マヨ・ポテトの災難②

 遠い遠い宇宙の向こう。


 私たちの住む地球よりもっともっと大きな惑星マール。


 大きな大きな大陸テエリク。


 統治者であったケーワコグ共和国は倒れ、その大陸は混沌の大地と化した。


 傭兵・賞金稼ぎ・私設軍隊・企業・マフィア・盗賊・テロリスト――


 様々な人々が様々な思惑の下に来る日も来る日もドンパチドンパチ命を懸けて戦っていた。


 そして今日もまた、戦いに飛び込む人々を乗せた大きな陸の船が一隻。 






 荒野の街・イノウエシティが盗賊団の襲撃されたことを受け、近隣のもう一つの街・サイトウシティが傭兵を雇った。


 イノウエシティを襲撃後に逃亡した盗賊団を追跡・発見し殲滅する。


 それが「レトリバー」と名付けられたランドシップ(陸上艦)のクルーである傭兵たちの今回の仕事だ。


「襲われたイノウエシティ、結構ガチな警備隊持ってたのにかなりの被害が出たみてぇだな」


 レトリバーの格納庫、出撃待機中の“ビッグスーツ”と呼ばれる人型機動兵器のコックピットで、ショートアフロのがっしりとした体格の男――ニッケル・ムデンカイはそう言うと水筒に口をつけ、水をグビグビと飲んだ。


「ガチな警備隊?」


 隣のもう一機のビッグスーツに乗った、丸刈りで少し細身の男――カリオ・ボーズはシートの上で胡坐をかいて座り、リラックスした様子だ。


「二か月前に出たばかりの最新ビッグスーツ十一機がお釈迦だと」


 〝ビッグスーツ〟はテエリク大陸で現在主流の人型機動兵器だ。人工筋肉と脳波コントロール技術により、あたかも自分の肉体のように機体を動かせる点が売りである。

 戦いを生業にする者ならば一機は持っているというぐらいには普及しているが、最新型を販売開始直後に二桁も手に入れるのは十分に裕福でないと不可能だ。


「へぇ、金持ちだったんだなイノウエシティって……あ、だから狙われたのか?」

「いやぁそこんとこはわかんねぇ。しかし十一機ねぇ……今回の強盗さんは結構やり手かもな」


カリオはけだるそうに首を回す。




「強ぇ悪党は嫌だな……死ぬかもしれねえしなぁ」

「そういう割には声色に緊迫感がねえぞ、いつもの事だけどよ。……リンコ、まだ見えねえか?」


 ニッケルの呼びかけに対してスピーカーから、気さくな印象を受ける女性の声が返ってくる。


「まだだと思う……いや待って、見えたよ。やけにスピード出して移動しているけど、旗のマークが貰った情報と一致してる。二人とも準備して」


 声の主はカリオ、ニッケルと同じくレトリバーのビッグスーツ乗り――リンコ・リンゴだ。赤いモヒカンヘアーの女性で狙撃の名手であり、二人より先に格納庫からレトリバー船外の甲板に出て索敵していた。


 カリオとニッケルの二人は、ヘッドホン状のギアを装着し、ビッグスーツの脳波コントロールをオンにする。彼らの四肢が脳の制御を失うと同時に、それぞれの機体の上半身が反応し、ほんの少しだけ跳ねるように動いた。


「一番機、ニッケル、出るぞ」

「三番機、カリオ、出る」


 二機のビッグスーツが格納庫から荒野に飛び出した。カリオ機はホージロ社製の「クロジ」、ニッケル機・リンコ機はアトリー社製の「コイカル」という名前のモデルであり、三機とも黒く塗装されている。


ビームライフルやシールド、ハンドグレネードなどを装備したニッケル機、ビームソードを一本装備しただけのカリオ機は並んで荒野を低空飛行で飛んでいく。リンコ機はビームスナイパーライフルを持ち、甲板の上で前方の集団を見据える。




「……うん? ねえ、あれって……」


 盗賊の集団を捉えるリンコの目が細くなる。


「先頭の丸いのはさ、逃げてない? 後ろの奴らから」

「んん?」


 ニッケルも同じように目を細めて集団の先頭をよく見てみる。


「確かに……ありゃ盗賊じゃねえな」

「逃げてるよね、アレ」

「作業ロボだろあれ、ソラマメかエダマメ。なんでまたこんな荒野のど真ん中にいるんだ?」


 ニッケルは音声と視線の操作でレトリバーのブリッジへの通信回線を開いた。


「オヤジ、クライアントから誰か連れ去られたとか人質に取られてるとか聞いてねえか?」


 スピーカーから〝オヤジ〟と呼ばれた男性のしゃがれた声が返ってくる。


「いんや、聞いてねえ」

「そうか、わかった」


 ニッケルが短い通話を終えると、リンコはビームスナイパーライフルを構え、射撃体勢に入る。


「お客さんとは関係なさそうなんだ? まあでも放ってはおけないよね」


 カリオも腰のビームソードに手をかけた。


「このまま盗賊どもを横っ腹からブチのめせば問題なく助けられるだろ。行くぜ」




(マヨ・ポテトの災難③へ続く)


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