第2話 ジャガーイーモと、ゼロからお金を得る方法
(How to Get Money re:ZERO with JuggerPotoooooooo)
元々キャロップに乗っていた人の遺品を剥ぎ取り、彼はバッグやマントを手に入れました。キャロップには、かわいいからと半ズボンを履かせています。遺体は大地に埋めておきました。えらいですね。
暫くして、彼らは馬車を曳いた行商人に会いました。
「おや、めずらしい肉体をしていますね」
初めて会った生きた人間です。ジャガーイーモから話しかけようとしましたが、向こうからめずらしがってくれました。
「ははっ、よく言われます」
「ジャガイモの肉体ですか。食うに困らなそうで」
「ええ、食べると生まれ変われます。自分の体も食べられるようになりますが、痛みはありますし、すぐに治るわけではありません。普通の傷よりは大分早いですが。この子は私の体を食べて生まれ変わったのですが、たびたび自分の体を食べてしまっては痛がって後悔しています。ウマなので、ちょうど好物なものですから、なかなかやめられないクセのようです。ははっどうしますか」
ジャガーイーモはつい嬉しくなって、早口でなんとか興味を持って貰えるように色々と喋りました。
「ははっ、魅力的ですが、やめておきましょう。しかし、そうですね、二欠片ほど貰っておきましょうか」
「ああすみません。ざんねんながら切り離して1時間後くらいには、もう腐って食べられなくなってしまうんです」
「ああ、それは惜しい。……ふむ、実に興味深いお人だ。私が科学者なら是非とも実験体にしたいものですが、私は行商人ですからね」
「実験体になるほど、謎があるわけではありません。自分の体のことは知っていますから」
「ほほぅ、それは気になりますな。おっと、長らく立ち話をするくらいなら、ここでキャンプでもすることにしましょうか。どうです、私はあなたのことが気になります。お礼として、少しなら物を分けてあげても良いですよ」
人肌の恋しかったジャガーイーモは、向こうから誘ってくれてたいへんごきげんになりました。
「それは是非。バッグの中には何もありませんから。私は食べなくても構いませんが、この子は食べないと死んでしまいますので」
そうして二人は、暖かいお茶を飲みながら話し始めました。
「私の名はジャガーイーモ。旅人です」
「私の名はディアル。行商人です。このツノにひっかけると、物を運びやすくていいんですよ」
小粋に話すディアルさんは、シカ系の人でした。
「さて、まずは何から話したものか」
そう言って、ジャガーイーモは色々なことを彼に話しました。
「この名前は、故郷の村長がつけてくれたんです。ジャガイモの体と、強い力を持ってるから、ジャガーノートと組み合わせて、だから、ジャガーイーモって」
「ほほぅ、では、腕っぷしがお強いと」
「あっ……あぁ、ええ、はい……」
つい、トラウマが思い起こされます。
ディアルさんは、急に様子の変わった彼の機微を、敏感に感じ取っていました。
「なにか、お辛いことがあったのでしょう。苦しいことというのは、カミソリのようなものです。抑えつけようとすればするほど、心の中でより深く傷をつけます。さぁ、どうぞ、お話しになってください。幸い、私は誰の国の者とも言い難い、流浪の行商人です。裁く人は、誰もいません。さぁそうぞ」
「その、実は、人を、殺してしまって……」
ぽろっと、口に出してしまいました。ジャガーイーモは、自分でも驚きました。あんなに忘れようとしていたことなのに。
「あら、それはほんとうですか」
「ええ」
ぽろぽろと、涙がこぼれます。
「あれ、すみません、なんだか、涙が」
(ああ、そうか、僕は、ずっとずっと、誰かに認めて貰いたかったんだ)
無意識に、自分のしたことは間違っていないと思いたくて、だからふと気が緩んで、つい零してしまったのです。
「大丈夫です。さぁ」
ジャガーイーモは人の温もりに触れ、わんわんと泣きながら自分の罪について語り始めました。
「そうですか、それはお辛い。大丈夫、気にすることはありません」
「でも、村人達が苦しんでいることは事実だったんです。村長の孫も、村長を殺した人達と仲は良かったんです。そんな人達を、僕は殺してしまったんです。そんな僕に、罪が無いと言えるのでしょうか、許されることと言えるのでしょうか」
「言ったでしょう、私は警察でも裁判官でもありません。私は裁く権利を持ちません。だからただ、私はあなたのことを許す人間となりたいのです」
「ああ、そんな、あなたって人は」
「しかし、そうですね。私見を言えば、寧ろ罪に問われて当然と言えるでしょう」
一転して突き刺されたジャガーイーモは、深く傷ついた。
「でもね、あなたは正義の心で動いた。その心は捻じ曲がってなんかいない、正しい正義だった。ただ、間違えてしまっただけなんだ」
「ディアルさん……」
「村の人達からしてみれば、許されることではないでしょう。ですが、今のあなたは罪を自覚し、反省している。それで、十分なのです。彼らからしてみれば、いなくなってしまったのですから、死んだも同然です。帰って来るかもしれないという恐怖はあるでしょうが。もし帰るとなれば、その時は贖罪としてただ働いて奉仕をするしかないでしょう。どちらにせよ、結局罪と善行の関係というのは、怒りが忘れられるか否かに過ぎないのです。その上で、あなたはどうしますか」
少し悩んだが、答えは決まっているようなものだった。
「私が帰ったところで、いつ反乱されるか分からないと恐怖に陥れさせてしまうでしょう。なので、逃げたということもできますが、このまま、旅を続けようと思います」
「そうですか。私はその決定について何も言いません。私はジャッジメントではありませんから」
「ありがとうございます」
気持ちに一区切りがつき、話を本題に戻します。ジャガーイーモは、彼の身体、そして過去について語りました。
村で採掘をしていたとき、地下から自分が掘り出されそれ以前の記憶が無いこと。
体が壊れてもすぐに再生し、一欠片でも肉体の一部が残っていれば、再生できること。
彼の体を食べた者は、毒によって肉体が変化すること。特に、その者たちは痛みこそあれど自分の体が食べられるようになり、ジャガーイーモ程ではないが傷の治りが早くなる。ジャガーイーモと違って不老不死にはならないが、寿命が延びる。その人が他の人に体を食べさせても、肉体が変化する。そして子孫にも体の性質が受け継がれる、といったこと。
「おやおやおやおやおやおや、実に興味深い。今からでも科学者に転身したいほどです」
「はは、モルモットになるのは、勘弁してほしいものです。自分の性質については、家畜たちに食わせて色々と実験していました。なので、大抵の事はわかっているつもりです」
「いやはや、あまりにこの世界の常軌を逸している。ふむ、恐らくあなたは、この世界のものではないのかもしれませんね。或いは、作られたか変わったか、いえ、妄想はよしましょう。実に楽しい時間でした」
「いえこちらこそ、色々と」
「明日になったら、欲しい物を言ってください。大抵の物はお譲りしますよ」
「ありがとうございます。それでは、もう遅いですし、おやすみなさい」
二人はすっかり仲良くなって、床につきました。
翌日、ジャガーイーモはなんだか惜しい気がして、このまま行商人と二人で生きることも考えました。
しかしそのことを話すと、断わられてしまいました。
「あなたはきっと、何か大きな運命の中にある。それはきっとあなたにしか出来ない何かです。フフッ、行商人の勘とでも言いましょうか。ともかく、旅を続けてみることをおすすめします。それにきっと、また会えますよ」
そう言って、彼は去って行った。
「キャロップ、俺に、何かそんなものがあると思うかい」
キャロップはひぃん、と小さく啼きます。
「恩人の考えだ、従って見せようじゃないの」
ジャガーイーモはキャロップの背に乗り、小さく、しかし力強く歩き始めました。
つづく
―――――――――――
設定飼糧
ディアル Deerl
モチーフ:deerシカ+deal取引
行商人。40歳独身。バツイチで、妻子に逃げられた。
人間
・この世界での動物は二種類いる。人間に使役される動物と、そうでない動物だ。人間に使役される動物は我々の基準から言うと少し賢くなっているが、基本的には動物の知能のまま。そうでない方は人間の知能を持ち、二足歩行で歩く。
この世界で動物と呼ばれるものは前者にあたり、人間と呼ばれるものは後者にあたる。つまり人間と言ってもホモ・サピエンスの見た目をしている人はいない。
・この世界では人種は○○系と区別され、シカの見た目をしている者はシカ系と呼ばれる。かつては国によって分かれていたが、現在ではグローバル化が進みカラス系やライオン系などが混在している。
・肉食と草食の区別は人間には無い。この世界の人の平均寿命は80歳。鼠も鯨も大きさは変わらない。何故なら見た目が“我々の言う動物”の見た目をしているだけだからだ。但し系ごとに得意なこと、出来る事は異なる。例えば鳥類は飛べるし、魚類は泳ぎがうまい。
・違う人種で交配した場合、どちらか一方の系になる。但し一部の組み合わせでは、混じり合って別の系になる。たとえばロバ系とウマ系が交配すると、ラバ系かケッテイ系になる。
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