3.新しい朝と出会いの予感

「みんなーー!集まってーーー!」


緑の妖精が大きな声で子供たちを呼ぶと、たくさんの妖精達がわたしと緑の妖精の前に集まってきた。その場から突然現れた妖精もいれば、仲のいい妖精と手を繋ぎながら飛んできた妖精もいる。


 全部で100人くらいは集まってるのかな?・・・あ、さっきの莢蒾の妖精もいる。


「じゃあ!紹介するわね!!新しい妖精の・・・雷の妖精ちゃんよー!緑の子ではないけど、みんな仲良くしてあげてね!!」


そう言った緑の妖精に背中を押される。


「「・・・・・・・」」


 え・・・? 静まり返っちゃってますけど!?ひそひそと話したり、こちらに笑いかけてくれている妖精もいるけど・・・拍手とか、なんか・・・そういう反応はないの?


「はい!雷の妖精ちゃん!なにか言って!」

「え、え?」

「ほら、早く!」


 なにかって・・・そもそも、わたしはこれからここで生活するの?何も聞いてないんだけど!?


「みんなぁよろしくね・・・」


何かしなきゃと、若干引き攣った笑顔でパチっとウィンクしてみた。恥ずかしい、やらなきゃよかった。一瞬で後悔。


 あ、莢蒾の妖精が手を振ってくれてる。少し救われたよ。


「はい!かいさーーん!!」


 はやっ!! わたし、微妙なウィンクしかしてないよ!?


集まっていた妖精達が一斉に散っていく。あっという間のわたしと緑の妖精だけになった。


「ねえ、わたしってここで生活するの?」


 なんか、当たり前のようにそういう雰囲気になってるみたいだけど・・・。


「生活?そうねぇ・・・それはあなたの自由だけど、ここにいた方が安全よ」

「どうして?森の外には危険な動物がいたりするの?わたしとしては、人間に会いたいんだけど」


 元人間だし。


「人間に会ってどうするの?」


緑の妖精が心底不思議そうに首を傾げてわたしの顔を覗き込んでくる。


「え・・・なんとなく会って・・・友達になったり?」

「友達・・・」


緑の妖精は真面目な顔でなにやら考え込んでしまった。


 そんな真剣な顔で・・・人間に会うのはイケナイことだったのかなぁ? わたしとしては元々人間だし、なんとなくこの世界の人間がどんな生活を送っているのか気になるし、出来れば仲良くなりたいと思ってる。


「人間は私たち妖精をどんな風に扱うか分からないから、あまり近づかない方がいいと思うけど・・・」

「酷いことをするの?」

「瓶の中に閉じ込められたっていう子もいれば、人間と恋仲になった子もいるわね」

「なるほど・・・」


緑の妖精は心配するように眉を下げて、わたしの頬を突いて口を開く。


「だから、しばらくはここに居てゆっくりと考えてみるといいわ。時間はたくさんあるんだもの」

「分かった、そうするよ」


 別に急ぐ理由もないし、しばらくは緑の妖精の言う通りここで生活しよう。


「それじゃ、森の中を案内するわね」

「うん、よろしくね」


ガシッと腕を掴まれて「いくわよ!」と無邪気な笑顔で物凄い力で連れていかれた。


 今更だけど、緑の妖精からちゃんと人の温もりを感じるお陰でだいぶ心が落ち着く。


緑の妖精は、嬉しそうな笑顔で次々と緑の森のあちこちを紹介してくれる。


「はい!ここが大きな木!!あなたが誕生したところね!」

「ここが川! 魚がたくさん泳いでるわ!うっかり食べられないように気を付けてね!」

「ここが湖! あなたの可愛いお顔が映ってるわね!」


 あれ?髪の色と羽以外は人間だった頃と変わってない・・・?あ、少し耳が尖ってる。あと、鏡じゃないから瞳の色は分からないや。


「ねえ、わたしの瞳の色ってどんな色??」

「この湖と同じ、綺麗な青色をしてるわよ」


 金髪碧眼・・・・予想はしてたけど、髪だけじゃなく瞳の色も変わっていた。


「それじゃあ、そろそろあなたの寝るところを決めましょうか」


ひと通り案内が終わったらしい緑の妖精が、オレンジ色になった空を見上げてそう言う。


「寝るところ?」

「ええ、私と子供達は草花や木の中で寝ているわ。でも、雷の妖精は植物の中には入れないでしょう?」

「うん、たぶん・・・」


 もしかして、突然現れる妖精達は植物の中を移動してるとかだったり?


「だから、あなたの寝る場所を探すのよ」

「したっけ、わたしはあの大きな木がいい。枝の上に家を作りたい」


 ツリーハウスみたいな家がいい、それならここの雰囲気にもあってるし、わたしも住みやすそうだ。うん、いい考え。


「家?どんな形の家がいいかしら??」


わたしは近くにあった枝を拾い集めて「こんな感じがいい」と自分の希望を伝えた。


「いいじゃない!!素敵ね!私もそこで一緒に寝ようかしら!子供たちに手伝ってもらえばあっという間にできるわね!」


楽しそうに瞳をキラキラと輝かせた緑の妖精は、そう言い残してビュンっという音が聞こえそうな速さで、大きな木の方へ飛び去っていった。


「あっ・・・」


わたしが大きな木のもとに着いた頃には、1人で住むには大きすぎる素敵なツリーハウスが既に出来上がっていた。


 本当にあっという間だった・・・。


「それじゃあ、中に入って早速寝てみましょう!!」


わたしは緑の妖精にグイグイと手を引かれてツリーハウスの中に入る。当然、中には何もなく、隅の方に葉っぱが集められてるだけだ。


「え、ベッドとかは?」

「大丈夫よ!葉っぱを敷き詰めれば、これ以上ないくらいの最高のベッドが出来上がるわ!」

「そう・・・かな?」


 なんか、肌とかチクチクしそうなんだけど。


「それじゃあ、これからよろしくね!雷の妖精ちゃん!」


全然眠そうじゃない緑の妖精に背中を押されて葉っぱのベッドへと寝かされる。


 これから・・・かぁ。


頭の中で現状を整理する時間もなく、緑の妖精に抱きしめられながらわたしは眠りについた。



そして・・・



「おはよう!新しい朝が来たよ!」


バシーン!!


わたしお手製の抱き枕に抱き着いて気持ち良さそうに寝ている緑の妖精を、葉っぱで作ったハリセンで叩き起こす。緑の妖精はすぐに飛び起きて、わたしを睨む。


「いったーーい!何するのよ!毎朝毎朝変わった起こし方をしてぇ!もっと普通に起こせないわけ!?」

「そんなの、つまんないでしょ??」

「はぁ、生まれたばかりの頃はオドオドしてて可愛らしかったのに・・・」


わたしがこの世界に来てから5年が経った。

あれから変わったことは何もなく、ただ寝て起きてを繰り返す毎日だ。妖精は食事を必要としないらしく、文字通り寝て起きるだけ。ミドリちゃん曰く食べられないわけではないらしいけど。


 ・・・つまり、めちゃくちゃ暇なのだ。何かちょっとした刺激でもないとやってられない。


「5年も緑の妖精と一緒にいれば性格も変わるでしょう」

「ガマくん・・・」

「莢蒾の妖精・・・」


ガマくん、こと莢蒾の妖精が呆れたように肩を竦めながらわたしと緑の妖精を交互に見る。


「つまり、私の影響でこうなったって言いたいのかしら?」


ミドリちゃんが精一杯の怖い顔を作ってガマくんを睨みつけるけど、その顔はまったく怖くない。


「わたしは元々こういう性格だよ!誰の影響も受けてないよ!」


わたしはそう言いながら、持っていたハリセンでガマくんを叩こうと振りかぶる・・・が、突然足元から伸びてきた植物の蔓でハリセンを没収されてしまった。


 こいつは・・・いっつもわたし達を馬鹿にして楽しんでるんだから!


わたしは思いっきり怖い顔を作ってガマくんを睨みつけた。


「ハハハッ、緑の妖精に似て、考えてることが顔で丸わかりだよ」

「「なんですってー!!」」


わたしとミドリちゃんの声が重なった。ガマくんが必死に笑いを堪えて震えている。


「そ・れ・よ・り!どうして勝手にわたしの家に入って来てるの!!」


腰に手を当てて頬を膨らます。


 家に鍵はついてないけど、マナー的に、男の子が勝手に女の子の部屋に入るのはどうかと思うよ。


「あぁ、それはね、緑の森は何故だか人間は絶対に立ち入らないだろう?」

「はい?急になんの・・・」

「人間の子供が森に入って来てるんだよ」

「え・・・」


わたしの後ろでミドリちゃんが「私の家よ」とボソリと呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る