上蓋

水木レナ

第1話 前置

 人生のキモは人間関係である。

 およそこれで悩まぬ人はない、と言う人があるくらいなのだ。

 わたくしがこれから書くものも、人生の悩みを連ねたものと思われよう。


 しかしわたくしは人間関係で悩んだことは一度もない。

 メンタルが異様に強いとか、常に自信満々であるとか、そういうのは関係がない。

 勉強だとか、能力値だとか、金銭にまつわることで手一杯なのだ、誤解しないでほしい。


 自分がサバサバ系だとか言うつもりもない。

 そんな上等なもののはずがあろうか。

 ではなぜかというと、基本わたくしは「後で考える人」なのである。


 親きょうだいは、なんでそんなことまで憶えているのだ、としょっちゅう言う(いい意味ではない)。

 記憶能力は苦痛を覚えたときはねあがるらしいから(ネット情報)、わたくしの人生は苦痛だらけだったのだろう。

 というと、他人事のようだが、これはわたくしのクセのようなもの。


 いじめられた経験はあるのだが、小説のネタにしようと記録しておいたのが今役に立っているし。

 視力が悪いのに眼鏡は高いからとつくってもらえず、毎時間黒板を水ぶきして文字が読みやすいように工夫したりとか。

 結果的に内申があがり、よい学校へ行けたしいじめっ子との縁はきれたし、万々歳であった。


 対外的にはそれでよかった。

 しかし、問題は身内との関係にあった。

 上蓋うわぶたを開ければ、底は多重になっており、そのときどきの本音が渦巻いている。


 わたくしは我慢強く、辛抱強く、努力家と言われる。

 真偽はともかく、それは「後から考えた」ときに軌道修正したからだ。

 そこにいたるまで、我慢、辛抱、努力がどれほど役に立ったのかは定かでない。


 この話は上蓋の下の多重底をかいまみせて、すばやく終わろうと思う。

 ドロドロしたのは好みでない。

 今、わたくしは幸せなのだから。

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