7章 ただの不死身と吸血鬼
第64話 きっとこれは伏線
最悪だ。最悪な夢を見た。誰かと一緒に飛び降りる夢。俺は真夜中にビルか何かの高い建物の屋上に立っていた。隣に居たのが誰かは分からないが、その人と一緒にそこから飛び降りて、地面に激突する瞬間に目覚めた。
「ねぇ……お兄。モバ充貸して……えっ?何してんの?」
「怖い夢見た」
「へぇ……どんな?」
俺の許可もとらずに勝手に部屋に侵入して、机を物色している。
「なんか落ちる夢。……2段目」
「ん……あった」
なんだかまだ頭がボーっとする。夢の中にいるみたいだ。
「千紗……ちょっと殴ってくんない?」
「ヤダ」
「なんか頭いてぇ」
「保健室行けよ」
「普通心配からじゃない?」
「心配してんだよ」
隼人は到底心配している人間の目とは思えないくらい真剣な目でスマホゲームをプレイしている。
「うっわ、せこ」
どうやらウ〇イレらしい。凪と対戦中で何度か体を揺らしながら苦戦しているらしい。俺も凪と対戦したことがあるが、とてもじゃないが勝てない。プレイングスキルが違い過ぎる。
「ま、次の現文で寝てれば治るだろ」
「現文は寝れねぇだろ」
「確かに」
現文の担任はそういう行為を許さない感じの教師だ。まぁ……その次の古典で寝ればいいか。
「先輩、もしですよ。もし、自分のせいで友達が事故にあって、後遺症が出たとして、先輩ならどうしますか?」
「なんだい、いきなり」
部活に行くと今日は珍しく2つ上の紗枝先輩がいた。他の人はみんなは遅れて来るらしい。
「例えばですよ」
「う~ん。そうだな。私ならひたすらその子に向き合い続けるかな。たとえ彼女が拒絶したとしても目を逸らさずに」
「それって……結構、勇気要りません?」
「確かにそうだけど。罪悪感から逃げて一生を過ごすよりも、許されるまで苦しむ方が楽だろう?」
「確かに」
実に大人っぽい答えだ。それと同時に自分が嫌になって来る。さすがモデルだ。座っている姿も様になっている。
「先輩って大人っすね」
「もう18歳だ。この国じゃ18歳から大人なんだよ」
「そうだとしても。ちょっと達観しすぎてるって言うか……」
「君の話。多分、今からでも遅くないと思うよ」
「え?」
唐突に話の方向を向けられて、唖然としてしまう。一瞬何を言っているか分からなかったが、すぐに理解した。この人は分かっているのだ。
「こういう話をする人は大抵、逃げてきた人だ」
「先輩って……エスパーですか?」
この時の俺の表情は多分、凄まじいことになっていたと思う。
「なぁ……月」
「何?」
「もし、おれがお前の事……嫌いになったらどうする?」
「殺す」
そうだよな。そんな気がしていた。彼女から向けられる愛は本物だ。それは分かっている。
「……そして、私も一緒に死ぬ。でも、死ぬなら一緒が良いな」
「……そっか」
「なんでそんなこと聞くの?もしかして私の事、嫌いになったの?どこ?直すから」
「いや、嫌いになったとかじゃない」
なんか最近、死ぬとか生きるとか考えすぎて頭がごちゃごちゃになっている。頭を空っぽにして生きたい。
「なぁ……月。血、吸ってくんない?」
「いいよ」
彼女は二つ返事で了承した。さっそく袖を捲って腕を出す。手首の辺りを見ると噛み傷が幾つか残っていた。おかしい傷が治るときは痕なんか残らないのに最近、傷の治りが遅いのは体調が悪いからだろうか。
「今日はこっちがいい」
そういってむりやり俺のシャツのボタンを外し、首筋を晒す。彼女はためらうことなく噛みついてくる。
「ん……」
何故だろう、自分の首元に顔を埋めている彼女の顔とその背中に手を回して抱き締めてしまう。だんだん頭が空っぽになっていく。
「あれ?」
ふと、頭が軽くなって。眩暈がした後に、俺は意識を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます