炙り出しアブノーマル

 今日は私がカメラマンとして初めて企画し、撮影した写真集が発売される日だ。


 内容が内容あれなので、もちろん平積みにはされないと思うけど……、

 まさか店頭に並ばないってことはないでしょ。


 発売を確認するためにも(電子書籍では出していないので、実店舗にいかないと確認できない)、書店に足を運ぶ。


 町の小さな書店にはないだろう、と早々に諦めたので、駅前の大型書店へ向かう。

 新刊コーナーではなく、最初から写真集コーナーへ。


 平積みにされては……いないわね。じゃあやっぱり棚の方かな?


「あ、あった」


 少し奥へ入ったところである。隠すような置き方だ……仕方なし。


 私が売る側だったとしても、同じことをすると思う。


 見慣れた私の名前。

 そしてタイトルを見つけたので手を伸ばす――


「あ」


「あ、すみません」


 互いの手の甲が当たってしまった。同じく、私の写真集を取ろうとしていたお客さんがいて――まるでこれが恋の始まりのように、私たちは出会ってしまった。


 大学生くらいかな? 毒にも薬にもならないような、清潔感がある平凡な青年だった。


「私こそすみません。この本ですか?」


 取り出し、私の写真集を彼に手渡す。


「はい。ありがとうございます。

 でもよろしいのですか? お姉さんも、だって、欲しかった本なのでは?」


「まだ隣に数冊ありますから、どれも同じですよ」


「それもそうですね……では失礼します」



「あの、お兄さん」

「はい?」


 彼は私をお姉さんと呼び、私も彼をお兄さんと呼ぶ……、

 どっちが上だか下だか分からないけど、たぶん同年代だろう。


「その写真集、好きなんですか?」

「――はい!」


 満面の笑顔だった。

 彼を見送って、あらためて私は、棚から写真集を取る。



『緊縛女子高生/苦痛の表情ベストコレクション』



 企画して撮影する私もあれだけど、それを買うあの子も――



「犯罪予備軍だよねえ……」



 でも、実際にできないから買っているわけで――

 私だってプライベートでできないから企画し、押し通して仕事としてやっているわけだ。


 正規の手順でこの欲を消化しているのだから、

 最も犯罪から遠い『異常者』と言えるのかもしれない。



 ―― 完 ――

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