も、元はといえば、私を案じてくれた千景の想いが導いた……元凶は、私だ。


 誰かを大切に想う気持ちが、災いをもたらすこともある。


 伊勢にて何が待つのか……英心の頬に触れて、彼の幸せを祈った。



 運命の岐路は迫りくる。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る