冒険者見習いはダンジョンの底に落ちて無能と思われた才能で成り上がる~才能【make progress】の意味を知ってダンジョンを攻略して運命の出会いを繰り返し、やがて英雄冒険者に成り上がる~
御峰。
第1話 無能
「戦の神アグウス様。慈悲の神メーラス様。魔法の神エーテリア様。この世界には様々な神様が存在して日々世界に神々の祝福を与えてくださっている。本日、ここに集まった少年少女よ。才能を授かり神々が示した己の道を歩き進むと良い」
祭壇から僕達を見下ろして両手を開いて演説してくださるのは教会の司祭様。僕達十歳になる少年少女たちを集めて――――才能開花式を行ってくださるのだ。
最初の一人目が祭壇に登壇して司祭様から祝福を受けると、彼の体に不思議な光が灯る。
あの祝福は人々に【才能】を与える祝福の光だ。ただし、どんな【才能】を授かれるかによってその先の人生は大きく変わるという。かくいう僕もどんな才能を授けられるのかワクワクしながらその時を待った。
そして、僕の番となって司祭様から祝福を受ける。
僕の体を包むのは――
ルナソル様の才能が外れと言われている理由。それは――――僕の前に広がっている不思議な画面に【make progress】と書かれているのだ。もちろん、意味が全く分からない。何故なら読めないからだ。そう。ルナソル様の才能は誰にも読めないのでどういう使い方ができるのかは試しようがなく、見つけられる人はごくわずかである。
だから、基本的にルナソル様の才能を授かった人は【
自分の右手の甲に刻まれた紋様――ルナソル様を示す三日月が映っていた。
◆
五年後。
「おいおい。無能! それくらいちゃんと運べないのか!」
「は、はいっ! すいませんでした!」
冒険者クランの一つに【絶望の銀狼団】がある。有力な冒険者たちが集うクランの一つで、クランだけが許されているクランハウスを持ち多くの見習いが働かされているのだ。
僕も例に漏れずその一人で、先輩達の料理を運んだりする仕事を任されている。ただ、無能と烙印を押されている僕は当たり風が強くて時折こうしていたずらを受けている。
「さっさと運べ! 無能!」
「はいっ!」
落ちたトレーと食事を急いで片付ける。もう何度も経験しているので慣れたものだ。片づけを終えてすぐに厨房に入ってまた新しい料理を貰って運ぶ。もちろん料理長からはこっぴどく怒られる。
先輩に料理を運ぶと「おせぇぞ!」と蹴り飛ばされる。元々そっちが…………と言い返したくなるけど、僕みたいな雑用の後輩が言えるはずもなく、「申し訳ございませんでした!」と心にもない言葉を叫んで、また次の仕事に戻った。
◆
「はあ……疲れた…………」
ようやく仕事が終わって休み時間となって、屋根裏部屋にあるベッドに横たわる。ベッドと呼べるかすら怪しいが、床で寝るよりは少しだけマシな段ボールの上にシーツを敷いただけのベッドだ。
ふと自分の右手を前に出す。
屋根裏部屋の窓から月の青い光が降り注ぎ、僕の右手の甲の模様を光らせた。
ルナソル様の才能を授かって五年。未だ才能の使い方は分からず、文字を先輩達に見せても笑われるだけだ。
「ステータスオープン」
目の前に不思議な薄い青い画面が現れる。
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名 前:アレン・ティグレンス
才 能:make progress
レベル:1
【能力値】
筋 力:F- 耐 久:F-
速 度:F- 器 用:F-
魔 力:F- 知 力:F-
耐 性:F- 運 :F-
【ルーン】
なし
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五年が経っても生きるために日々働いて魔物なんて倒したこともないからレベルが1のままだ。能力値というのは最低【F-】から始まり【F】【F+】と上昇していき、次は【E-】【E】【E+】と上昇していく。最高は【S+】だと先輩達が言っているのを盗み聞きしている。
レベルが1つ上がると、能力値が上がると聞いているが、才能によって上昇する能力は偏るらしい。
そもそもレベルを上げるために魔物を倒さないといけないのに、肝心な魔物を倒すのには武器などが必要でそれを購入するために資金を貯めているが、中々貯まらない。というのも、僕達無能は働く場所がなくて冒険者クランで下積みを積むのが当たり前になっている。
僕が孤児ではなければまた違った未来があったのかも知れないけど、僕一人の力ではどうにもならないものだ。
そんな文句ばかり言っていると、下の階からいかがわしい音が聞こえてくる。今日も先輩達は盛んなようだ……僕も強い冒険者になれたら可愛い女性とイチャイチャできるのだろうか? いやいや、今はそんなことよりも明日の食事だな。
その日は耳を塞いで眠りについた。
◆
次の日。
僕達下積みの後輩にとって朝も忙しい。少し遅く起きるが早く起きる先輩もいるのでいつでも食事を提供できるように食堂で待機する。
常に緊張するように僕達は目を光らせて先輩達を待つ。何故なら――――
「よし。お前は休んでいいぞ」
「ありがとうございます!」
羨ましそうに眺めるのは、一番目の先輩に食事を運んだ後輩。ああやって許可を貰えると、朝食にありつけられるのだ。
腹を鳴らしながら先輩達が来るまで待つ。早い者勝ちなので全員がピリピリしている。
そんな中、いつも僕をいびり倒すアンガルス先輩が入って来た。彼は気難しいので基本的に誰も相手したがらない。そこで僕の出番だ。
急いで先輩が座る椅子を動かして座りやすくして、その向かいに先輩の相棒でもあり恋人でもあるヘリスさんの椅子もすぐに座りやすく動かす。
二人が座るとすぐに朝食を運ぶ。
その時、別の先輩の支度をしていた後輩とぶつかってしまった。その弾みで、僕が持っていた朝食があろうことかヘリスさんに掛かってしまった。
「おい。アレン」
野太い声が響き渡る。
「も、申し訳ございませんでした!」
すぐに土下座して謝る。が、いつも飛んでくるはずの蹴りがやってこない。恐る恐る顔をあげてみると、怒りに震えるアンガルス先輩とそれを宥めるヘリスさんが見えた。
「まあまあ、アレンくんもそうしたくてやったわけじゃないし、私は何ともないから早く朝食にしましょう?」
僕にぶつかった後輩も後ろめたさがあったのか急いで持って来た綺麗なタオルでヘリスさんの体に付いた朝食の残骸を拭いてくれる。僕も一緒になってヘリスさんの体を拭く。
そして、二度目の朝食を運んだ。
ヘリスさんの許可で朝食にありつけた僕だったけど、生きた心地がしなくてどんな味だったのかすら覚えていない。
食事が終わった頃、外に出ると丁度アンガルス先輩と鉢合わせになった。いや、僕
「おい。アレン。お前まだ実戦経験はないな?」
「は、はい……」
「よし。今日の狩りに参加しろ」
それは本来なら嬉しいことだ。ようやくありつけた自分を鍛えるチャンスだ。
でも、アンガルス先輩の顔はそういう穏やかなものではなかった。それが何を意味するのか。僕が知らないはずもない。今まで何人もそういう目に遭っているから。
僕にとって
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