第18話 劣等聖女の加護制限
それから私達の日常はいつも通りに戻り、私はまた以前のような自堕落な生活を謳歌していた。
私自身五日という長い時間眠り続けていた事もあり、後遺症などがないか心配されたが、加護の反動でぶっ倒れてただけなので至って健康。
けど、加護の使い過ぎで倒れてしまったから、私の加護使用に少しだけ制限が付いてしまった。
以前は模倣の加護の効果が切れ次第、加護のリロードをさせてくれていたリンネだったけど、とても残念な事に回数制限が付いてしまった。それだけでなく、加護が切れた直後は必ずと言っていいほどに調子が悪くないか確認してくるようになった。
過保護すぎると嘆くべきか、愛されていると喜ぶべきか分からないけど、重力の加護を手に入れるまでの道のりが遠くなった事だけは確かだろう。
「こっそりパクリに行ってバレたらまずいからなぁ」
一回だけ皆が寝静まった夜にリンネの部屋に忍び込んで、重力の加護を密かに模倣して練習しようとしたことがあるけど、それを見越してなのかリンネは対策して天井で寝ていた。
くっ、高すぎる私への理解力……!
「どうしよ。暇だしエフィに剣聖の加護借りようかな?」
加護によって制御感覚などに違いがあるため、本当なら一つを極めてから次の加護に手を出したいところだけど、本日の重力の加護貸付けは終了してしまっている。
段々と出力も上がってきているし、細かな方向指定や向きの切り替えなどもできるようになってきている。水平方向への重力変換を利用した重心移動法を練習したり、壁に張り付いて例の虫みたいに這い回ったりとまだまだやってみたい事は山積みなんだけど……まあ、これも自業自得か。
「はぁ……」
「随分と大きなため息ですね。どうかしたんですか?」
「あっ、エフィ。ちょうど探しにいこうと思ってたんだ」
少しだけ落ち込んでオルストロン邸を徘徊し出したところでちょうどよくエフィが見つかった。大きいため息を聞かれたのはちょっと恥ずかしいけど、探す手間が省けたので良しとする。
「私を? 何か御用ですか?」
「剣聖の加護借りたいと思ってさ。今暇なら遊ぼうよ」
「時間はありますが……今日はもうリンネの加護を模倣したのでは?」
「したけどさぁ……まだ足りないよ〜」
身も蓋もないこと言っちゃえば、自分の身体の事は自分が一番よく分かってる。前みたいな同時使用さえしなければ別に限界を迎える事はない。
それこそ前回のエフィとの模擬戦は模倣の加護をフル稼働させた状態で剣聖の加護と重力の加護を容赦なく発動させる無茶をしたのがよくなかった。
「そうだエフィ。今度は魔法ありでやろうよ」
「魔法を? 前にも言ったかもしれませんが、私……剣より魔法の方が得意ですよ?」
「うんうん、知ってる知ってる。だから私も……一番得意なモノでやるよ」
私がその力で全身を淡く光らせると、エフィは驚いたように目を見開いた。これで私が何を使うのか分かってくれたはずだ。お互いの最も得意なモノを解禁して、もう一度遊びたい。その意志を込めてエフィの目をじっと見つめる。
「……本当に大丈夫なんですか? それを使って、また倒れたりしませんか?」
「大丈夫だよ。模倣の加護は剣聖の加護の模倣にしか使わないし、今回は重力の加護もない。それに、もしやばそうだったら今回はちゃんと言うから」
「そうですか。本来ならば止めるべきなのでしょうが……楽しみに思う私がいます」
「エフィって意外と戦闘狂?」
「かもしれませんね。はしたないと笑ってくれて構いませんよ?」
「笑わないよ」
「ありがとうございます。一回、一回だけ……ブランさんに唆されてあげます」
よっし、交渉成立。エフィは押しに弱い。チョロい。かわいい。
私がそんな事を思ってるのが顔に出てるからかエフィがジト目で睨んでくるけど、それもかわいいのでむしろご褒美。
さてさて、前は出し惜しみした聖女の力……エフィにどれだけ通用するのか、楽しみだね。
◆
「よし、やろっか」
「はい」
私はエフィの手に触れて、剣聖の加護を模倣する。二回目の模倣ということもあり、前より馴染んでいる気がする。
私は剣聖の加護と聖女の加護。
エフィは剣聖の加護と培ってきた魔法の才能。
お互いに得意なモノを解禁する。
きっと前回とは違う展開になる。剣聖の加護だけでもあんなに強かったエフィが、剣より得意な魔法を使う。そんなの強くない訳がない。
でも私だって前とは違う。
今回は最初から聖女の加護を解禁する。聖女の加護ならば、エフィの剣聖の加護にも抗える。
「心踊りますね」
「ね〜」
「早く始めたくてうずうずしてます。もういいですか?」
模擬剣を構えて私に切っ先を向けるエフィの準備は万端。
私も準備できたし……やろうか。
「うん、いつでもいいよー……っぶな。せっかちだなぁ」
そう告げた私の言葉が終わるや否やエフィの剣先が煌めき、一筋の魔法が私に向かって飛んできた。
それを私は聖女の加護の結界で防ぐ。
こんにゃろとエフィを見るも、防いで当然と思っているか。それとも挨拶代わりなのか。
不敵に微笑む彼女はとても勇ましくてかっこいい。
そして、それが始まりの合図。
次の瞬間、私達は互いに肉薄し、剣をぶつけ合う。
楽しい時間の始まりに、私もつられて笑った。
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