V.i.P.s アンブレイカヴル×データ.WWW

九羽原らむだ

『Welcome To V.I.P.s』

Deta:ZERO 【ヴァンキッシュ・イグナイト・パトリオッツ】

TURN.01「ハイウェイ・トゥ・ヘル(Part,1)」


 ----夜の街。ネオンライト輝くメトロポリスの紫の空。

「逃がすかァアッ……!」

 こだまするのは一人の軍服少女の歯ぎしり交じりの叫び。

 ホテル、マンション、ビジネスビルのジャングルの狭間。ジェットコースターレーンの如く乱雑に入り込まれた首都高速。障害物など何もない一本道の空中ハイウェイを二台の巨大バイクが駆け抜ける。

『おっとぉおおッ! ナンバー02【Vi0ヴィオ】が更に加速するゥウッ!』

 バイクレースだ。今、メトロポリスでは競争が繰り広げられている。下の世界では夜の街を楽しむ者達の歓声と熱狂。

 その上空のハイウェイステージを照らすのは広告のビルボードにホログラム、そしてネオンライトの矢印看板。最高のステージを見下ろすために専用のヘリに乗ってレースを楽しむユーザー達までいる。

「残りのザコはどうでもいいんだッ……私の目当ては目の前のアンタだけッ!!」

 二位のマシンに跨るプレイヤーは一位のマシンから目を離さない。

 十六人一斉に行われるこのレースは既にこの二台の独走状態だ。この二人のどちらが勝利するか既に賭け事も行われている。

「こっちは加速してるってのに更に離れていくッ! 想定通り早いじゃん……流石に五回連続で一位とってるだけのことはある。マシンもイカレてるけど、そのマシンに跨るアンタもデンジャラスな思考回路ってワケねッ!!」

 このイベントレースはメトロポリスのみで月に一回行われる特別なレース。報酬の額も商品も相当なモノが用意されている。それを目当てに参戦する者は多い。

「だけど! コッチも他のメトロポリスでは一位を総舐めしてるんだよッ! アンタに負けない実力は持っているはずなんだッ!! ココの賞金首ッ、アンタの首は私がもらうッ!! その為に私はここへ来たってのよッ……覚悟ォオッ!!」

 次に待っているのは800メートルの超巨大タワーを渦巻き状に囲むよう建設されたコース。回転しながら更に真上へと上昇していく……道路は80度斜めに傾いているため、少しでもスピードを緩めればマシン諸共プレイヤーは底へ真っ逆さまだ。

「……」

 一位のマシンはスピードを上げる。エンジン全開だ。

『さぁ、ここから先は天国へのワインディングロードッ! しくじればゴー・トゥ・ヘルッ!! お前達にッ、この道を駆け抜ける覚悟はあるかァアッ!?』

 路上にはマシンのスピードをより早めるダッシュパネルがある。それを利用し、マシンのスピードを最大限にまでアップさせる。

「スピードを速めた! なら、コッチもッ!!」

 二位のマシンもダッシュパネルを踏む。

 一位のマシンと共に渦巻きコースへと移行。路上の影響でプレイヤーはマシンと共に姿勢が完全に傾く。もう後戻りは許されない。

「……風すごっ。吹き飛ばされそう。ちょっとでもスピードを緩めれば文字通り地獄へ真っ逆さまってワケだ」

 これだけのスピード。目元はヘルメットでカバーされているとはいえ、体に叩き込まれる風圧の威力は底知れず。少しでも気を抜けば意識が吹っ飛ばされそうになる。

 しかし二台のマシンはコースを駆け抜ける。瞬く間に塔の上空まで駆け抜けた。

「流石ね。ここのメトロポリスのコースは他と違ってデンジャラスでアナーキー! プライドをボッコボコに殴り殺してくるッ! 」

『さぁ! 頂点に辿り着いたなら……ッ!! 急転直下のジェットコースターをお楽しみあれぇえええッ!!」

 上空まで駆け抜けた二台に待っていた次のコースは急降下。これまた路面は真下へ70度近く傾いている。そんなジェットコースターを600m近く突っ切る。

 正気の沙汰とは思えないコースだ。現に後ろの方では渦巻きエリアを走り切れず降下していくプレイヤー達の悲鳴。その悲鳴に怯え、渦巻きエリア手前でマシンを停止させ棄権する者達が続出している。

「でもそのイカレぶりがいいッ! 興奮するっ! 刺激が私を覚醒させるッ!!」

 残ったのはこの二人のみ。正気ではないプレイヤー二人のみだ。

「いざッ!! 勝負ッ!! クールでニヒルなバイザー男ッ!!」

 二台のマシンは一気に急降下。

 渦巻きエリアとは比べ物にならない風。600メートルのダイビングを駆け抜けた先、オレンジのライトで照らされたトンネルの中目掛けて突っ込んでいく。

(……あのマシン。姿勢が崩れるどころか、むしろ涼しそうにみえる。どんだけレースに慣れてるのか、或いは精神構造がとことんイカれてるのか。その両方か)

 一位のマシンと未だに距離が縮まる様子がない。このままゴール目掛けて一直線か。

「まぁ私も他人のこと言えないかッ!」

 二位のマシンも最高速で駆け抜ける。その距離、僅か15メートル。お互い最後のスパートをかけ、首位を目指す----!!!

「この勝負は私が貰った!! その首ッ、貰い受けッ---」

「……ッ!!」

 ゴールまであと200メートル------その手前。異変は起きる。

「えっ!?」

 二位のマシンも異変に気付いたようだ。一位のマシンの様子もおかしい。

「くっ……!!」

 そう思った矢先、一位のプレイヤーは……

(なんでよッ……なんでこんなところで勝負を捨てたッ……!?)

 マシンは速度を落とすこともなく、無人のままコース前方を突っ込んでいく。

 二位のプレイヤーも即座に飛び降りる。当然、一位のマシンを追うように二位のマシンも無人のまま突っ込んでいく。


 先に騎手を失ったマシンの速度が落ちていく。そのまま追いついたもう一台のマシンと衝突し……大破、爆発。

 トンネル内に耳も割れるような轟音が鳴り響く。二人とも耳を塞ぎ爆風に備える。地を踏ん張り、姿勢を整えた。


「……何のイベントだか知らないけど」

 二位のプレイヤーはヘルメットを脱ぐ。黒ずくめの軍服に身を包んでいたのは……銀髪の美少女だった。

「不愉快極まりないわ……!」

 汗をはらうために首を振るうと、髪はダイヤのような輝きを放ち、オイルの残り香漂う風に靡く。少女はとても不機嫌だった。



……ッ!!」

 ---前方。トンネル出口の火の海の中。


 現れるのは……

 マシンの爆発をウンとも言わず佇んでいる魑魅魍魎モンスター達。何処から現れたのかも分からない人型の怪物は黒いモヤを放ちながら二人のプレイヤーに向かってくる……!!


「新しいモンスターだか知らないけど……」

 軍服コスチュームの少女は虚空から何かを取り出す。

 突如現れた電子飾の扉。そこから現れ出るは……真紅の光を放つ刃の日本刀。

「お前らのその首ッ……掻っ捌いてやるッ!!」

 少女はその刀を手に取り、化物達へ単身突っ込んだ-----

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