第24話 帰還
ダンジョンの中は常に明るい。不思議な明かりによってどこにいても暗いと感じることはない。
最初に訪れたダンジョンは、僕にとって絶望の象徴であり、ここからすぐに逃げ出したかった。でも今はたくさんの出会いと自分が努力できる場所として、僕にとっての光となっている。
レンガ作りになっている玄関口を久しぶりに訪れて、訪れた時から逆行する。
緊張した面持ちで一歩ずつ外に向かうと、そこには
ダンジョンは迷宮都市ヘブラスカの高台に入口が設置されている。一番の理由は中から魔物があふれ出す現象――――スタンピードの際、いち早く全ての住民が見れるようにとのことだ。
月明り一つない曇った空が久しぶりの俺の帰還を拒むかのように、冷たい風を吹かせて肌を刺激する。
前を歩く巨大なリュックを、僕とアリスが一緒に追いかける。
道は迷宮都市の運営費で綺麗に整備されていて、きっちり並んだレンガ道を歩いて進む。横幅は二十人が並んでも歩けるくらいには広い。というのも入口まで馬車が走ったりするからだ。ちょっとした高台だから無駄に体力を消耗するくらいなら馬車で来た方がためになるからね。
落ち着かない心臓の音を抑えながら歩き、また歩く。
ダンジョンのゴツゴツとした道とはまた違って、綺麗に整備された道は歩きやすいけど、ダンジョンよりも足が重い。
夜明けまでもう少しという夜の時間帯にも関わらず、まだ明るい場所もある。酒場なのか賑わっているが、窓から映る建物の中では眠り落ちている冒険者も見かける。
【絶望の銀狼団】もこの時間帯でもまだ騒いでいたっけ……。
大通りを堂々と進み、中心部ではなくハズレの方に方向転換したセリナさんが向かうのは住宅が所狭しと並んでいる住宅区だった。広場に近い程に土地代が高いはずだ。
暫く細い道を進んでいくと、こじんまりとした建物が現れて、セリナさんは迷わず中に入っていく。
鍵を開けて扉の中に入り、僕たちもその後に続いた。
「いらっしゃい。私の家だよ。ちょっと汚いけど、私しか住んでいないから気楽にしてちょうだい」
ソファは年季が入ってはいるけど、十分役割を果たしてくれるように綺麗に保たれている。
ソワソワしながらアリスと一緒にソファに座ってセリナさんの帰りを待つ。
玄関から入るとリビングがあって、大きな暖炉もあって冬は薪をくべれば暖かくなりそうだ。
置物は殆どなくて、ソファとテーブルくらいしか目立つ家具がない。
「お待たせ~」
両手にマグカップを三つ持ってきた。中から湯気とともに美味しそうな甘い香りが広がってきた。茶色い飲み物に口の中に唾液が溢れ出る。
「どうぞ。最近迷宮都市で大人気のほろ甘のココアーデという飲み物よ」
「こんな高価なモノを出してくれていいのですか?」
「ええ。アレンくんもアリスちゃんも私にとっては上客だし、これから仲間でもあるし」
アリスはこの飲み物を知っているようだ。
恐る恐る口に運ぶ。香りからでも分かるくらい、口の中にほんのりと甘さが広がっていく。香りだけでなく、甘い水のような。貴族だけが飲めると言うミルティーと呼ばれている高級茶もこんな感じなのかな。
「ものすごく美味しいです!」
「それはよかった」
(!? の、飲んだら減った…………)
「さて、これからの動きなんだけど、アレンくんたちには毎日ここに一度来てもらいたい。地下室があるので、そちらを待機場にしよう。それなら外の目も気にならないはずだからね」
「それは助かります。魔石の欠片とか、ドロップ品とは真っすぐそこに置いておいても?」
「もちろんそれでいいわ。魔素だって無限にあるわけじゃないからね。それにここならゆっくり話せるから、アレンくんたちが欲しいものをすぐに調達もできるからね。今までだと十日に一度だったから」
「何から何まで本当に助かります」
「ううん。アレンくんたちがこれからのびのびと戦ってくれる方が私のためにもなるからね。これから色々情報を集めるから、二人はできるだけ、力を蓄えてちょうだい」
「はい」
アリスも頷いて答える。
「それと毎日〖クリーン〗は掛けてあげるから、アレンくんはもう少しレディーの事を考えてよ?」
「えっ?」
「セリナさん!?」
「女の子には優しくしてあげるのよ? それはそうと――――アレンくん? あまり口に合わなかったの?」
「えっ? い、いいえ! これは…………飲んだら量が減ってしまって…………」
僕の答えに顔を合わせた二人が大きな声で笑った。
毎日出してくれるからと言ってくれて、もったいないなと思いながらマグカップの中に入ったココアーデを全部飲み干した。
それから地下に案内されて、地下倉庫が僕達の集まる場所になった。
念のため休息は地下倉庫じゃなくて奈落にしている。セリナさんを信頼していないとかではなく、外を気にするのとしないとでは訳が違うからだ。
セリナさんのおかげで寝袋まで手に入れたので、久しぶりに仰向けになって眠りについた。
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