第三章 学生生活本格始動
第22話 吸血少女は見ている
「来週から中間テストがあるから、計画的に勉強してくださいね。テスト範囲は教科書の14ページから28ページまでやっておいてください。」
国語の担当教諭の植木が生徒に対してテストに関する情報を話して、授業終了のチャイムが鳴った。
「え~では委員長、号令を」
「はい」
植木は身長は180㎝を超え、肌も小麦色に焼けた筋肉モリモリの大男だが、そのガタイの良さに寄らず常に丁寧で優しい口調で話すので最初に授業を受けた時はガタイと声のギャップに驚いた。
クラス委員長が授業終了の挨拶をして授業が終了した。植木はプリントや授業資料などをまとめている。
「あっ…藤原君、ちょっといいですか?」
「え?…はい」
いきなり思い出したように植木が俺を呼んだ。教師に呼び出される理由なんて大概よろしくないものだと思うが、仕方なく教卓の方に向かう。他の生徒は授業終わりのおしゃべりに夢中でこちらにはほとんど興味は無いようだ。
「何ですか?植木先生」
「藤原君…中村先生から聞いているとは思いますが…陸上部の件、考えてくれましたか?」
「あぁ…先生、その件ですけど俺は…もう陸上は…」
植木がどの部活を担当しているのか思い出し、少し気分が沈む。少し前に担任からも言われ一度断ったはずだ。
「分かっています。ですが…君ほどの才能があれば日本一も取れるかもしれませんよ」
「先生……俺のは才能じゃなくて努力です」
「あ…すいません。しかし、君の実力は全国に匹敵します。少しでもやりたくなったらいつでも言ってください。陸上部は君を歓迎します」
「ありがとうございます」
「時間を取ってしまって申し訳ありません」
植木はそう言うとまとめた荷物を抱えて次の教室に向かって行った。俺も自分の席に戻る。
「何の話してたの?」
「なんでもない…部活の話」
自分の席に戻ると前の席の隼人が質問をしてきた。スマホを触りながらこちらを向いてくる。
「あぁ…もしかして陸上部の?」
「なんで知ってんだよ」
「だって植木って陸上部の顧問だろ……でも、なんで真にそんな話したんだ?」
「さあな」
隼人は俺が中学時代に何をやっていたか知らない。基本的に自分は聞かれない限りあまり自分のことをしゃべらない。
「真が元陸上部だからだろ」
離れた席に居たはずの凪がこちらの会話に混ざってきた。
「え!?真って陸上部だったの?想像つかね~」
「そうだよ。しかも全国ベスト4になったこともあるよな?」
凪とは中学時代あまり関りがなかったが、俺と同じ中学だったため知っていてもおかしくはない。隼人はスマホの画面を見るのをやめてこちらに顔を向ける。
「へぇ~、なんで辞めちゃうの?」
「……飽きたっていうか、やる気が起きないっていうか」
「贅沢だな…サッカー部来るか?」
ヘラヘラとした顔でふざけながら隼人が誘ってくる。正直、サッカー部にもたいして興味は無い。
「もっと嫌だ。どうせ陽キャの集まりなんだろ?」
「そんなことないよ…なぁ?」
「確かにそうだね」
隼人が凪に同意を求めると、凪は首を縦に振った。…絶対嘘だろ
「よ~し、お前ら授業始めんぞ~席につけ~」
「やべっ…もう次の授業かよ」
数学の教諭が教室に入って来た。語尾を伸ばすような変なしゃべり方が妙に鼻につくため、あまり好きではない。
凪は自分の席に戻っていき、隼人はスマホを机の中にしまって教科書等を引っ張り出す。俺もノートを開いて授業の準備をする。
「…ちょっとトイレ行ってくる」
「OK」
昼休みに入り生徒は半分が教室で雑談をし、もう半分は廊下に飛び出していった。俺も昼飯の前にトイレを済ませるために廊下に出る。東側のトイレは多くの生徒が利用するためこの時間は大変混雑するので西側のトイレに向かう。
「……ふぁ~」
さっきの数学の授業も眠すぎてほとんど意識朦朧としていた。こうして歩いていても欠伸が出てきてしまう。
梅雨の期間はまだ続いているが、今日の天気は晴れ。暖かい日差しのせいで体が温まっているのも原因の一つだ。
「うわっ!?」
「きゃっ」
普段なら大回りで角を曲がるため人とぶつかるなんて全くないのだが、ボーとしていたからか女子生徒とぶつかってしまった。
「くっ…」
女子生徒の足に躓きかけて体が傾き、反射的に体は支えを求めた。しかし、手は一瞬柔らかいもの掴んだと思ったが支えにならないと思い、手がすぐに離れる。何とかもう一つの足を前に出して転倒を防ぐ。
「大丈夫?」
すぐに女子生徒の方を向いて確認を取る。
「すいません…私の不注意で…」
「いや…こっちも前見てなくて…」
「いえ…失礼します」
女子生徒は壁に背を預けていたため倒れてはいなかった。下を向いているため顔は見えなかったが、髪を後ろで束ねたポニーテールの女子生徒は一度軽い会釈をして去って行ってしまった。
手にはさっきの感触が微かに残っていた。
一日の授業が終わり、帰りのHRも終了して教室にいるほとんどの人間が帰りの支度をし始めている。
「サッカー部の練習にはいかないのか?」
前の席でゆっくりと帰りの用意をしている隼人に話しかける。
「テスト期間中は部活は休みだろ」
「知ってるよ」
「じゃあ…なんで聞いたんだよ」
「なんとなく」
顔を正面を向いているため顔は見えないが呆れたような声で返事をしているのは分かった。
「そいつ置いて行って早く帰ろうぜ、真」
「ちょっ…おい」
凪は鞄を持って俺の席の隣に来た。隼人は凪の言葉を聞いて荷物を入れる手を少し早めた。マジで置いて行かれると思っているのだろうか、焦っている。
「そんな急ぐなよ。置いていかないからさ」
確かに今日からテストの一週間前なので大会などが近い部活以外は部活が休みになる。文芸部やサッカー部も例外ではない。
教室に残っている生徒もだんだんと少なくなってきた。未だに机の上にノートを広げている生徒はおそらく学校が閉まるまで自習する予定の人たちだろう。
「あっ…居た…」
ふいに後ろから女の声がする。もう聞き飽きるほど聞いた声だ。
「おっ…真、彼女が来たぞ…」
「へぇ~…あれが隼人が言ってた真の彼女?」
「…だから、違うって」
「何の話してるんですか?」
月が俺達三人の会話に入ってくる。俺の右の耳元から顔を出しているため吐息ごと声が聞こえる。
「いや…何でも……」
「そいつ置いて早く帰ろうぜ。隼人」
「そうだな。じゃあな、真」
隼人と凪はニヤつきながら荷物を持って二人で教室を出ていく。俺も荷物を持って二人についていこうと席を立ち上がろうとする。
「あっ…ちょっ…待って」
しかし、月は荷物を持った俺の右手を掴み、もう一つの手で俺の肩を抑えて席から立ち上がれないようにしてくる。背中に柔らかい感触が二つあるのを感じる。彼女が近づくほどその二つの物体が潰れていくのを感じる。
「どこに行くの?なんで逃げようとするの?」
「そ…そんなことしてないよ」
肩を掴んでいる月の左手に少しずつ力が込められていくのが分かる。すぐ横にいる彼女の顔を見ようと横を見ようと頭を動かそうとした時、ふと首筋に柔らかいものが触れたと思ったら、チクリと痛みが襲ってきた。
「いっ…」
すぐに月は顔を上げた。その口元には血がわずかに付いていた。反射的に彼女に噛まれたであろう場所を手で触るが、そこには傷や血は無く彼女の唇の感触だけが残っていた。
「おま…」
「ふふ…あまりにも無防備だったから…つい…」
急いで周囲を確認する。教室に残っている生徒は自習をしている二人を除いてみんな雑談をしているため、こちらを見てすらいない。
「いきなりはやめろよ。せめて一言、言ってくれ」
「言ったら吸ってもいいの?」
「そういうことじゃない」
彼女は口角を上げて微笑んでいる。目はいつもより赤みを増しているような気がした。月は俺の肩と手を掴んでいる両手を離した。
「ほら…帰ろう」
そういって彼女は口元に付いていた血を舌で舐めとる。
◇◇◇お礼・お願い◇◇◇
どうも皆さん、広井 海です。
この作品のフォロー数が100を超えました。大変ありがたいです。
三章は学校生活を多くしていきたいです。
最後に、少しでもこの作品が面白いと思ったら☆評価、フォロー、いいね等よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます