第6話 嘘と本当は紙一重
「まだ…居るかな?」
もしかしたらもう既に帰ってしまっている可能性があるかもしれない。心の中で予想そうしながら月の教室に向かう。
「い…いねぇ。どうしよう」
彼女の教室は俺の教室のすぐ隣にあるのですぐに着いたが、肝心の彼女はいなかった。教室にはまだ三分の二ほどの生徒がいたが彼女の姿は見当たらない。
「あれ?…藤原じゃん」
「えっ?…あっ朝霞」
そこに居たのはショートボブの女子だった。名前は
「何してんの?」
「えっと…る…血原さんって帰った?」
「血原さん?…う~ん」
朝霞は教室を見渡して確認している。彼女は中学時代のころから誰とでも離すことが出来るくらいのコミュ強だ。月とも話すことはできるだろう。
「荷物はあるけど…いないね。お手洗いかな?」
「私の事ですか?」
「うわっ」
いきなり後ろから声を掛けられて体が跳ねる。後ろに声の主が立っていた。
「あっ血原さん…こいつが探してたよ」
「ありがとう…朝霞さん」
「どういたしまして。じゃっ」
そういって朝霞は教室にいる友達のもとに戻って行ってしまった。俺と月だけが取り残される。
「何の話してたの?」
「特に何も…」
「仲良さそうだったね…私なんかと話してる時より」
拗ねたような顔をしている。さっきのやり取りも見ていたみたいだ。やはり昼間の事を気にしているのだろうか。
「そんなことないよ…あいつとは中学の時に同じ部活だったからで…」
「やっぱり…重い女よりあんな感じの明るい子が好きなんだ…」
彼女は俯いてそういった。すると…
「ううっ… うっうっ…」
急に両手を顔に当てて、泣き始めてしまった。彼女のそういう一面を見たことがなかったので少し動揺した。
「え…ちょっ…そんなことないよ」
「でも…君の表情…楽しそうだった」
「……ごめん」
「え?」
彼女は顔を手で覆ったままの状態だ。そのまま話を続ける。
「その…俺のために朝早くに起きて、弁当作ってくれたんだよな。それなのに…あの態度はさすがにひどかったよな。…ごめん」
「……お弁当どうでした?」
「す…すごい美味しかった。ちゃんと食べたよ」
「うれしい。全部食べてくれたんだね」
「え?」
顔を上げた彼女の顔に涙はなかった。それどころか目元は赤くはなっていないし、声も涙声ではなかった。
「えっ…もしかして噓泣き…」
「割と騙されやすいんだね」
さっきまで必死に慰めていた自分が馬鹿らしくなってきた。彼女は泣いてなどいなかったのだ。
「いつもよりおとなしいから、落ち込んでると思った?」
「う…そんなこと……」
「押しても押してもダメかなって思って、引いてみることにしたんだ」
「お前な…」
とりあえず彼女がいつも通りの態度で何とか安心した。
「でも……私以外の女と話してへらへらしてたのは許さないよ」
「え?」
本日二度目の変な声が出てしまった。いきなり態度が二転三転するので怖くなってくる。
「私と話すときはあんな顔しないよね…真」
「いや…別に話すときの表情なんて、いつも同じだろ…」
「ううん…いつも真のこと見てたからわかるよ…私といるときは本当の笑顔じゃない」
何気に今、ストーカー宣言をされているのか少し気になるがそのまま聞き続ける。
「私と話してる時と妹さんとか他の友達と話してる時の顔が少し違う」
いや妹と話してる時の顔までは分からないだろと思いつつ、言い訳をする。
「だって…まだ知り合って三日も経ってないんだよ…」
「三日も経ってない……確かにそうだね」
彼女は少し間を開けていたが、彼女とは昨日初めて会ったはず。それ以前に彼女と会った記憶はない。
「でも…弁当は美味しかったよ。本当…」
「ミートボールとかどうだった?」
よりにもよって一番微妙だったものを聞かれる。他のおかずだったらすんなり美味しかったと言えるが、少し言い淀んでしまう。
「う…うまかったよ」
「そう…よかった。実はねあのミートボール…」
彼女は少し恥ずかしそうに顔を赤らめている。
「……実は私の血を入れてあるの…」
「え?」
本日三回目の「え?」を言ってしまった。頭が理解したくないと言っているかのように思考を拒絶してくる。
「な…なんて言った?」
「私の血が材料に入ってるの…あのミートボール…」
反射的に口元を押さえつけてしまう。もう既に3時間ほど前に口に入れてしまっているので今更口を押えても意味ないのは分かっているが無意識にやってしまう。
「美味しいんだ~私の…血」
「お前…それはさすがに…」
普通の材料で作ってあるか、冷凍食品だと思っていたがまさか自分の体液を入れているとは思わなかった。したくもない想像をしてしまい、背筋がぞっとしてしまう。
「まさか、他にも何か入れたのか?その……唾液とか汗とか…」
ミートボール以外は本当においしかったので何か入ってるとは思いたくないが、一応聞いておく。
「え~血液よりそっちの方がよかったの?」
「違う。そういう意味じゃなくて…」
「大丈夫…他には何も入れてないよ」
根本的な問題は全く大丈夫ではない。しかし、取り合えず他に変なものは入っていなかったらしい。
「もう絶対お前の作った料理は食べない…」
「そんなこと言わないでよ」
ヘラヘラしながらそばに寄ってくる。まだ衝撃が抜けていない。今後もこんなことがあるのだろうか。
「ほら…帰ろうよ」
彼女はすぐそばに寄ってきてそういってくる。昨日と同じように腕にくっついてくる。
「ごめん…今日だけは一人で帰らせてくんない」
「え?なんで?…もしかして弁当のこと本当に嫌だった?」
「そういうわけじゃない」
「嫌だったたらもうしないから……ごめん。だから…嫌いにならないで」
今度の彼女は本当の涙を浮かべて目が潤っていた。腕を掴んでいる彼女の手に力が入る。ここが教室の前ということを忘れているのか、声も少し上ずっている。
「そういうわけじゃないって…今日はちょっと用事があるだけだから」
「ホント?…私のこと嫌いになったわけじゃないの?」
「本当だよ……別に嫌いってわけじゃない」
「じゃあ…好き?」
その質問にはきっぱりと答えることが出来ない。
「…話しやすいな…とは思う」
何とかその質問を切り抜ける。彼女は納得したのかよく分からない顔をしていた。
◇◇◇お礼・お願い◇◇◇
どうも広井 海です。
第六話「嘘と本当は紙一重」最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回は新しいヒロインを出す予定なのでお楽しみに
少しでも良いなと思っていただけたら☆評価、いいね、コメント等をぜひお願いいたします。
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