【三題噺 #35】「気配」「城」「フライ」(777文字)

 嫌な気配と視えるだけの男

 仕事が忙しく食事を作る気力もなかったので定食屋に入った。

 席につき日替わり定食を頼む。定食屋のテレビは歌番組で「イルカにのった少年」をやっていたが、興味がないのでスマホで株価のチェックを始めた。株価を見始めてどれくらい経っただろう。突然嫌な気配を感じたので顔を上げると、テレビでは人骨が数人分発見されたというニュースを流していた。

 同じ県に住んでいるが初めて聞く城址公園で、郷土資料館改修工事中に発見されたらしい。古い人骨なので城を築くための人柱ではないかと言っている。僕は店員から「お待たせしました」と声をかけられるまで、嫌な気配に固まっていた。その日の日替わり定食はアジフライ定食だった。美味しそうなアジフライだったのに味がよくわからなかった。

 半月後の休日にと城址公園に来た。半月も経てば人の興味もなくなり興味本位の人間はいないようだった。工事も休みなので工事関係者もいない。

 周りを見て人がいないのを確認すると、立ち入り禁止の看板の横を入っていく。          

 人骨が埋まっていた場所はテレビを見た時に感じた嫌な気配は薄まっている。ハエがやたらと飛んでいる。

 実際に視てわかった。あの人骨は人柱ではない。調べれば城よりももっと古いものだとわかるだろう。城が築かれるずっと前のここの嫌な気配を鎮めるための生贄だ。その場所に後から城を築いたので人柱と勘違いされたのだろう。

 だが人骨を取り出してしまったのはよくなかった。今まで鎮められていた嫌な気配が解き放たれてしまったのだから。築城当時、この人骨は見て見ぬふりをされたのだろう。

 数日後、郷土資料館が焼け落ちた。おそらく、これは始まりだ。これからも災いは続くだろう。

 災いをなくす方法が二つある。

 一つはあの嫌な気配が満足するまで災いを起こすのを、じっと我慢する。もう一つは生贄を捧げることだ。生贄が何人必要になるかはわからない。

 

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