第5話 共感力の危機

 こうして、ドクター・オカザキにより開発された新たな技術である「エンパシー・エンハンサー」を使って、赤ちゃんから成人になった一人である女性サユリは、その共感能力を使って、ある事業を行っていた。


 それは、うつ病や不安神経症に悩む人たちのための心理カウンセリングであった。サユリは臨床心理士であり、その生まれ持った才能によって、人の気持ちを理解し、感じ取ることができるため、クライアントの悩みを解決することに長けていた。


 しかし、サユリはある時、クライアントたちのあるパターンに気づき始めた。その多くは幼少期に、外部から操作的にネガティブな感情や思考を受けたようなのだ。さらに調べてみると、ある集団が「エンパシー・エンハンサー」を模倣した技術を使って、自分たちの利益のために他人の感情を操作・制御していることがわかった。


 それを知ったサユリはショックを受けた。かつて、自分たちのような超能力を持つ赤ちゃんを守るために用いられていた「サイキック・シールド」や「エンパシー・エンハンサー」が、権力と支配を求める人たちの道具になっていることに気づいたためだ。サユリは、手遅れになる前にそれを阻止するための行動を取らなければならないと確信した。

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