第八話〈蓮と久遠〉
蓮は千景に部屋に通され、お茶を出してくれた彼女と向きあって座り、泰正の状況を話した。
話を進めるうちに、千景の目はだんだんと輝いて、ついには潤み、嗚咽をもらしながら手元を両手で覆う。
「泰正様は、ぶ、無事なのね……!」
「はい。今は主の元で保護されてます。状況が落ちついたら、また、会えますよ。安心して下さい」
「あ、ありがとう……! 貴方のおかげね……!」
「え!? 僕は間に合わなかったし、晴明さんが助けてくれたから」
「何言ってるのよ? 貴方がとっさに鏡を使ってくれたからじゃない! 本当に……本当にありがとう!」
力強く手を握りしめられ、何度もお礼を言う彼女に、蓮は参ってしまう。
千景を落ちつかせると、今後について話をつけた。
今は泰正が生きている事実を伏せて、目立たぬように過ごす事、晴明の式神が護衛につく事、英心には極力近寄らず、泰正の話題には触れぬように忠告する。
蓮は、“先輩”を止めるべく、足早に立ち去った。
今頃は、英心が先輩の元に向かっているはずだ。
和泉氏の屋敷に急ぐ。
同刻。和泉氏の屋敷には、紫倉宮英心が乗り込み、主人を追い詰めていた。
主人は怒気をまとう英心に怯えきり、部屋の隅で縮こまりながら、涙目で訴えている。
「そんな男子など知らぬ! 知らぬのじゃ!」
「貴殿が傾倒していたあの男子をしらないとは!? 何処へ逃したのかを答えよ!!」
「ひいっ」
部屋には結界を張り、誰も助けに来られない状態にしてあるが、それでも話そうとしない主人に苛立った。
蓮は、和泉氏の屋敷の様子を、外から確認しつつ、辺を見回して、裏門へと回る。
程なくして目的の人物を見つけた。
桜の木の下で、妖艶に微笑んでいる。
――見つけた……やっと……!
「先輩……!」
「やあ。蓮、こうして顔を合わせるのは久しぶりだね」
相変わらず、何を考えているのか分からない目をした人だ。
蓮は慎重に近寄り、様子を伺う。
先輩の唇がゆっくりと開かれて、心臓がどくりと跳ねた。
「お前の存在価値をなくしてやるから、覚悟しとけ」
「……っ」
穏やかな声音に聞こえるが、憎悪が込められているのを、本能が感じ取り、蓮は息が乱れて、胸元を押さえた。
身体が動かないのに気づき、目を一瞬離した隙に、先輩の姿は消えてしまっていた。
「……久遠先輩」
蓮は、悔しさを込めて声を絞り出し、宙を見つめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます