第21話 仲間
「アリスさん……?」
「うん?」
「ぼ、僕がそんなことできるわけないの知ってますよね!?」
「え? 知らなかったわ。アレンくんならできるでしょう?」
何かおかしいことを言った? と言わんばかりの表情で僕を見つめるアリスさん。
そもそも僕なんかが冒険者クランを作れるなんて考えたこともなかった。
「むしろ、どうしてできないと思ってるの?」
「そもそも僕なんかが……」
「アレンくんは僕なんかじゃないわ。だってダンジョンでここまで一人で生き抜いてきたし、戦闘の時に使っていたあの杖だって普通の代物ではないでしょう? あれを拾える程ダンジョンはあまり場所ではないから何かしらの方法で手に入れたはず。それくらいアレンくんに期待している人がいるってこと。それに私もアレンくんに助けられた一人だし」
他人から疑いのない視線を今まで経験したことがないので嬉しい反面、少しだけ肩が重いと思ってしまう。
孤児院で過ごしていた頃も、全てのことをシスターがやってくれていた。シスターの細い肩にみんなの命がかかっていたのは言うまでもない。ずっと僕達のために頑張ってくれていたシスターのことを考えると彼女の偉大さが分かる。いつか冒険者となって孤児院のみんなを支援したいと思っていたのを思い出した。
「分かりました。僕に何ができるかはまだわかりませんが、僕も冒険者になりたかった理由があります。それを思い出させてくださってありがとうございます」
「ふふっ。リーダー? 私もちゃんとメンバーに加えてくださいね?」
「えええ!? ぼ、僕がリーダー!?」
「当然でしょう! さて、私がアレンくんからもらったものを今度は返していきたい。だから、これを受け取って欲しい」
そう言いながら右手を前に出した。それが何を意味するのか分からず、脳内に疑問を抱きながら彼女を見つめると、クスっと笑った彼女が続けた。
「『ステータス』ってあるでしょう? あれって本人しか見れないけど、絆の繋がりを持つと共有することができるんだ。それと、一方通行もできる。私のステータスを見れる権利をアレンくんに渡すわ。だからこれからの戦いで有効活用してほしい」
「そんな大事なものを!?」
「私がこの先もアレンくんについていく意思表示だよ。受けてくれるよね?」
ずっと一緒にいても慣れないくらい彼女は可愛らしくて、首を傾げて困った表情を浮かべられるとより迫力を増していき断ることができない。
それに…………本当のことを言うならば、僕も仲間が欲しい。クナさん達のメンバーになってほしいという申し出は心の底から嬉しかったし、僕が抱えた問題さえなければ、今すぐみなさんに会いに行きたいくらいだ。
いつか仲間をたくさん作って、冒険者クランを作る。そんな夢物語みたいなことを夢見ても許されるのだろうか。
でもいつか英雄冒険者になりたいと思っていた。英雄とは色んな人から慕われて仲間に囲まれている。自分が強くなること。それだけじゃなくて信頼できる仲間に答えていく。それも僕が今やるべきことかも知れない。
「わかりました。よろしくおねがいします。アリスさん」
「アリスって呼んで。そもそもアレンくんっていくつなの?」
「僕ですか? 十五歳です」
「…………一つ聞くけど、私は何歳に見える?」
急に満面の笑みを浮かべるアリスさん。この笑顔の意味を僕は知っている。
以前シスターに年齢を聞いた時に「年上の女性に年齢を聞くのは無粋なことよ~アレンくんはそれでも知りたいのかしら~?」と満面の笑みを浮かべて話していたのを覚えている。
「え、えっと…………」
ここの返事一つで僕とアリスさんの関係に大きなヒビが入るのは間違いない。
(どう答えるべきか考えるんだ……!)
するとアリスさんがわざとらしく大きな溜息を吐いた。
「別に困らせようと言ったわけじゃないわ。そもそも私もアレンくんと同じ十五歳だよ?」
「ええええ!?」
「何よその反応……まさか、思っていたよりもずっと年下だったとか言わないよね?」
「ッ!?」
急いで両手で自分の口を塞ぐ。
(お、思ってました…………しっかりしていたから二十歳とかかと…………)
何も答えなくても僕の考えていたことが分かったみたいで、純白な笑顔を咲かせるアリスさん。ものすごく怒っているのが分かる。
「ご、ごめんなさい。ものすごくしっかりしていたから、孤児院でお世話になったシスターを思い出してしまって……」
「そういえば、過去話でもシスターさんのことちょくちょく言ってたわね」
「はい。僕達は彼女のおかげで生き残ることができましたから。僕は
「アレンくんも意外と頑固ね…………それよりも、私もアレンくんと同じ歳だからね? だから私のことはアリスって呼んでね?」
「呼び捨て!? じょ、女性を!?」
確か女性を呼び捨てしていいのは、将来結婚する予定の女性だけだとリアから教わっている。
「さあ、アリスって呼んでみて」
「!?」
「何か不服かしら?」
「い、いえ!」
「言葉使いも……普通に喋ってくれたら…………嬉しいな……」
急にしおらしくなったアリスさんに、また思わずドキッと心臓が跳ねる。
「わ、分かった……これからよろしく………………アリス」
「えへへ~うん! よろしくね!」
今度こそ心の底から笑顔の彼女。握手を交わすと彼女の綺麗な赤色の紋章が光り出す。赤色ということは『戦の神アグウス』様の才能だ。
「これで私のステータスはアレンくんにいつでも見れるようになっていると思う。これからよろしくね。リーダー!」
「う、うん……できる限り頑張るよ」
目の前に彼女の『ステータス画面』が映る。
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名 前:アリス・ディ・セルレジオ
才 能:剣聖
レベル:82
【能力値】
筋 力:B 耐 久:B-
速 度:A+ 器 用:B+
魔 力:E 知 力:E
耐 性:B+ 運 :F-
【ルーン】
・自然治癒のルーン
・自然治癒のルーン
・自然治癒のルーン
【スキル】
〖闘剣〗〖一刀両断〗〖岩切〗〖衝撃斬〗
〖剣舞〗
【マスタリー】
〖剣聖〗〖反応力上昇〗〖回避〗
〖状態異常耐性〗〖能力低下耐性〗
〖精神異常耐性〗〖即死耐性〗〖怯み耐性〗
〖身体能力上昇〗〖自然治癒〗
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ステータス画面を見て絶句してしまう。
レベルの高さもさることながら、魔法に関するステータス以外は全てが高い。中でも速度はものすごく高い。それにスキルやマスタリーまで充実している。
そして、その中でも僕の目を一番引くのは【ルーン】だ。同じルーンが三つ並んでいて、全部が【自然治癒のルーン】だ。
「アリス? どうして同じルーンを三つも着用しているの?」
「それは単純に効果が三倍になるからよ? 聞いた事ない?」
「ルーンって同じモノを複数装着すると効果があがるのか。知らなかった……」
「わりと常識だと思うんだけどね。ただ条件としては才能で手に入れたスキルと同じルーンは複数装着しても強くはならないわ。私が持つ〖回避〗があると思うんだけど、例えば【回避のルーン】を三つ装着しても強くはならないの。できれば【回避のルーン】を装着したかったんだけどね……あのスキルってダンジョンで非常に優秀だから……」
ルーンにそういう秘密があるとは思わなかった。これなら色々検証してみたくなるな。
ただ今は目の前でエサを欲しがる犬のように次は何をするのか楽しそうにしているアリスを見て、検証よりも先に狩りに行くべきだと思った。
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