46歳が転生って、何するの?

@polipuro

第1話 異世界

 とある田舎の食品卸しの営業マンだった。


 その地域にしかない私立の大学の工学部を卒業してから最初に金属加工工場に就職したが倒産してしまい、今の業務用の食品卸し会社に再就職をした。

 就職に困っていた自分に父親が見つけてくれた仕事だったので、好き嫌いは言わずに16年目間働いた。

 その日もお得意様へ挨拶を兼ねた配達の帰りにコンビニへ寄った。

 いつも通りに息抜きのコンビニで雑誌を見ていると、コンビニは縦に大きく揺れた。

 今までに経験した地震よりも凄く、その場に座り、頭を両手で覆い隠した。


 揺れが収まると立ち上がった窓の外の景色は見た事がなく、別世界だった…

 鎧を着た兵士が十数人見え、その奥にヨーロッパのお城の様な石積みが見える。

 右側にある自動ドアのガラスが割れる音がすると髪の毛のない白髪の老人が入って来る。


「勇者様、王に謁見をお願いします」


 地震の様な大きな揺れと老人の行動に驚いた為に動けない。

 そうすると、老人の後ろから数名の槍を持った兵士が入って来て、自分に槍を突き付ける。

 槍は本物に見えるし、抵抗してもいい事はなさそうだと気付いたので手を挙げて、敵意がない事を示す。


 女性の泣き出している声したが、目の前の兵士から目を背ける事は出来ない。


“だぶん、見た事がない場所だから異世界に飛ばされたんだろう。

 じじいが言うに勇者様って、自分の事だよな。

 普通に槍を向けるって、アウトなんじゃない。

 勇者様は尊敬される対象じゃなくて、侵略者なのか?”


 槍を向けている兵士が何かを言っているが分からないが、敵意というか、腰を少し落とした緊張感がある状態なのは分かる。


「みなさん、ついて来て下さい。

 何もしないなら、何もないです」


 老人の言葉の意味は分かるけど、少し違っている。

 手を挙げた状態で歩き出すと槍を持った兵士が後ろに回る行動を見ると現実感を増す。

 目の前を40歳代と30歳代くらいの女性店員が先にコンビニを出るのが見える。

 続いてコンビニから出ると制服を着ているから高校生のカップルが2人、50歳代の男性が1人も続く。

 泣いていたのが高校生の女性だとすぐに分かった。


 老人は広間を抜けて、石積みの城の中を歩いく。

 前を歩くコンビニ店員に兵士は槍を突きつけたままでいるから自分も槍を突き付けられたままだと分かる。

 それにしても長い階段は辛く、汗が滲んでいるが上着も脱ぐ事が出来ない。

 階段の終わりに大きな扉が見えると扉の前で老人は止まる。


「同じ動作をして下さい。

 王様に逆らうと殺されます」


 老人は我々の方に振り返ると渡された原稿を読む様に話す。

 槍を突き付けていた兵士は槍を右脇に立てて持ち帰ると全員が扉の方へ向き直す。


「どうなっているの?」


 コンビニの店員の女性が怒って、言葉を発する。

 前にいる兵士から鎧が擦れる金属音がすると槍を向ける姿が見え、額の汗に温度を感じて、息を飲んだ。

 

「言っている事はあまり分からない。

 王様の謁見が終わったら、もっと話せる人を連れて行きます。

 その人があなた達の世話をします」


 老人が言うと兵士は槍を下し、扉の前の兵士はゆっくりと開ける。

 赤い絨毯が奥まで続き、左右には中世貴族の様な格好をしている人達が立っている。

 絨毯の奥に豪華な椅子に座っている王冠を被った王様しか見えない人が見える。

 老人は頭を下げながら、絨毯の中央を歩き始めると左右の人達から拍手が鳴り響く。

 後ろを付いて歩くが左右の貴族の格好をした人間に違和感があり、知っている人間の形をしていない人がいる。

 ゲームの世界で言う背が高い耳の尖ったエルフや背が低い色黒の筋肉質のドワーフが混じっている。


 完全な異世界だと理解した。


 王様から5m位離れた所で老人は止まると跪く。

 老人と同じ行動をすればいいのだと跪くと、王様の横にいる鮮やかな青色の服の男性が右手を上に挙げると同時に拍手が止んだ。


「トィエノーマエレツラソレラ」


 王様の横にいる男性がそんな感じで言った。

 王様が立ち上がって、右手に持っている杖を高々と掲げる。


「エルセツメソタエアシ。

 ソレラフーイカカサ…」


 何を言っているか分からなかったが、5分以上のお言葉が終わると再び拍手が起きた。

 そして、王様が椅子の奥の部屋に消えると拍手は鳴り止み、貴族の格好をした人達は自分達が入って来た扉から出ていった。

 老人は跪いたままで動かず、背の高い耳の尖った男性と女性が数名近寄って来た。


「私は特級書記官のシェルエティアです。

 これから1年間は私とここにいる者でお世話をします。

 暴力は好きでないので、ゆっくり話ができる場所に一緒に来て頂けませんか?」


 先程の老人よりも聞きやすく、優しい声をしている。

 老人は立ち上がり、シェルエティアに一礼すると後方へ消えていく。


「ここは何処なの?」


 コンビニ店員の女性が叫ぶと同時にシェルエティアは優しそうな微笑みを浮かべた。


「ここは王広間なので、別な場所で座って話しましょう。

 聞きたい事は知っている範囲で全て答えます。

 どうでしょう?」


 シェルエティアの言う事もその通りだと思ったが周りの空気は悪い。

 知らない場所で鎧を着た兵士に槍を突きつけられ、罪人同様に扱われれば信用もしたくなくなる。

 しかし、自分はこの状況下はどうにもならないと悟っているから冷静過ぎるくらい他人事に思える。


「コンビニに荷物を取りに行きたいのとコンビニの物は自由に使ってもいいですか?」


 ここにいる全員がこっちを見て、シェルエティアは理解できないでこっちを見ている。

 このまま時間を費やしていても先に進まないから少しでも現状の確認がしたい。


「コンビニに食べ物や飲み物、大切な物があるから取りに行きたい」


 高校生の男性が言葉の意味を理解したように目を見開いた。


「携帯電話…」


「僕からもお願いします。

 コンビニに行かせて下さい」


 高校生の男性は大きな声で嘆願するとシェルエティアは手を前に出す。


「分かりました。

 逃げると命の保証は出来ません。

 説明が終わってから1人1人に担当を紹介するつもりでしたがここで割り振ります」


 シェルエティアの後ろに立っていた男女が各1人1人の目の前に立った。

 自分は男性が立っており、右手を左胸に当ててお辞儀をしている。


「2級書記官のシェルアシアレです。

 今日から1年間は貴方の担当です」


 しっかりとした日本語だった。


「自分は木田賢三と言います。

 よろしくお願いします。」


握手を求めたがったが、拒否をされたので右手を左胸に当ててお辞儀を返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る