第七話〈泰正の決意〉

 異空間は今まで通りに晴明が監視する事となったが、帝が目を覚ました事により、事態は急変した。


 適切な治療を受けた泰正が、心身共に問題なく回復できたのをきっかけに、背負っていた業の浄化を試みたのだ。


 鬼神に取り憑かれ、都に異空間に繋げる入り口を開いてしまった事、別次元からやってきた蓮をかくまい、彼に関わる久遠を暴走させた事、道満を刺激した事……永響の事……。

 これらをふまえ、帝に文を出し、都から去ると進言した。


「泰正様が何をしたっていうの!?」

「……千景」


 英心は泰正から千景を託され、彼女を屋敷に迎えていた。

 異空間にて泰正が意識を失って、彼が治療を受けて目を覚ました後、二人は顔を合わせられていない。


 何も言わずに、都から去ってしまった。


 あの久遠や道満も都から消えてしまい、佐々斬や和泉も、消息が不明である。


 英心は、直接泰正や永響に確かめたわけではないが、千景が一番の元凶ではないのかと考えていた。


 ――泰正、お前と私はまだ、夫婦だぞ。


 後日、晴明の屋敷に出向いた英心は、帝の様子を伺ってみた。

 晴明は酒を煽りながら、口元を緩める。


「魂が抜け出して我らと関わっていたのだ。体力気力ともに、回復されるには時間がかかる」

「泰正とは随分違うな」

「おや。泰正殿や英心殿達は、もともと特別な存在であろう?」

「……どういう意味だ」

「はて。それより、泰正殿が心配であるなら、天照の主を訪ねると良い」

「ま、誠か?」

「うん」


 飄々とした様子で頷いた晴明に苦笑するも、胸が希望で高鳴り始めた。


 ――私は、泰正、お前と共にいたい。


 ぼんやりとした頭で道をゆく。

 少し歩けば汗ばむ季節を迎えた。


 ふいに永響について考える。


 ――泰正の私への想いは、あの異形を包み込んだ。


 唇を重ねる二人を思い出して顔を振った。


 とにかく今は、天照一族の主の元へ行かなければ。

 遠くの空が光った。

 ほどなくして水玉が肌を叩きつける。


 英心はずぶ濡れになるのも構わず、濡れた地面を踏みしめて、しっかりとした足取りで歩いていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る