美味しいチョコの作り方

無名乃(活動停止)

 

「なぁなぁ、聞いてくれよ」


 昼休み。

 大学の食堂で昼食を食べていると俺の正面に高校からの友達 たつきが顔をニヤつかせながら座る。


「なに?」


 人の話に興味ないオレはテーブルの端に置いていたスマホに手を伸ばす。


「明日、バレンタインだろ? 俺の彼女が『午後開いてる?』って照れた顔で言うから最高で……」


 事の発端で【幸せが嫌いで不幸が好きなオレ】は「へぇ……」とあしらう様に返すと「お前の分も持ってくるかもな。よく一緒にいるし」の言葉に一瞬脳裏に絶望するの姿が浮かんだ。



 あぁ、そうだ……。

 オレもチョコを作ろう。



           *



 放課後。

 講義を終え「ホワイトデーに返すのが面倒」だからとオレはチョコの材料を買いに行こうとするが、樹がニマニマしながら正門で待っており100円ショップへ。


「いやーお前がチョコ作るとか意外」


 樹の下らない話に耳を傾けながらクッキングコーナーに足を運び、チョコとココアパウダーを手に取る。


「男が料理しちゃいけないって聞いてないけど」


「うわーっ気付けよ。お前、それ……モテるテクだろ。さては、彼女奪う気だろ?」


「興味ないね」


「えー照れんなよ」


 樹は背から覆い被さるようにオレにくっつく。


「で、材料こんだけ?」


「あぁ、家に買うのはこれだけ」


「へぇ~っか、俺も便乗していい?」


「いいよ。



          *



 買い物を終え、樹の連れ家であるマンションへ。


「おっじゃましまーす」


 嬉しいのか、さては楽し見だったのか。大きな声で言葉を発する樹にオレは「壁が薄いんだ静かにしてくれ」と小言を漏らす。

 リビングへ案内し、オレはキッチンに調理道具を取りに行く。


「うはーっ必要最低限の家具しかねーじゃん。一人暮らしってそんなに大変?」


 許可なく家具を漁る樹にオレは恐る恐る歩み寄り――「あぁ、水道光熱費掛かるし。それより、樹」と呼ぶ。


「ん?」


 彼が振り向きた瞬間――オレは素早く包丁を振り下ろした。



           *



 翌日。

 午前の講義を終え、一人寂しく屋上にあるテラスで食事ををしていると「あの……翔人はやと君だよね?」とか弱い声と影が真横に。顔を向けるとと其処には樹の彼女が立っていた。


「樹くんと連絡つかなくて……何か話聞いてる?」


「いえ、です」


「そう……」


「でも、彼とチョコんで良かったら」


「え?」


 驚く彼女の顔にオレは薄っすら微笑みながら小さな紙袋を渡す。

「どうぞ。少し溶けやすいので良かったら……」と催促をかけると彼女は紙袋から小さな箱を取り出し蓋を開ける。


 中には四角い生

 上にはフレーク状の赤い《苺》。


「わっ可愛い。これ、二人で作ったの?」


 彼女は嬉しそうに笑い、指で一つ摘むと「美味しぃー」と喜ぶ姿にオレは嗤う。




「美味しくて当然。

 だってそれ――“アナタの彼氏”だから」



 オレの言葉にサッと彼女の顔色が悪くなる。


「今、なんて……」


 彼女の震えた声にオレは笑顔で淡々と返す。


「食感を良くするために細かくした肉と血がチョコに混ぜである。ついでにチョコの上に乗ってるのは固まった血液を砕いたもの。あとは、樹の好きだっていう思いかな。だって、美味しいんでしょ?」


 物静かだったオレが人が変わるようにハハハッと嗤う姿に彼女は言葉を失う。


「あぁ、ゴメンね。オレ、少し頭なのネジが壊れてるのか変な体質でさ。幸せなもの壊したくなるんだ……アイツ、いつも君の話するから壊してやろうかなって思って」


 食べる手を止め、オレは袖に隠していたナイフを軽く振り落とす。それを手のひらで握り締め、笑みを浮かべながらゆっくり立ち上がる。


「でも、見られたからには消さないと……。捕まるのゴメンだから――っなわけで死ね」

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美味しいチョコの作り方 無名乃(活動停止) @yagen-h

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