第16話 劣等聖女と加護の秘密
その後、しばらくの間抱き合ってエフィの温もりを感じていた。けど、なんだかんだ流されてくれていたエフィがその状況もおかしいことに気付いて、耳まで真っ赤にしてそそくさと私から距離を取った。
しれっと二回目のキスも決めたけど、エフィはどんな反応をするんだろう。怒るかな? でも、エフィが可愛すぎるのが悪い。
とはいえ……少し気まずい。
やってしまったものは仕方ないとはいえ、どうにもスイッチが入ってしまうと歯止めが効かない。
キスしてきたのはエフィからとはいえ、エフィは寝ぼけて無意識だった訳だし、そこにつけ込んで好き放題したのはちょっとだけ罪悪感がある。でも後悔はしていない。幸せだったから!
「エフィ」
「何ですか?」
「さっきも言ったけど、色々ありがとうね。五日も寝てたなんて思わなかったから、エフィが何言ってるのか分からなかったけど、私のためにしてくれた事……すごく嬉しかった」
「……忘れてください」
「やだ! 一生覚えてるからね!」
エフィからキスしてくれたんだよ? そんなの忘れられる訳がない。脳に刻んで、バックアップもちゃんと取っておくからね。
「うぅ……とても恥ずかしいです。でも、結果的にブランさんが目を覚ましてくれたのなら、よかったのでしょうか?」
エフィは自分の唇を指でなぞりながら一人でぶつぶつと呟いている。うーん、エフィのキスがあろうとなかろうと私はもう目覚めてた訳なので、言っちゃえばエフィのキス損、私の役得なんだよねぇ。ま、エフィの名誉のためにも黙っておくけど。
「でも……五日も寝てたのか〜。ご飯いっぱい食べそびれちゃってるなぁ」
一日三食におやつともしかしたらあったかもしれないお茶会のことも考慮すると……うん、いっぱいだ。
「五日も目を覚まさない程の消耗……やはりブランさんの加護は強力な反面、反動も大きいのですか?」
「うーん、あれは私が無茶な使い方しちゃっただけだよ。剣聖の加護に慣れてないのに他のも同時併用はまずかったねぇ」
加護の反動として、初めて聖女の加護を使った時のような感じがしたし、普通に倒れたりしなかっただけマシな方だと思う。
「今の私がノーリスクで使えるのは私自身の模倣の加護と……聖女の加護だけ」
「そういえば聞きそびれてしまっていましたが、ブランさんはなぜ聖女の加護を……?」
「加護は使えば使うほど強くなる。私はこの三年間、模倣の加護と聖女の加護を死ぬほど使ったからね。その結果、辿り着いた境地が模倣した加護のストックって訳」
私はエフィに模倣の加護の秘めたる能力を説明した。模倣した加護は使えば使うほど精度がよくなり、限りなくオリジナルに近付いた時に、その加護は時間で失われずに定着する。
と言ってもまだ聖女の加護しかモノにできてないから、他の加護でも同じようになるかどうかは断言できないけど、多分推測は間違っていない。
「模倣した加護を……。そんな事があるんですね」
「加護の覚醒だね。模倣の加護の場合、多分模倣レベルの大幅上昇と使用制限時間の解除。他の加護の覚醒も見てみたいなぁ」
きっとどんな加護にだって次のステージがある。たとえば……リンネの重力の加護は自分と自分の触れているものにしか効果を及ぼさないけど、もし覚醒したらその時は離れた人や物にも関与できるんじゃないかと思う。
ん? リンネ?
そういえばリンネはどうしたんだろ?
私の専属メイドちゃん(仮)はどこにいるのかな?
「ねえ、リンネは?」
「……リンネは今休ませてます。あまり寝ずにブランさんに付きっきりでいましたが、そろそろ限界そうだったので強制的に……」
「そっか。リンネにも後でお礼言っておかないと」
実感無いけど、五日寝てる間にエフィにもリンネにも心配と迷惑をかけちゃった。悪い事しちゃったね。
「リンネに何か言葉をかけるなら、優しめにお願いしますね。彼女、今落ち込んでますので」
「およ、何で?」
「理由は本人から聞いてください」
ふーん、まあいいや。
よく分かんないけど分かった。
心に何か悩みを抱えているのなら、私は役に立てるはず。
腐っても聖女だからね。
「さて、悩める子羊ちゃんを救ってきますか」
「よろしくお願いします」
「エフィは? 一緒に行く?」
「私は……少し休もうかと。ブランさんが目覚めて、安心して泣いたからか疲れてしまいました」
「そっか。じゃあそこで休んでて」
エフィはちょうど私のベッドにいるし、そのまま休んでてもらって構わない。エフィもそのつもりなのか、もう横になって布団を被っている。
ついさっきエフィをベッドに引きづり込んだばっかりだけど、こういうの見ると何かこう……興奮する。
戻ってきたらまた添い寝しないと。
そんな事を考えながら私は静かに部屋を出た。
リンネは私が起きたって知ったらどういう反応してくれるかな?
意外と淡白な反応しそうだけど、ちょっとは喜んでくれるといいな。
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