ブンドド!

ぶらぼー

第一部

01:マヨ・ポテトの災難

マヨ・ポテトの災難①

 コックピットで丸くなって眠っていた少女は目覚めた。




 寝ている間、外の時間を把握できるように付けっ放しにしていたモニターには、広々とした黄土色の荒野が映されている。生き物は一見して見当たらず、青い空に浮かぶすじ雲がゆっくりと流れていく。



 そのド真ん中。


 荒野に似つかわしくない丸っこいデザインの作業ロボと少女が一人。



 見た目年齢は五、六歳程、黒髪で短めのミディアムヘアに、半袖Tシャツと短パンという装いの小さな少女は、眠気で顔をしかめながら大きなリュックサックの中に飲食物が残っていないかあさり始めた。


 この作業ロボであてもなく移動する生活が始まって四日目になる。少女の意思で始めた旅ではない。






 ――少女は記憶を失っていた。






 気が付いた時には大きなリュックサックと一緒に、この丸みを帯びたデザインのロボットのコックピットに乗せられ、見知らぬ荒野にひとりぼっちで放り出されていたのだ。




 ただ、自分の名前はおぼえていた――マヨ・ポテト。それが少女の名前だ。




 今乗っている「ソラマメ」という名前の作業ロボの操縦方法も覚えていた。数字と文字も見た目の年齢の割には少し覚えていて、ある程度読める。ただ自分がどこから来たのか、何をしていたのか――この突然の遭難そうなんイベントより前の自分の軌跡が頭の中から綺麗きれいさっぱり消えていた。




「ぐぬぬ……だいぶご飯少なくなってきやがったですね……!」


 記憶がないと気づいた時は相当あわてふためいた。一時間後には荒野で完全に迷子になってることに気づいてもっと慌てふためいた。この現状からなんとかして脱出せねばならない。 


 何故か一緒に乗せられていたリュックサックに、食べ物・飲み物がいくつか入っていたのは幸運だった。自分が準備したのだろうか? それとも他の誰かが? 何度かそのことについて考えてみたが何も思い出せない。不安で頭が一杯になりながら、少女はチョコバーにかじりつく。


「街~! それか村~! なんでもいいです! とにかく人がいてグビグビお水飲めてご飯をお腹いっぱい食える所……!」


 少女は幼いなりに我慢がまんして、この数日できるだけ飲食物を減らさないように努めてきた。だがそろそろそれらもきそうだ。それにソラマメの稼働時間かどうじかんにも限界がある。




「このままでは本当に干からびてしまうです……!」


 どこか気の抜けるような口調だが、彼女は彼女なりにこの状況に強い危機感を持っていた。なんとかして今日の内に人のいる場所に辿り着きたい――あせりの気持ちを抱きながら操作レバーを握り、マヨはソラマメを走らせた。


 レーダーに何か影が映る度にそこへ向かう。人の集落であれと願いながら。しかし

現実は相当に辛い。


「ぬうぅ……またデカい岩の大群……!」


 大岩や巨大サボテンと対面すること数十回、マヨの心は何度も折れかける。


「次、次! こっち!」


 岩。岩。サボテン。もっとデカいサボテン。デカい岩。

 何度も何度も走って、肩を落としては頬を叩いて気力を奮い立たせる。


「そろそろ……お願いですよ……マジで……」




 太陽が一番高いところまで登り切った頃だった。マヨはレーダーに新たに映った影に目を大きくした。初めて見る、今まで見た影よりより小さい点の集合。


「おお、なんかさっきまでと違う!」


 マヨはすぐにソラマメを走らせた。砂埃すなぼこりを上げながら二分も走ると、徐々に影の正体が見えてきた。明らかに人の乗る二足歩行のロボット――機動兵器の集団だ。


 マヨは走るソラマメに手を振らせながら無線通信を試みる。


「すみませえええん! えと、えーと、迷子になったです! 助けてくださいまし!」


 マヨは無我夢中むがむちゅうで無線に叫ぶ。


「ご飯も飲み物も無くなりそうで!近くに街とかござい……ませんで……ふぉ!?」


 突如、マヨは叫ぶのをやめ、ソラマメを停止させた。冷や汗がほおを伝う。 

 希望の光と思われた機動兵器の集団、彼らが掲げる巨大な旗を見たのである。




 その旗に描かれていたのはいかついドクロ。




 記憶を失い、荒野で遭難そうなんし四日目。マヨ・ポテトは盗賊団と遭遇そうぐうした。




(マヨ・ポテトの災難② へ続く)

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