第2話 本題
苦痛だった初めの記憶は、飼っていた子猫を父にヤブへ放られたことである。
本当に、マンガのように飛んでった。
あまりのことに口がきけなくなった。
家の廊下は狭く、父と通りすがると彼のひじがわたくしの胸に当たる。
なにを意図しているのか、ぐりぐりっと押されるのでふくらみ始めはとても痛かった。
上蓋を閉じる。
うぶ毛が生えたと聞きつけた父に浴室へ連れて行かれ、首から下の毛を全部剃られる。
父はわたくしの陰部をじっと見つめていた。
上蓋を閉じる。
父にプライベートパーツを触られる。
入浴をじろじろのぞかれる日々。
で、上蓋。
よい高校に入ったせいで父が舞い上がってしまった。
「おまえが大学へ行ったら社会科学を教えよう」云々と。
上蓋。
真夏の海へ行った帰り道、母が玉突きを起こす。
けが人はわたくしが一番重傷で脳震盪を起こしていたのだが、なぜか救急車に乗せてもらえない。
母が公務員だからと父が言う??? 上蓋。
高校二年時、選択授業でレベルの高い方へ入っていってしまったがために相対的に成績がダウン。
父は部活を辞めろと言い出し、それから毎晩のように夜の九時から朝の二時まで説教。
眠くて上蓋。
父に「私が学費を出したんだ、返せ」と大人になってから迫られる。
おかしいなあ、学費は母が全額、支払ってくれたんだけれど、よく聞くと「
母が倍近くの利子をつけて父を黙らせたが、時々思い出すのか「おまえの学費はお父さんが」と言い出すので上蓋。
長いこと父親の暴力に耐えてきた親友が、
「あいつがヨボヨボの年寄りになったら仕返ししてやるんだ」というので「それはいいアイデア」と言った。
なぜか親友に、「おまえ、鬼」呼ばわりされ上蓋。
父が農業を始めたので好奇心も手伝って、効率よく収穫する方法を考え、実行。
イモはわたくしが蔓を切り、とりのけた後、祖母が黒いビニールをうねからはがして、父母が地面の下のそれをほっくりかえす。
うねの三分の二まで進んだところでダウンするわたくし、しかし祖母が「はよう、(イモ蔓を)とらんね」とせっつくので上蓋。
わたくしの喜ぶ姿が見たいといって、よくプレゼントをくれる彼氏。
しかし妹が品定めして「ジバンシィ! おばさんくさ! マリクワかぁ! これちょうだい」ととっていく。
母もマリクワの時計を腕にはめ、うっとりしている上蓋。
以前飼っていた猫が妹の鳩を食べてしまった負い目から、小遣いをはたいて買ったアメリカンショートヘアーの子猫を「ちょうだい」と言われてやってしまう。
その後「あの子、どこにでもトイレするよ」としつけを失敗したもよう。
それを返すというが上蓋。
ダイエットで低血糖と戦い、気晴らしにツイッターでつぶやいていたら「私の小説読んで」と日本語の通じない人に絡まれる。
無理して一話目だけ読んだが、断わっているのに「いいんですか? それは重要な伏線ですよ」「今読まなくていつ読むんですか」と勝手なことを言われる。
しかたなく全編読んでコメントを入れた後で上蓋。
障害者になってしまったので、障害者向けの就職支援学校へ行く。
よくわかっていないらしい講師が、わたくしだけ呼びつけ「あんたは普通だから」とお説教。
いや心の病だから上蓋。
学校のシニアインストラクターにセクハラとパワハラを受ける。
館長に訴えるが回答は「彼は優秀な講師ですので今後も来てもらいます」そして「就職したらこんなことはいくらでもあるのよ?」オチは言うまい。
猫背になる上蓋。
同期生の女性があーだこーだと授業についていくのがつらそうだ。
教えてあげたら「どうしてそんなに自信があるの?」とにこやかに皮肉。
わたくしがなんのために授業内容を全部メモっていると上蓋。
同期生の男の人が、授業後エレベーター前でハンカチを握りしめているのを目撃してしまう。
とっさの判断で知らぬふりをして通り過ぎる。
どうすれば最適解だったのかいまだに上蓋。
つねづね父親には「女は馬鹿な方がかわいい」「頭のいい女は馬鹿な男と同じ」とセクハラされていたので、喜寿のお祝いの席でそっと彼の上座に座る。
馬鹿な方がかわいいんでしょ?
上蓋。
虫歯が痛み、ロキソニンが効かないほどズンズクするので、帰ってきた母に車を出してほしいと夜中に頼む。
「お産の方が痛いのよ?」と嫌がる母に悶絶するわたくし。
後日、奥歯を抜きました上蓋。
父がわたくしのことを「失敗作だ」と言うので「失敗したのはお父さんだ」と言いかえした。
ひるがえして「おまえは勝手に育ったんだ」とのたまう。
ええい、のらくらと上蓋。
母に向かって「わたし、子供の頃家にひとりぼっちでさみしかった」と打ち明けると「おばあちゃんは幼いころに母親を亡くしたの」と話をそらされた。
???以来、そういう話はしてない。
上蓋。
市販薬の効かない謎の高熱にうなされ、夜中に母を呼ぶ。
「お母さん、明日も仕事なの」と次の日の夜まで放置された。
生まれて初めてのインフルエンザ(B型)でした上蓋。
祖母が廊下でへたりこんでいたので、母に報告。
入院が必要だと言っているのに母は「わたしは仕事があるから」の一点張り。
祖母は次の日デイサービスの方の措置により、緊急入院しました上蓋。
ひとり暮らしをしたいと言ったら、今の家を売って小さな平屋を買いましょうという母。
そして居候させてくれと意味不明。
上蓋。
祖母が亡くなりました。
やけにはきはきとものをしゃべるようになった母。
よくわかりません上蓋。
玄関に塩をまいておいたら、いつの間にかきれいになくなっている。
父がホウキで払ったらしい。
お清めなのに上蓋。
別邸に暮らす父(農家)に米をもらいに行く母。
お礼にドロドロの床を掃除してきたと自慢する。
結婚生活で掃除をしない人になっていた父に上蓋。
久々に母の車に乗ったら、以前はサラ・ブライトマンが流れていたのに、なぜか、失恋ソングばっかり入ってる松田聖子さんのアルバムが流れている。
「なんかあったの?」思わず聞くと「なんとなく」という返事。
内心複雑だけど上蓋。
母がスマホでわたくしの妹と話している。
通話を切ったつもりで「もう一か月の米がなくなったってさ、はっはっは」と言う軽口を、まだつながっている通話口で相手に聞かせてしまう母。
妹が文句を言い立てているらしいが、母はスマホを切って上蓋。
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