第20話 両極端な剣士たち
「戦う? 誰と誰が」
突発的な俺の提案に、フレイヤが首を傾げる。
「当然フレイヤ嬢とセラ嬢がね。俺はその戦いを見て、君らの欠点があれば指摘しよう。それでどうかな?」
「なるほど……そこが妥協点ということね」
「そういうこと」
どうやらフレイヤは俺の提案に賛成らしい。同時に真横のセラを見る。セラは俺とフレイヤに見つめられ、びくりと肩を震わせた。恐らく自信がないのだろう。戦々恐々と顔に書いてある。
「わ、私が……剣聖の娘であるフレイヤさんと……? 勝てるはずないじゃないですか!」
「別に勝てとは言ってない。ただ二人の力量をこの目で見るのにちょうどいいだろ? もちろんフレイヤ嬢は手加減すること。それでいいだろう?」
「っ……わかり、ました」
渋々といった感じでセラが頷く。うーん……全身から諦めのオーラが出てる。勝負っていうのは、最初から諦めてると本来のポテンシャルを完全には活かせない。マイナスな思考が動きを狭める。
これまでよほど酷い結果を残し続けてきたのだろう。それには同情するが、剣を教えてほしいと言ったのは彼女のほうだ。これくらいは覚悟してもらわないとな。
「じゃあ了承ももらったし、もう少しひらけた場所で戦おう」
「え? 第一訓練場に行くんじゃ……」
「悪いけど俺は忙しいんだ。わざわざそこまで行ってる時間が惜しい。真剣での戦いが怖いっていうならこの話は終わりだ。俺は行く」
厳しいようだが無理を言ったのは二人。俺が譲歩できるのはここまでだ。
「私は構わない。ちゃんと寸止めくらいはする」
「……頑張ります」
セラの奴も覚悟を決めた。
そういうわけで俺とフレイヤにセラの三人は、人の目があまりない校舎の陰に移動する。魔法の使用は禁止という試験と同じルールを課した上で、二人は剣を鞘から抜いて構えた。
「準備はいい?」
「ええ」
「はい」
「それじゃあ模擬戦を始めてくれ」
コインを弾く。くるくると回転しながらコインが地面に落ちた。
——その直後、二人が同時に地面を蹴る。
身体能力に差があると思ったが、セラは反射神経がいいらしい。コインが落ちた瞬間にちゃんと体を前に突き出した。片やフレイヤはセラに比べると反応こそ遅れたが、身体能力は高いので後からでもセラに追いつける。
互いの剣が左右からぶつかってけたたましい金属音を響かせた。速度では同等の結果を出したが、腕力による差はセラの反射神経では補えない。ぎりぎりと鉄を削りながら、しかし徐々にフレイヤの剣がセラの剣を押していく。慌ててセラはフレイヤの剣を払い後退する。それをフレイヤがジグザグにステップしながら追いかける。
不規則な動きだ。時折速度を落としたりして相手の感覚を鈍らせる。そして見事にその作戦はセラの型を崩す。なんとか持ち前の反射神経を使って必死にフレイヤの攻撃を防ぐが、やがて彼女の防御は遅れはじめ、刹那の剣戟においてそのズレは致命的なものへと変わる。
ちょくちょくセラの攻撃のほうが速かったりするが、それでもフレイヤの身体能力とセンスにごり押しされてるな。しかもいくら反応できても体が追いつかない。あれじゃあ……ほら、すぐにガス欠になって負ける。
俺の予想していたとおりの展開になった。
嵐のような連撃を浴びせるフレイヤの動きに、セラの動きがまったく追いつかなくなり、やがてパワーの差で押し負ける。疲労から見えた隙を下から掻っ攫い、斬り上げをモロに喰らったセラの剣が強い衝撃を受けて宙に飛ぶ。あとは丸腰になった彼女へ剣の切っ先を向けて、見事フレイヤの勝利となった。
「そこまで。フレイヤの勝ちだ」
終了の合図を出すのと同時に、落ちてきた剣が地面に突き刺さる。
腰をついて倒れたセラは、悔しそうに俯いた。はじめから勝てるわけないと言ってたわりには、ちゃんと悔しがるんだな。それなら、きっと彼女はまだ強くなれる。そう思った俺は彼女に構わず言った。
「いい勝負だったな。フレイヤが手加減してるとはいえ、セラの実力は俺の想像以上だった」
「……え?」
俺の言葉に不思議そうな表情を浮かべてセラが見上げる。
「まずセラ嬢は反射神経がいい。たぶん動体視力もかなりいいんだろう。それだけなら少なくともフレイヤ嬢より上だ。にも関わらず、動きが遅い。ビクついてるし、それで後手に回るとかなりキツイぞ。守るより攻めに出たほうが君の才能にはあってるかもしれない」
腕力なんかの身体能力は、レベリングすれば上がる。反射神経は守りでも遺憾なく発揮されるだろうが、なんとなく彼女の真髄は攻めでこそ発揮されると俺は思ってる。あれだけの反応の良さ、攻撃に転化できればかなりの器になるだろう。
それに、ビビッてばかりの彼女にはそっちのほうがまだマシだ。
「逆にフレイヤ嬢は身体能力と勘に頼りすぎる。反応が遅いのも動きに対応できていない証拠だ。取り合えずより速く、より強く打ち込もうとするのはわかるが、センスがあるんだから後手に回ってみたらどうだ? フレイヤ嬢みたいなタイプは、間合いをきっちり把握した戦闘のほうが似合うと思うよ。俺みたいなね」
「あなたみたいな戦闘スタイル? それは、昨日見たあれ?」
「ああ、そうだね。セラ嬢は持ち前の反射神経や動体視力で間合いを測れるだろうが、フレイヤ嬢なら感覚的に動き続けるより、理論的に学んだほうがいい。事実、能力だけで剣を振り回してたせいで、何回かセラ嬢からの攻撃にびっくりしてたし」
ある意味、両極端な二人だ。
セラは優秀な目を持つが、成長が遅く剣術関係の才能はあまりない。
逆にフレイヤは剣術や運動能力、センスといった部分に高い才能を持つが、それゆえに力任せな一面が目立つ。
二人の能力が合わされば最強だったのに。
ちなみに
「間合いを測る。後手に回ってカウンターを狙う……」
「私は先手を取って果敢に攻める……自分の長所を活かして、相手の防御を崩す……」
「まあ今のは単なる一案に過ぎない。今のままのスタイルを突き通すでもいいし、セラは後手、フレイヤは先手でも十分に戦えるだろう。大事なのは、なにが自分に最も適しているのかを見つけること。停滞は強さも才能も潰す。いろいろ考えて自分にとっての最適解を見つけるといい」
あくまで俺はプレイヤーでありモブだ。剣術の指南などできない。ただ、それっぽいことを言っておけば彼女たちも納得するだろう。化けるかどうかは彼女たち次第だ。
「そういうことで俺はそろそろダンジョンに行くよ。またね」
これ以上は付き合いきれない。手を振って思考の海に浸る二人と別れた。
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あとがき。
アドバイスは適当です。ぶっちゃけレベルを上げたほうが早い(ただし危険)
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