第21話 性格診断
「雨、降ってるね~」
「そうすね」
窓の外のそれには鉛色の重苦しい雲が覆い、雨が降り注いでいる。部室には姫川先輩と影宮先輩、俺と月がいる。姫川先輩は暇そうに話しかけて来た。
「藤原君は雨好き?」
「嫌いではないです」
「へぇ~珍しいね、月ちゃんは?」
「私も晴天より暗い雨の時の方が好きです」
「え~、私は晴れの方が好きだな~」
本当に暇なのだろう、首を左右に振りながら先輩は答える。最初に見た時はしっかりとした先輩だと思ったが、意外とそんなことないのかもしれない。
五月に入り、今年も梅雨の時期がやって来た。外で活動している運動部の人たちは多くは室内で筋トレやそもそも部活自体休みになっているところもあるらしい。サッカー部は室内で基礎練習をすると隼人達が言っていた。
「萌絵ちゃんは明るいとこ苦手だもんね?」
「あっ…はい…」
話しかけられると思っていなかったのか、影宮先輩は一瞬体を震わせて小さな声で答えた。
「ん~、そうだ…これ知ってる?」
姫川先輩はいきなりスマホを取り出して、操作し始めた。少しの間を置いて俺と月影宮先輩の方に向けてくる。俺達三人はその画面を見るために少し前のめりになる。
「何ですか?これ…mbti…性格診断テスト?」
今まで見たことのない横文字が書かれている。しかし性格診断と書いてあるので、大方ネットによくあるようなサイトの一つだろう。
「これ…知ってます。16通りの性格診断ですよね」
「おぉ…知ってるんだ。そう、みんなでやってみようよ」
どうやら月はこれを知っているようだ。影宮先輩は相変わらず反応が薄すぎて良く分からない。
「これ…ネットでmbtiって検索するだけで、たぶん出てくると思うから…」
「これですか?」
「そう…それ」
スマホを取り出して検索し、開いた画面には16Persnalitiesや無料性格診断テストと書いてある。いきなり質問が出てきて、同意すると同意しないがそれぞれ三段階そして中間が一つ、合計七段階で質問に答えるらしい。
「なるべく悩んだりせずに直感で選ぶとより正確に診断されるよ」
「姫川先輩はやらないんですか?」
「私はもう気になって、昨日やっちゃったから…」
月が質問すると姫川先輩は少し苦笑いしながら答えた。
「ほらほら萌絵ちゃんも…」
「あっ…は…はい」
そこから10分ほど無言の時間が続き、各々が先輩の言う診断サイトの質問に答えていく。
あなたは自己紹介するのが苦手?
感情を支配するというより、感情に支配される方である?
いろいろと多種多様な質問が用意されている。時々迷うような質問もあるがなんとなく直感で選んでいく。
「先輩…これで良いんですか?」
一番先に終わったのは月で自分がどんな性格なのか詳細を読んでいるようだった。俺はまだ半分ちょっとしか終わっていない。
「うんうん…なるほどなるほど」
姫川先輩は月の結果を見ながら頷いている。どんな結果なのか気にはなるがとりあえず自分の事に集中する。
「あっ…凛央先輩、私も…出来ました」
「お…どれどれ、あ~はいはい」
数分後には影宮先輩も診断結果が出て、姫川先輩に見せている。俺もあともう少しで終わりそうだ。
俺も診断結果が出た。
「姫川先輩…俺も終わりました」
「見せて見せて…へぇ~意外だね」
INTP(論理学者タイプ)
どんな意味があるかは分からないので画面をスクロールして詳細を確認する。
独特の視点や力強い知性を誇りにしています。
そうか?ほかにも分析的だったり、好奇心旺盛だとか書かれているが自分ではあまりそう思わないが…
「じゃあ…みんなの結果を見せ合いっこしよう」
そういって姫川先輩は自分の画面を四人掛けテーブルの上に置いた。姫川先輩の隣に座っている俺は月と向き合う形になる。
姫川 凛央 ESTJ-A (幹部タイプ)
影宮萌絵 INFP-T (仲介者タイプ)
血原 月 ENTJ-T (指揮官タイプ)
藤原 真 INTP-A (論理学者タイプ)
「これってどういう意味なんですか?」
横文字の意味がまだ分からないので姫川先輩に質問をする。
「えっと…まず、一文字目がIかEに別れるんだけど…Iの人は内向的、Eの人は外交的つまり…一人が好きかそれともワイワイするのが好きかってことだね」
確かに当てはまっている。どちらかというと自分は一人の方が落ちつく気がする。影宮先輩が先頭がIなのは納得だ。
しかし月がEなのは以外だ…一人でいる方が好きそうだが
「それで…二番目のSとNは感覚的か直感的かに別れるみたい。要は現実主義か理想主義かどうかってことだね」
「姫川先輩以外はみんな理想主義ってことですね」
「そうなるね~」
月が少し含みのある言い方をする。そんなこと言っている月も予想外だ。俺は正直、月は現実主義な気がする。
「え~と、三つ目の奴は…Tが論理型で、Fが感情型らしいよ」
「わ…私以外、みんな論理型…」
影宮先輩が消えそうな声で呟いた声が聞こえた気がする。確かに影宮先輩以外はみんな感情的になる様子が思いつかない。
「最後がJとPで…大雑把で柔軟な性格なのがJで、几帳面で模範的な性格なのがPらしい」
「へぇ~結構面白いですね」
「まだ、面白いポイントがあって…16個同士の相性もわかるんだよ」
「……」
月は興味なさそうに画面を見ているが、一瞬目が見開いた気がした。
「えっと…じゃあまず萌絵ちゃんから行こうかな」
「へっ?わ…私ですか?」
「萌絵ちゃんはINFPで他の人と一番相性がいいのは……この中だと藤原君が一番だね」
「くっ…」
一瞬誰かの歯ぎしりの音が聞こえたような気がするが気のせいだろう。
「へ?そ…そうなんですか。へへへ…」
「マジっすか」
いや…でも意外と共通点は多いのかもしれない。お互いそこまでコミュニケーションがうまいわけでもないので相性がいいかは分からないが。
「ちっ……姫川先輩、私はどうですか?」
「うわ…ちょ、ちょっと待ってね」
月は何故かいつもより大きな声量で姫川先輩に詰め寄る。その勢いに押された先輩は驚いていたが、すぐにスマホを見ながら相性を調べ始めた。
「えっと…月ちゃんはENTJだから…相性がいいのは…藤原君だね」
「え…マジですか」
さっきとは違う意味で驚く。相性…良いか?あいつと相性がいいと感じたことはないんだが。
「影宮先輩とどっちがいいですか?」
「えぇ…っとこのサイトだと月ちゃんの方が相性良いね」
「……っし」
こいつ今小さな声で「よしっ」って言ってなかった…気の…せいだよな???
「あっ…でも、月ちゃんにとって一番相性がいいのは…この中だと萌絵ちゃんだね」
「ふぇ?」
「は?」
さっきまで勝ち誇ったように微笑んでいた顔が一瞬で強張った。影宮先輩は恐ろしそうに月と目線を合わせようとしない。本当に相性良いのか?
「……ていうか、姫川先輩はどうなんですか?」
ここまであまり自分の結果や相性についてあまりしゃべっていない。
「私は…三人全員と相性がそんなに良くないみたい…」
「えっ…そうなんですか」
「うん…」
少ししょんぼりというか落ち込んでいるようにも見える。
「でも…面白かったから良いや。あ~紗枝ちゃんも居たらもっと面白かったのに」
「そういえば…今日も居ませんね。橘先輩って学外で活動してるんですよね」
最初に会った時からまだ一度も部活に来ているところを見ていない。学外でどんな活動をしているのだろうか…わざわざ学外で活動しているので、おそらくこの学校の部活にはない活動だろう。
「そうだよ、最近忙しいって言ってた」
姫川先輩と橘先輩は仲が良く中学のころからの付き合いらしい。
「橘先輩って何やってるんですか」
素直な疑問が浮かび、姫川先輩に質問をする。先輩は少し間を置いて口を開いた。
「モデルだよ」
「え?…モデル?モデルですか?」
「そう…モデル」
「あの…雑誌とかに載るような…」
「うん」
姫川先輩は淡々と答えているが、こっちは驚きが隠せない。今まで身近に芸能人やモデルなんていなかったので反応が出来ない。
「ほら…これ」
姫川先輩がスマホの画面をこちらに見せてくる。画面にはSNSが表示されていてアカウント名は
「すごいっすね」
「でしょ~」
かなり自慢気な顔で先輩はスマホを掲げている。橘先輩が関わると姫川先輩は否応なく元気になる。
「あっ…せ…先輩、そろそろ時間ですよ」
「あっ…ほんとだ」
姫川先輩が時計を確認するのに釣られて俺も部室の時計を確認した。時刻はもうすぐ6時になろうとしていた。外も一層暗くなっていた。
「じゃあ…そろそろ帰ろうか」
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