第33話 六層
六層は真っ白な砂が広がる場所。砂漠とでもいうべきか。白砂漠と名付ける。気温は涼しい風が吹いているので過ごすに適していると言ってもいい。
周りを見回してみると、白い砂が丘になっていて遠くは見渡せない。けれど丘の上に上がれば見渡すこともできそうだ。
「綺麗……」
「はい……幻想的です……」
アリスとクロエが声を上げる。僕も全く同じ感想が口に出そうになった。
「さて。ここからが本番だね」
「は~い!」
みんなと一緒に白砂漠を進んで行く。僕の四体の精霊、クロエの二体の大精霊が僕達の周りを泳ぐ。みんなどこか楽しそうにも見えて、周りを警戒してくれるところが頼もしくも思える。
丘を越えたあたりで、魔物の姿が見え始めた。白い景色の中、黒い色をしている魔物が目立つ。二メートルのサソリ型魔物が見えた。
「私から行きます! ――――マジックアロー!」
クロエが構えた弓に魔法矢が現れる。放った魔法矢がサソリに当たると精霊たちの攻撃も始まる。
僕もアリサも何もせず魔物が倒された。
当たっている魔法の量から鑑みると、五層にいる魔物より三倍程強い。それに動きも五層の魔物たちよりもずっと速いし攻撃も強力そうだ。
暫く狩りを行って、セリナさんの家に戻った。
◆
「わああ~! デザスコーピオンの尻尾! 心臓! デザワームの革! 骨! なんて素晴らしいのよ~!」
セリナさんが大量の素材に目を光らせる。
「それにしてもアレン様の〖ブレッシング〗って凄いですね~こんなにもドロップ品が増えるなんて」
「アレンくんって凄いんだから!」
「アリス様が自慢した!?」
「えっへん!」
アリス
「いやいや。僕はいつも助かってるよ。アリスって誰よりも先行して戦ってくれるし、ずっと僕に魔物が向かないように魔物の壁になってくれつつ、魔法の射線を作ってくれるんだ。その時でもすぐに僕と魔物の間を割ろうとしてくれているよ」
アリスの顔が真っ赤に染まっている。
「いつもありがとうね。アリス」
「!? う、うん!」
「いつもクロエの間も入れるようにしているから、今日はもっと凄かったね!」
「あ、あう……え、え、えっと…………えへへ……」
いつもだと満面の笑顔のアリスとは違って、もじもじしているアリスも可愛い。どうしてだろうか?
「アリス様。アレン様もちゃんと見てますね!」
「そ、そうね……もっと見直したかも……」
「私もです~」
二人がコソコソ何かを話す。その後、ニヤニヤしながら僕を見つめる。
「ふ、二人ともどうしたの?」
「ううん。何でもないよ~。それよりセリナさんがそろそろ元に戻るよ」
指差した方向に視線を向けると素材に目を輝かせていたセリナさんの表情が少しずつ戻っていく。
「はっ! レア素材に見取られてしまった~!」
「セリナさん。それは高く売れそうですか?」
「もちろんよ~! 今までとは比にならないくらい高いのよ?」
「そうなんですか?」
「アレンくんって六層に行ってきたんでしょう?」
「ええ」
ちゃんと六層の白砂漠で倒している。
「六層ってものすごく戦いにくいって聞いているよ?」
「ん? 戦いにくい?」
アリスとクロエが近づいてきた。
「アレンくん。白砂漠だったでしょう? 砂だから普通より重くなかった?」
「えっ? あ~! 確かに歩きにくいな~とは思ったけど、魔法で……?」
「ふふっ。魔法使いはそう多くないし、アレンくんや精霊たちのように連続で撃ったりは普通はできないのよ?」
そういや、以前にも似たことを言われたっけ。
「アレンくん。これからも六層でガンガン狩るんだよ?」
「え、ええ」
その日からいつもと変わらない狩りを始めた。
三日間同じことを繰り返し六層で狩りを続ける。
ダンジョンに入ってから四日目は、六層から歩いて一層まで戻り、ダンジョンから迷宮都市に出る。
ダンジョンの中も眩しいけど、外のそれとは比べ物にならない。外から照らす太陽の光は眩しすぎるほどだ。
「や、やっと外に出られたぁ…………」
「はあはあ……」
アリスとクロエも疲れた足を引きずりダンジョンから外に出た。
「四日が限界だね……」
「そうね……さすがに私も限界かも……」
僕達は真っすぐセリナさんの家に戻って行った。
「演技の方が疲れるかも~」
家に入ってすぐにアリスが大変そうに声をあげる。
「でも私達に視線を向けていた人がいるので、間違いないと思います」
どうやらクロエも気づいたようだ。
「みんな、お帰り。明日は私の護衛よ」
「「「は~い」」」
その日はゆっくりと休み、次の日はセリナさんを護衛して素材を売りに行く。
今のセリナさんは狙われるくらい迷宮都市の中では有名だ。今じゃ明るい時間ですら大通りですら危険だ。
次の日にはまた同じようにダンジョンに歩いて戻る。
そんな五日間を四回繰り返した。
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