マヨ・ポテトの災難④
盗賊の親玉と思しき鈍色のビッグスーツは、四つの紫色のカメラアイを光らせた。
背中の
自律浮遊砲台だ。蜂の群れのように空中を自在に飛び回り、敵機に四方八方から砲撃を浴びせられる強力な兵器――その数、二十四機。
「……あの数、イノウエシティの自警団はあれにやられたのか」
親玉ビッグスーツのコックピットでキザな盗賊パイロットが長く垂れた前髪をかき上げる。
「ククク……そうさ! 一億テリ(テエリク大陸で使われてる通貨)もする、アルバトロス社製の最新型だよ。軍事レベルの高性能AI制御による複数の死角からのビーム砲撃……かわいそうだよねえ、死ぬのが決まっちゃってるっていうのはさぁ!」
「クソ……みんな金持ちなんだな……」
浮遊する小型の球体たちは、獲物を前にしてゆっくりと近づいてくる。
「離れててくれ」
カリオはソラマメのパイロットに退避を
マヨの乗ったソラマメは、カリオのクロジの脚にしがみついて離れない。
「……離れててくれ」
カリオはもう一度、ソラマメのパイロットに促した。
……マヨの乗ったソラマメは、カリオのクロジの脚にしがみついて離れない。
「離れろや!!」
カリオはソラマメを引き
「しに、しに死にたくないですううう! お腹も空きましたあああ!」
マヨはぎゃんぎゃん泣きながらクロジに必死でしがみつく。
「このまましがみつかれてると死ぬんだよ!! 状況わかってんのかコラ!!」
「もうここは怖いですううう! 暖かい布団のある場所に行きたいですううう!」
「だからアイツやっつけねえと行けねえんだろうが! これじゃいい的だろうが!」
カリオはソラマメを振り払おうと脚をブンブンと降るが、マヨは決して離れない。
キュイイイイン!!
自律浮遊砲台がカリオ達を囲もうと高速で接近し始めた。
「うわ来やがった! マジで離れろこの……」
「こ、殺されるぅううう!! おたすけえええ!!」
バシュッバシュッ!
複数の浮遊砲台がビーム射撃!
「おああああ!!」
カリオは後方に大きく跳躍してこれを回避!
バシュッバシュッバシュッ!
二度目の射撃! 今度は華麗に側宙して回避!
「ハハハ! そんな悪あがきがいつまで持つかなあ!」
キザ盗賊は勝利を確信しながら浮遊砲台が敵を
バシュッバシュッバシュッ!
三度目の射撃! カリオの背後、上方と下方から!
カリオはクロジをフィギュアスケート選手のように
バシュッバシュッ!
横方向からの射撃!
カリオはビームの隙間を縫うようにして回避!
バシュッバシュッバシュッ!
またも背後からの射撃!
カリオは前転回避!
「ハハハ……ハ……ハ……?」
おかしい。
街で十機以上のビッグスーツを全滅させた時はこんなに時間はかからなかったはず。それがどうだ、爆散するどころか未だに無傷? 邪魔な作業ロボにしがみつかれた状態で? 一億テリの最新鋭自律浮遊砲台二十四機を相手にして?
「てめえいい加減離れろや!」
「なんですかこの丸い撃ってくる奴ううう!! 怖いですううう!!」
バシュッバシュッバシュッバシュッバシュッバシュッバシュッバシュッバシュッ!
回避! 回避! 回避! 回避! 回避! 回避! 回避! 回避! 回避!
「お……え? ……なんだ……コイツ……」
キザ盗賊の顔が引きつり始めた時である。
ボン!
爆音、それほど大きくはない。
いくつかの金属の塊が空中から地面に落ちていく––––––自律浮遊砲台の
ボン!
また大きくはない爆音。落ちていく残骸。
跳躍する影とそれから放たれる光の軌跡。
ボン! ボン! ボン!
「くっそ、今危なかったぞおい離してくれよ!」
「びえええええ!!!」
自律浮遊砲台は
バシュッバシュッバシュッ!
浮遊砲台が射撃。
カリオは姿勢を目いっぱい低くし回避、そのまま砲台の方へ跳躍する。
ブォン! ブォン!
ビームソードを二回降り、三機の砲台を撃墜。
バシュッバシュッバシュッ!
浮遊砲台が射撃。
カリオは回避。
ブォン! ブォン!
砲台二機撃墜。
カリオは
バシュッバシュッバシュッバシュッバシュッバシュッバシュッバシュッバシュッバシュッバシュッバシュッ!
ブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォン!
ボンボンボンボンボンボンボンボンボンボンボンボン!
「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!」
キザ盗賊の目は血走り、額には青筋が立つ。
目の前の傭兵のビッグスーツによって一億テリの浮遊砲台の大半が破壊され、残るはたったの二機。
カリオはソラマメがしがみついた状態のまま、キザ盗賊のビッグスーツに向かって突撃する。
「一億のアルバトロスだぞ! ふざけんなよ!」
怒りと焦りでハイになっているキザ盗賊が叫び、残った二機の浮遊砲台が彼を守るように立ちふさがる。
ブォンブォン!
カリオは目にもとまらぬ斬撃で、いとも簡単にこれを撃墜する。
「俺のぉ!! アルバトロスがぁ!!」
半狂乱のキザ盗賊はビームソードを抜き、カリオに斬りかかる。
……だが、キザ盗賊のビームソードが振り下ろされるより先に決着はついていた。
キザ盗賊の動体視力は、最後のカリオの踏み込みを捉えることはできなかった。鋭い刺突が、盗賊のコックピットを貫いた。
主を失った盗賊のビッグスーツの腕が、力なくだらりと垂れ下がる。コックピットからビームソードが抜かれると、ビッグスーツがあちこちから火を噴いて倒れていく。
ふぅ、とカリオはため息をついた。ビーム刃をオフにし、柄だけになったビームソードを腰にマウントする。
「……おい、さすがにもう離してくれねえか?」
脚にしがみついたままのマヨは涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を
「……ご飯とお水貰えるとこ知りませんですか?」
(マヨ・ポテトの災難⑤へ続く)
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