第19話―イレギュラー―

何の変哲もない樹木から忽然と割れて人が現れた。

あまりにも慮外りょがいな瞬間を目前にして。

ボクは全身という全身が凍りついたように動きを凍えるようになる。


「うわぁー、凄いね。

こんな光景があるなんて驚いたね流石に。

まさか木の中から人が落ちてくるなんてナビゲーターお姉さんも驚愕だね。

昔も奇妙なこともあって面白いね」


「クレマチス……な、なんだんだコレは」


人を食ったような言動を相手にせず尋ねる。

家康としての史実に沿って進めるために随行として送られたクレマチスは寝転がっている金髪の少女を矯めつ眇めつ観察していた。


「不思議な子だね」


「おい。身元とかそれどころじゃないだろう」


いつもと変わらない気を抜ける行動。

そんな態度だから目に焼き付いた渦巻かれる衝撃が取り除いていく。

根のように立ち尽くしていたボクは黙考。


「えっ!?何この子……どうして私たちと同等の衣装なんか着ているの。こんな事が」


「ど、どうしたんだクレマチス。

なにか分かったのかッ!?」


「……信じられない。

でも現に感じ取れる高位の気配がなによりも証左となっている。

どういう事なの分からない」


「落ち着くんだ。

自分だけ喋らないでくれ。慌てふためくと分からないぞ説明をクレマチス」


あらゆる角度や触れて何らかの身元を知り捉えた妖精は著しく混乱を起こす。

取り乱すのを宥めようとするが耳に届いていない。

証左と独り言を言っていたから正体はある程度を掴んでいるのだろう。

そして着ている衣も同格とも呟いていた。

ただ見たところ姫にしか見えない。

着ているのは鮮やかな青い着物。

オーダーメイドしたのか半袖となっていて袖口は白色。それから膝丈の戦国時代では見たこともない奇天烈な衣装。

ワンピースな印象もあるけど令和では高品質なコスプレ要素のある派手やか。

神の使いでもイレギュラーなのかクレマチスの言動から察するに異質な存在のようだ。


「う、うーん……」


身動きを取らなかった少女が起きようとしている。いや単に寝息が聞こえない距離から観察していたから気づけなかっただけか。


(イレギュラーだろうけど。

少なくとも一目からして十四歳と測定とする無害そうな少女。

どういう人なのか話し合って見定めよう)


「ここは……どこ?」


まぶたを擦って上半身を上げて周りを見回す少女。ボクは敵意を消してゆっくりと近寄り身を屈む。


「おはよう。ボクは松平竹千代キミの名は?」


「わぁー!まだこんなに幼いのに丁寧な挨拶するなんて偉いね。

ご褒美に頭を撫でてあげるね」


「……えぇーと。やめて欲しいのですが」


ショックだ。

生前での生涯は十四歳だ。

しかし肉体とだけが生まれ変わって記憶を抹消することもゼロとする処置も施さず新たなる世界に転生されたボクは今年で二十四となる。


「よーし、ヨシヨシ。

えへへ子供なんだから無邪気になってもいいんだからね。わたしの前では少なくとも取り繕う事しなくていいからね」


「や、やめてくれ。こう見えてもボクは御曹司……なんだけど……。

どうやら触れること出来ないみたいだね」


子供が好きなのか存じないが彼女の手を伸ばしても触れることなく頭を通過して透き通った。

驚きはあったけど小さい。傍でクレマチスが干渉しない領域内にいるとかで。

きっとその類だろう。

まるで幽霊のような現象だなと呑気に思っていると怪奇現象だと遅れて驚愕する。


「まさか私がいる領域にいる霊体なのかな。

ただの人間ではないようね。晴人くん普通の人間ではなさそうだから言葉は慎重にね」


「ああ。とても普通で測れるものじゃない!

やっと異世界ファンタジーらしくなってきたぜぇ」


「だぁー、もう!緊張が無いにも程があるよ。

徳川家康に詳しいなんて豪語は、もうしないけど……これだけは断言する。

未知なる不特定生命体との接触なんて無い。

お願いだから用心して晴人くん!」


とはいえ娯楽が少ない過去に落ちてから飢えているんだ。

娯楽に満ちていた現代で生きてきたからこそファンタジーな展開に心をときめかない男子はいない。


「わたしも妖精さんと同意見かな。

お門違いかもしれないけど……人とかけ離れた生き物が目の前にいたら」


「ほら聞いた。金髪の可愛い子だって言っていて……。あれ?もしかして私の声……姿とかも肉眼で見えています」


「うん。聞こえているし見えているよ」


「マ、マジで!?

神や妖精のような高次元な存在にしか見えない筈なのに……もしかして晴人くんみたいに選ばれて可視化する異能を与えたのかな。

色々と要素が絡み合って理解に追いつけない。けど、晴人くんにしか見えないから

話せる女の子が現れた。

これで女子トークで盛り上げられる」


クレマチスは隣で浮いたまま見える人がいたことに感激のあまりに涙を流していた。

よほどボクにしか話せないから孤独で話し相手が一人しかいない現状に苦心していたとみえる。

金髪の美少女は感涙となる妖精にドン引きした顔を浮かべているがクレマチスの良き友人になれるかもしれない。


「とりあえず抑えろ。

ボクも引くほど嬉しいのは十分に傍で伝わったからクレマチス。

まず自己紹介でも」


「そ、そうだった。けど嬉しいなんて一言も言っていないんだからね晴人くん」


「はいはい」


ムキになって否定すると人間性があるんだなとクレマチスに対して一気に親近感であふれる。

お互いのことや名前の事さえ知らないままだ。

この辺で自己紹介しようと切り出しても拒否しないはず。

なによりクレマチスには散々と迷惑をかけてばかりでたまにはボクがサポートに回って日頃の感謝でもしよう。


「うぅ。あっ……ァァ」


もがき苦しむような息絶えるような声。

金髪の美少女は右手を胸にあてると苦しみを抑える。声をかけるべきか躊躇していると膝を崩して座り込んだ。


「お、おい大丈夫なのか!」


「はぁ、はぁ……」


ボクが近寄って声をかけても返事はしない。

もしかして難病でも罹っているのか。

快活な態度を保っているクレマチスも不安や心配した顔で宙を泳ぐようにして駆け寄る。


「えっ、どうしたの。どこか苦しいの」


「はぁ……はぁ、うぅ」


かける声に返せるだけの元気もなく唸るばかりで顔から幾つも水滴が流れていた。

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