第332話
◇◇◇
「お兄ちゃん……私もあんな風に動けるのかな?何が起きてるのかいまいち分からないけど」
エリスは不安そうにレインを見上げる。
「大丈夫だ。俺も分からん」
周囲に集まっていた覚醒者や兵士たちも上空で行われている魔王同士の戦闘を見ているが、何が起きているのか理解出来ていない。そんな表情を浮かべている。
先程からドン!ドン!――という爆発音と衝撃が響き渡り、周囲に光を落としている。
「…………………………」
オディウムは炎、氷、雷、風、岩の槍を同時に大量に召喚する。そして一斉にアルルに向けて放った。
その無数の魔法槍をアルルはその身に受けながら一切速度を落とす事なく前進する。
「そんなチクチクするだけのチマチマした魔法が私に効く訳ない。〈豪迅脚〉」
「〈
オディウムが展開した防壁魔法をアルルの蹴りは容易く打ち砕く。アルルの蹴りはそのままオディウムの顔面に命中し、そのオディウムは目にも止まらぬ速さで地面に落下、激突した。
「雑魚が……調子に乗るんじゃねえよ」
アルルは地面に落ちたオディウムに追撃を加える為に空中を蹴って移動する。その後も物凄い衝撃と爆音が周囲に轟き続ける。
ただオディウムはアルルの攻撃を何とかして耐えるだけで一方的に蹂躙されている。同じ魔王でもここまで違うのかと思わされるほどの力の差が2人にはあった。
「…………………………」
アルルの猛攻に耐えかねたオディウムは転移を用いて上空へと飛び上がり浮遊する。そしてオディウムもアルルがここに来た時と同じような黒い渦を2つ召喚した。
「何を……うわぁ……」
アルルは見た事ないような嫌な顔をする。それを見た蚊帳の外のレインたちもその黒い渦から何が出てくるのか見守るしかなかった。
そんな時、付けているのをまたもや忘れていた通信機からいきなり大声が発せられた。
"レインさん!!"
「うおおおお!!」
「きゃあっ!な、なに?!お兄ちゃん、なに?!」
レインがいきなり大声を出した事でその声が聞こえていないエリスも絶叫する。
「ご、ごめん……これ付けてるの忘れてたよ……どうしたんだろう?」
「…………青……あ…魔王2体が……消……死に」
「え?何?聞こえない……って返事は出来なかったんだな」
レインがどうすべきが考えていると複数の魔力が同時にこの街に転移してきた気配を感じた。モンスターではなく覚醒者たちだ。そしてその覚醒者たちはすぐにレインの元までやってくる。
「レインさん!」
「シエル!……ってお前ら傷だらけじゃないか!すぐに回復ポーションを」
レインの前に姿を見せたのは『天空の神覚者』であるシエルと『冥翼の神覚者』であるメルセルの2人だった。別のダンジョンに配置されていたはずの超越者2人が傷だらけの状態でレインの前に現れた。
傷だらけといっても何箇所かは深い切り傷もある。一体どんな奴と戦っていたのかと思う。おそらく何かが起きてタニアの力によってここまで連れて来てもらったのだろう。
「そんなもんは後でいい!それより……来るぞ!アイツか……アイツが集めやがったのか」
メルセルが会話を遮って叫ぶ。視線先にはオディウムが召喚した黒い渦が存在する。そしてここに来た理由が出現する。
1つの黒い渦から何かが飛び出してきた。それもレインの目でギリギリ終えるくらいの速度で空中を移動した後、オディウムの横で静止した。
巨大な鳥の翼を持ち、足は鉤爪のような形をしている褐色肌の男だ。そしてもう1つの黒い渦は空を覆うほど巨大な物に変わり、そこから出現したのは巨大な赤龍だった。赤龍が飛び出した後はそれに追従するように複数のドラゴンが溢れ出てきた。
その2つの存在が何なのか理解できない者はいない。オディウムは呼び寄せたのだ。人類の後ろにいる神の軍勢を相手にする為に人類を先に滅ぼす。
今までは遊んでいただけの魔王全てを天空の城の真下にある人類軍の本拠地へと呼び寄せ、殲滅し、神の軍勢が出てきた瞬間に一斉攻撃をするために。
「オディウム……貴様何の真似だ?なぜ我々を呼び付けた?ここでの行動は互いに干渉しないという話だったのではないのか?」
赤龍は周囲に突風を巻き起こしながら空中で静止する。そしてレインたちを無視してオディウムへ明らかに不機嫌な口調で問いかける。
「………………貴様、オディウムではないな?」
「あれ?オディウム死んでんじゃん!まさか人なんかにやられた訳じゃないよな?」
オディウムの横に翼を持つ魔王が近付く。赤龍も翼の魔王もオディウムが既にオディウムではないという事に気付いた。
「まあ良い……何者かの企みなど私には届き得ない。興が冷めた。神の軍勢が来るまで私はゆっくりしておこう…………そこにある目障りな街を消し飛ばした後でな!」
赤龍はテルセロの街へと狙いを定める。レインたちが反応する間も無く巨大な口を広げ、竜の
レインの傀儡である竜王やカトレアたち魔道士が扱う火炎魔法とは比べ物にならないほど巨大な炎の壁がテルセロヘと降り注ぐ。それは周囲に朱色の影を落とす。これを防げる者は覚醒者たちの中にはいない。
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