第18話 目に写るもの
「電車に乗るの一年ぶりかもしれない」
「マジか?」
「うん…あれから病院と家くらいしか行ってないし、移動もお母さんがしてくれてたから…」
ICカードを改札にかざして通る。改札の扉はすんなりと開き、駅のホームに進んでいく。
「あと五分くらいか…」
休日の昼間とはいえ人が少ない気がする。
「階段、気を付けて…」
「うん」
ホームへの階段を降りていく。手は未だにつないだまま、美香と一緒に階段を降りていく。
ホームには3人ほどしかいない。全員同じ方向を向いて立っているため、おそらく自分たちと同じ電車を待っているのだろう。
「そういえば…学校どう?」
「どうって…」
「もう授業とか始まってるだろ?」
「う~ん…普通の高校とあんま変わらないかな。動画で授業受けて、たまに登校するだけで良いから楽だけど…」
「へぇ~」
電車が右側からやって来た。大きな音を出しながら電車がホームに停車する。
電車のドアが開き、他の人も電車に乗り込んでいく。俺達も他の人と同様、電車に乗り、空いている席に座る。
「ていうか…なんで今日メガネかけてるの?」
「いや…コンタクトをネットで注文するの忘れて、届くまでメガネ使ってる」
「なんか…新鮮だね。中学の時は裸眼だったよね」
「うん。見えずらいから高校に入学する前にコンタクトとメガネ用意した」
普段の学校生活ではコンタクトレンズを使っているが休日や家の中などは眼鏡で過ごしている。
電車の扉が閉まり、電車が揺れ始める。
「そっちの方が頭良さそうに見える(笑)」
「元からお前より頭良いだろ?」
「はぁ?私に一回テストで負けたでしょ?」
「一回だけな…しかもそれ中二じゃん」
「負けは負けだよ」
揺られること1,2分ほどで隣の駅に着いた。
一つ隣の駅のホームから改札を抜けて外に出る。4月も終わりとはいえ、今日は雲一つない晴天でかなり気温も高くなっている。
「あっつ~」
「いつも冷房の効いた病室にいるから、慣れてないんじゃない」
「うん…ていうか、歩くのも正直だるい」
「じゃあ…なんでお店に行きたいなんて言ったんだよ…」
周りの人よりも明らかに歩くペースが遅い。電車に乗っている人は少なかったが駅の外の大通りには多くの通行人が行き交っていた。
「だって~中学の友達がメッチャお洒落な写真とかインスタにあげてるんだよ。私も青春したいな~って思って…」
「そういうもんなのか…」
正直SNSはあまりやっていない。クラスの奴らとの話題作りのために、たまに見るくらいで自分から投稿したりはしたことがない。
「そうだよ…」
中学時代はクラスの中心人物で相当青春してたと思うが、本人には言わない。
「お店ってどこら辺?」
「そろそろ見えてくるはずだと思うけど…え?」
「マジ?」
美香から見せてもらった写真通りのお店が遠くに見える。しかし俺たちは足を止めた。店の入り口付近から出来ている長蛇の列の最後尾に並ぶため…
「嘘だろ…メッチャ並んでるじゃん」
「うん…人気だからね…」
「待つしかないか…」
「そうだね…」
列自体は少しずつ動いているがなんといっても長い。すぐには店に入れないだろう。
「何やってるの?」
「ん?ゲーム…」
この前、影宮先輩がやっていたゲームを開いていた。先輩がやっていたため久しぶりに開いてみることにしてみた。
「…へぇ~私もやってみようかな」
「結構容量デカいぞ…入るか?」
「あ……無理だわ」
「やっぱりな」
美香は中学の時からSNSをやっているため写真のフォルダがすごいことになっているのを一度見せてもらったことがある。
「スマホ変える時、容量も増やしたんだけどな…」
「今どのくらい使ってんの?」
「もう8割超えてる」
「oh…すげぇな。俺、全然写真とか取らないからな~」
おそらく自分の写真フォルダには100枚ほどしかないだろう。
「じゃあ…今撮ろうよ」
美香は手慣れた手つきで何やらスマホの画面を操作している。
「ほら…寄って」
「…ん」
美香のスマホの画面にはカメラアプリが開かれていて、内カメの画面が表示されている。フィルターなのか美肌効果なのかよくわからない物がかかっているためいつもの自分よりかっこよく見える。
「はい…撮れた」
シャッター音が二回、その後すぐに美香は携帯の画面を確認する。中学の時も何度か一緒に写真を撮ったが、高校生になってからは初めてだ。
「ちゃんと撮れてる。ほら…」
「おぉ…スゲッ…こんなにきれいに撮れるんだ」
「違う…私が上手いの」
「さすが…」
彼女はスマホをこちらに向けて、自慢げに見せびらかしてくる。
「あっ…真君にも送るね」
「うん」
すぐにさっきの写真が送られてきた。実は俺の写真フォルダの半分くらいはこんな風に撮った彼女との写真がほとんどだ。
「失礼します。二名様ですか?」
「あっ…はい」
突然店員であろう女性が話しかけて来る。いつの間にか列の最前まで来ていた。
「お席が空きましたのでこちらにどうぞ…」
「は…」
「はい」
俺が店員についていこうとすると何故か美香が俺と店員の間に割って入ってきた。店員もそれに驚いていたが、それでも笑顔のまま俺たちを店の中に案内していく。
「では、こちらになります」
店内は落ち着いた色合いで天井にゆっくりと回るファンがいくつかついていた。カウンターの一人席や大人数のテーブル席などがある。
俺たちが案内されたのは入口から最も遠い二人席、小さめのテーブルと椅子が二つ向き合う形で置いてある。
「ふ~…やっと入れた」
「結構広いね」
メニューを取って中を見る。お洒落なパンケーキ、でかいワッフル、聞き覚えのないスイーツがたくさん書いてある。今どきのスイーツとか一個も分からない。
「わっかんねぇ」
「貸してみ」
彼女にメニューを渡す。彼女はじっくりとメニューを見て吟味している。暇なので店内を見まわしてみる。
右側は壁なので、左側をチラッと覗く。隣の二人組はもう既に食べ終わり、帰る準備をしている。
「ねぇ…なんで他の女、見てんの?」
「いや…ちょっと店の中を見てただけだよ」
「嘘…絶対見てる…そんなに見たいなら私を見なよ」
「もう飽きるくらい見たって…」
「飽きるくらい?」
あっ…やべ…
「ふ~ん…私のこと飽きたんだ…」
「そういう意味じゃないって…その…」
「…奢って」
「え?」
「ここ奢ってくれたら、許してあげる」
顔を見ると、笑顔だった。しかし、目が笑っていない。明らかにこぶしに力が入っている。これを断ったら何されるか分からない。
「ごめん…奢ります」
「やった~、すいません」
奢りが確定した彼女は近くにいた店員を呼び止めた。よく分からない単語で注文をしている。
「ねぇ…何食べるの?」
「う~ん…美香のお任せで」
「了解」
さっきメニューを見たがどれが人気なのか分からなかったので、注文はすべて美香に任せる。
ん?ちょっと多くないか…少し注文している時間が長いような気がする。気のせいだよな。
「以上でよろしいですか」
「はい…お願いします」
店員はそっとテーブルから離れて厨房と思しき場所に行ってしまった。隣の席の人もいなくなっていた。
「何頼んだの?」
「秘密…来てからのお楽しみ」
「ふ~ん」
席に着いたときにもらったコップの水を一杯口に含んで飲む。
「お席の方、こちらになります」
「ありがとうございます」
外にはまだ多くの人が並んでいるため、席が空けばすぐ人が来るらしい。もう隣の席に人が来ていた。
「え?」
「はぁ?」
俺の目にはそこに立っている赤い目をした黒髪の女が写っていた。
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