第330話
しかし1人ではない。武器を持たないレインに蹴りを入れた青年とは別にレイピアを持つ同じような見た目の青年がもう1人いる。
さらにその横には白銀の髪を持つメイド服を着て槍を持っている女性もいる。そして4人目にはオーウェンを彷彿とさせる筋骨隆々な男もこちらを睨み付けている。
魔力だけで見ると魔王よりは弱い。しかし周囲に見える悪魔たちよりは遥かに強い。これが魔王と悪魔の中間に位置する存在である魔人、または悪魔の公爵クラスの者たちだろう。
「お前たちは……何だ?」
レインは少しでも時間を稼ごうとする。まず腕がまだ治っていない。相手が1人ならまだしも4人もいる。最初から全力で行けば1人くらいなら何とでもなるが4人同時は流石にまずい。
さらに先程アルルにふっ飛ばれたルーデリアがこちらに向かっている気配を感じる。あれだけの攻撃を受けても心が折れる事なく戻って来てくれようとしている。
ルーデリアと2人掛かりなら4人の魔人が相手だろうと勝てるはずだ。
「貴様のような下賎な輩に名乗る名など持ち合わせていない。我々は狂戮の魔王アルル様配下の四天王とだけ言っておこう。
そこらの低俗な悪魔と同列だと思うなよ。貴様など我らが主君の手を煩わせる必要もない。我々のみで貴様と今こちらに向かって来ている愚か者と共に始末してやる」
レインに最初に攻撃を与えた執事風の魔人が拳を握る。その行動に合わせて左右に並ぶ他の四天王たちもそれぞれの武器を構えた。
それにルーデリアがこちらに向かっている事にも気付いている。本当にただの悪魔ではないようだ。魔王アルルの直轄部隊、つまり最精鋭級の悪魔に分類されるくらいの強さを持っているのだろう。
「ねえ人間、君がどれだけ強くても私たちには勝てないよぉ?武器を捨てて大人しくしてくれるなら一撃で楽に殺してあげるけど、どうする?……大丈夫だよ、私はこう見えてとても優しいんだ」
と、メイド服を着た女性の魔人が槍の切先を向けて微笑む。
「何を言っているヴェルディエンヌ!此奴は我らが主君の御身に薄汚い手で触れた俗物だ。可能な限りの苦痛を与え、死を懇願させた後にしばらくしてから殺してやるのがいい!」
と、筋骨隆々の大男がそう話す。どうやってレインを殺そうかと揉めているようだ。もう今すぐにでも戦端は開かれるだろう。まだ腕も治っておらず、ルーデリアも到着しない。ルーデリアの方にも悪魔がいるのだろう。それに対処しているからすぐには辿り着けないかもしれない。
「あっはっは!相変わらずだな!ガーランドゥウェル、私もあいつは苦しめて殺すに賛成だ!人間の分際で我らが主君と似たような魔力を持っている事も腹立たしい!虫唾が走る!俺に任せてもらえるならより凄惨に殺してやろう!」
と、レイピアを持っている執事風の男が話す。そんな感じで話すとは思っていなかった。最初に蹴りを入れて来た魔人と見た目が似ているから同じように冷静な口調なのかと勝手に思っていた。
「お前たち……いい加減にしろ。これ以上、主君をお待たせする事は配下としてあまりにも無礼だ。苦しみは与えてやりたいが速やかに奴を葬りその首を主君に献上する。そしてそのまま悪魔の軍勢を率いて人間どもの防壁を超えて進軍する。
良いか?繰り返す……主君をこれ以上お待たせする事は出来ない。速やかに抵抗する人間全てを殲滅せよ」
「「「了解」」」
最初にレインに蹴りを入れた魔人が他の四天王たちを一言でまとめ上げた。全員の考えが一つとなり敵意をレインへと向ける。
「……クソ」
右腕の骨折は治った。ちゃんと動くし、しっかり剣も握れる。何の問題もなく力を振るえるだろう。
だが、せっかくアルルを味方に引き入れたと思ったが、まだ本当にそうなったのか確信を得られていない。今も4人の魔人たちの後ろですごい顔をして突っ立っている。怒っているのか、ボーッとしているのか、驚いているのかよく分からない表情だ。
四天王だけでも相手をするのは難しいのにアルルまで加わるともうどうしようもない。傀儡は全て召喚して各地に配置している。アスティアも戦闘中なのか、アスティアに預けた傀儡たちが破壊されている感覚がある。今も魔力をゴリゴリと削られている。
「ねえ……さっきから下賎な者とか俗物とかって誰の事を言ってるの?もしかしてそこにいる人間の事じゃないよね?」
ここに来てようやくアルルが口を開いた。今まさに四天王全員が武器を構えて突撃を開始しようとしていた矢先のことだった。
四天王たちは手鼻を挫かれたような形となるが自らが仕える主君の問いかけに答えない訳にもいかない。
「その通りです。そこにいるウジ虫は主君に触れた罪深き下賎なゴミです。しかしご安心ください、魔王アルル様……我々があの者に最大の苦しみを与えた後、殺害し、切り落とした首を御身の前に献上しみせましょう!」
と、メイド服を着た魔人が自信満々に言い放った。さらにレインに蹴りを入れたリーダー格の魔人も続く。
「しばしお待ち下さい……すぐに片付けてギャアッ!!」
その時、アルルの巨大化した右腕が左から右へ横一線に振り払われた。その一撃でアルルの右側の大地は大きくひび割れた。レインでも完璧には捉えきれない速度で振られた腕を見ると先程まで全く本気を出していなかったのだと理解させられる。
しかしアルルが腕を振った場所にいたのはレインや味方の覚醒者ではなく、アルル配下の四天王たちだった。
その四天王たちは膝から下だけを残して全員いなくなった。物凄い強者感を出していた四天王は自らが崇拝する魔王の手によって殺害された。
「私の弟を侮辱するな。そもそも誰だお前ら……って死んでるじゃん。今のも回避できないような奴が私の配下な訳ないだろうが……ねえ?」
アルルは膝下だけを残した四天王たちの亡骸を一瞥した後、レインの方を見て微笑んだ。
「…………もう……よく分からん」
混乱の極みにあるレインが言えたのはこれだけだった。
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