第124話 過去への混濁③

〜サイド3〜 悟郎さん


 住処に戻ってから、士郎は色々やっていたけど、なんだか無理をしてるみたいだった。


 もう休もう?そう言ったら、やっと止めてくれた。


 その夜、いつもと同じ様に士郎と一緒に寝たんだ。


 そうしたら、小さい士郎がいたんだ!


 士郎が小さくなっちゃった!


 僕は、びっくりして士郎にかけよった。

 でも、いつものように肩に乗ろうとしても、できなかったんだ。


 士郎って、呼んだのに聞こえてないのかな?


 それに見たことない場所だ……。


 “まち”とも違う…知らないところ。

 士郎と同じ種族がいっぱいいた。


 士郎の仲間がここにいるのかな?

 小さい士郎は同じくらいの人と一緒になんかしてる。


 あそんでるの?士郎が笑ってる!


 そこには、一人だけ大きな女の人がいた。

 なんだか、“まち”で声をかけて来た人にちょっと似てる。


 “こんなおかあさんならいいのに”って、士郎から伝わって来た。“おかあさん”ってなんだろう?


 分からないけど仲間にしたいのかな?

 いろいろお話ししてる。


 しばらくしたら、小さい人たちとそこを出て、士郎は一人で歩き出した。


 “帰りたくない”。とてもゆっくり歩いていた士郎からそう伝わって来た。


 住処に行くんじゃないの?


 士郎が来た所はさっきより大きいのに、入ったらとても小さかった。

 他に人の気配がするけど、士郎はそっちに行かないの?

 声がする方に行かず一人で士郎は“ほん”を見ていた。


 辺りが暗くなって士郎は“ほん”を見るのを止めた。

 灯りは付けないの?

 そのまま寝床に士郎はもぐってしまった。


 しばらくすると、いい匂いがして来た!


 士郎ご飯だよ!起きてよ!


 それなのに士郎は寝床にもぐったまま出て来ない。


 ねえ!士郎!ご飯食べないの?お腹減ってるでしょう?どうしたの?士郎?


 まだちょっと暗いけど、朝になってやっと士郎は寝床から出て来た。


 服を着換えてそのまま外に行った。

 どこに行くの?獲物をとりに行くの?


 士郎はまた“まち”の中を歩いて行く。

 お店でご飯かうのかな?


 道を進んで行くと、お店の人が士郎に声をかけて来た。


 士郎に何か袋を渡してる。


 あまりいい匂いはしないけど、ご飯のお店なのかな?

 士郎は“ありがとう”を言ってから、そこからはなれて行く。


 “良かった。今日はもらえた。”士郎から嬉しそうな気持ちが伝わって来た。


 士郎は寝床のあった所より大きい場所に来た。


 ひろばの隅にあったイスに座って、さっきもらった袋をあけた。

 茶色の棒みたいなヤツで、匂いもしないし、あまり美味しくなさそう…。


 半分食べたふくろをしまって、水がでるところでたくさん水を飲んでた。


 カバンからはみがきぼうを出してはみがきするの?

 ご飯もう食べないの?ちっちゃい士郎でも足りないよ!


 それから布をぬらして、からだをふきはじめた。

 あ、士郎お水のはこに入るの忘れたからかな?


 それからちっちゃい人がいっぱい集まって来た。


 士郎の種族はいっぱいいるんだな。


 しばらくは、みんなずーっと座って話しをきいてた。


 ちょっとつまんない。


 でもお昼ごはんは、みんなと同じ物を士郎も食べてた。


 士郎はほんをみてる時がおおい。


 他のちっちゃい人みたいに、外に出て一緒に遊ばないのかな?


 そのあとは、またバラバラに別れて住処に帰るみたいだ。


 士郎はちがう所に行くのかな?


 士郎が行ったのは、すごくたくさんのほんがある場所だった。


 僕には分からないけど、おもしろいのかな?


 士郎が座ってほんをみてたら、大きな男の人が来て、士郎に何かをはなしてる。

 すると、士郎はびっくりした顔をして他のほんをさがしに行った。


 ほんをみて、またさがして、またみてを士郎はなんどもくりかえした。


 そのあいだにも、僕に士郎の気持ちが伝わって来る。


 ずっと、“どうして?どうして?”と分からないことを聞くみたいにくりかえしてた。


 ほんがいっぱいある所から帰るときには、士郎は調子が良くない士郎になってた。


 住処に戻った士郎は、まだ明るいのに寝床にはいっちゃった…。


 それからまた、前に行ったことのある場所にちっちゃい人達と一緒に士郎は遊びに行った。


 あれ?緊張してるの?この前は大丈夫だったのに、どうしたの?士郎?


 今日は、大きい女の人とは話さないのかな?


 士郎はちっちゃい人達と遊んでる。

 そのままみんなと帰るまで一緒に遊んで、帰る時に大きい女の人が、何か独り言みたいに言った。


 僕は、良く分からなかった。


 でも、それが聞こえた士郎はからだをキュって固くして、急いで歩いて行った。


 今日はほんがいっぱいあるとこ行かないのかな?


 そのまま士郎は住処に帰ったけど、見たことない大きい女の人がいた。


 だれ?士郎が嫌な気持ちになってる!


 二人で言い合いして、ケンカみたいだ。


 そうしたら士郎が『弟バカがなのも、親父が帰って来ねーのもアンタのせいだろ?』って、大きい女の人に言った。


 大きい女の人が物凄い怒った顔をして、いきなり士郎を殴った!


 酷いよ!士郎はまだちっちゃいのに!


 殴り飛ばされた士郎は、カベに当たって動かない。


 それなのに、大きい女の人が士郎を蹴った。


 やめろよ!お前が士郎をいじめてたんだな!!


 士郎を守りたいのに、僕にはさわれない!

 どうしてだよ!なんでなんだよ!!


 士郎!起きて!早く起きて!!

 お願い士郎!!

 僕どうしたら、士郎を助けられるの?

 士郎、早く起きて!!




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「ニャウニャッ(はやく)!ニャゥニャゥ(おきて)!」


 あ!!士郎に触れた!

 士郎!!起きて!早く起きて!!


「……………………うぅ…………………痛っ!痛い!悟郎さん?!どうしたの?まだ朝じゃないよ?外真っ暗じゃん!!」

「ニャ(うん)。」

「どうしたって言うのさぁ……。朝っちゃ朝だけど、4時は早いよ…。」

「……ニャッニャゥ(眠い)。」

「そりゃそうだよ……。一緒に寝直そ?」

「ニャ(うん)。」


 士郎………さっきのちっちゃい士郎は、強くなる前の士郎なの?


 大きい士郎はもう強いから大丈夫?


 時々、変な士郎になるのはそのせいなの?


 でも、ここなら僕はいつも士郎と一緒だから、士郎は僕が守るんだ!


 僕は、士郎の温もりと優しい手に撫でられ、そのまま眠っちゃった。


 起きたら元気な士郎だといい…な………。

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