違う道

@LIAR27

違う道

一瞬だった

たった1秒くらいのそれだけで


「今からそこの道路通るかも」

朝のこれから仕事が始まるという8時近くの気怠い通勤中の僕のiPhoneにLINEが入る


僕はなかなか会えない君に数秒会えると

急に緊張とワクワクが混じった

名前のない感情が僕の身体中を支配した


「ほんと?全力で手を振るね」と直ぐLINEを返す


その道路を僕はミーアキャットみたいに背筋をピンと伸ばして颯爽と駆け抜ける自動車を気にもせずお目当てのバスを探す

普段なら気になって仕方ない

頭の上を鳥たちが飛び回って自分にぶつかるんじゃないかと言うことすら気にせずに道路に目をやる


目の前の道路の奥からお目当てのバスが来た

LINEが入ってる

「今から通るよ!」

僕はそれに返事をせずあのバスかとギュッと目を凝らす

僕の歩道から左に伸びる道路

その奥の方から小さくバスが見えてきて

そのバスは僕の方に次第に大きくなって近づいてくる

バスは僕と君がそんな素敵な瞬間を味わおうとしてることなど知る由もなく

僕のために減速するはずもなく

平然と僕の前を通り過ぎようスピードと君を乗せて走る

僕の目の前を通る瞬間君の顔が見えた

君は制服姿で髪を綺麗に整えていて

マスク越しにだがマスクがほんの少しズレるくらい


笑顔で

顔の横で

小さく


手をあげた


僕は嬉しすぎて両手なんて上げられずにその笑顔を見ていた、見惚れていたのかもしれない

ハッと思い出すように通り過ぎる瞬間、ポッケに突っ込んでいた手をスッと出してあげるが

君の笑顔を窓の近くに置いたバスは通り過ぎる

両手をあげて手を振るなどと言っておきながら、見惚れていたとは言え君との約束を即座に破る自分のポッケに手を突っ込む癖を恨む暇もなく

その後直ぐに君にLINEを送る

「両手あげられなかった!会えた!」

君とのLINEのトークルームですぐ既読が付く

「んね!会えたね!すごい!」


一瞬だった

たった1秒くらいのそれだけで


数ヶ月も経つ僕の心にずっと残っている

君がいなくてもそのバスを見つけると思い出してしまう

胸の奥にそっと寂しさが降ってきても

昨日も今日も明日も

僕はそのバスに君の笑顔を探している

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