第306話







「私も一緒に連れて行って下さい!私がいた場所も悪魔が流れて来なくなりました。あとはご主人様の兵士で耐えられると思います。それに戦力の補充という意味では私がお側にいる方が効率的です」


 阿頼耶の言うことは最もだった。阿頼耶はレインの武器が変化したという扱いのせいか、阿頼耶が討伐したモンスターも傀儡にすることが出来る。

 スキル〈傀儡〉はモンスターの亡骸がレインの近く、最低でも見える範囲にいないと使用できない為、阿頼耶を連れて行くのはかなり効率がいい。


「分かった。でも無理はしないでくれよ。あと俺も気を付けるけど巻き添えになって負傷するなんてやめてくれよ?」


「はい!」


「よし、なら行こう」


 レインと阿頼耶は同時に駆け出した。周囲にいた悪魔たちを両断しながらダンジョンへ向けて突き進む。今いる場所より進むと防壁上の覚醒者からも視認されず援護は望めなくなるが、このままここに留まって悪魔を殺し続けてもいつかは押し切られる。レインではなく後方の防壁の方がだ。


 "アスティア……天使何体か送ってくれ。そいつらに阿頼耶を援護させる。俺たちが抜けた穴は埋められるか?"


 "すぐに熾天使と3体の大天使を送ります。我が王がいらっしゃった場所には龍王を配置いたします。何も問題はございません"


 アスティアの言葉の後、すぐにレインたちの後ろに別の気配が出現する。アスティアが傀儡を転移で飛ばしてくれたのだろう。そして眼前に広がる無数の悪魔の群れがレインたちに向かって突撃してくる。


「……よし、この中から良さそうな奴を……ん?」

  

 その時、レインの周囲が暗くなる。巨大な何かが目の前に出現した。


「ご主人様!巨躯の悪魔です!」


 阿頼耶の声を受けてレインは顔を上げる。全身真っ黒な肌とボロボロの腰布を纏うだけの巨人が既に斧を振り上げていた。レインの傀儡にいる上位巨人に匹敵する巨大な悪魔だ。


「阿頼耶……合わせろ」


「ハッ!」


 巨躯の悪魔はレイン目掛けて身体と同じくらい巨大な斧を振り下ろした。その時に起こる突風だけで周囲の悪魔は吹き飛ばされる。そして振り下ろされた斧は大地を割り、その衝撃は後方の防壁まで届く。


 しかしそのような大振りの一撃がレインたちに命中する訳がない。レインと阿頼耶は巨躯の悪魔の足元まで瞬時に移動する。


 レインは手に持っている刀剣に〈支配〉で浮かせた複数の刀剣を繋げて悪魔の足を切断する。もう片方の足元に移動した阿頼耶も自身の腕を鞭のように伸ばして巻き付ける。そして全力で振り絞り、悪魔の足をレインとほぼ同時に捩じ切った。


 巨躯の悪魔は当然バランスを崩して仰向けに倒れ込む。そこに間髪入れず上空で待機していた熾天使が複数の雷撃を放つ。一瞬死んだんじゃないかと焦ったが、モゾモゾと動いているから生きている。


 レインは巨躯の悪魔の首元に立ち、剣を全力で振り下ろした。それに追従させるように無数の刀剣が悪魔の身体に突き刺さる。


「よし……死んだな?〈傀儡〉……さっさと起きて働け」


 レインの前に十数メートルの巨躯の悪魔が出現する。姿も特に変わっていない。より真っ黒になったくらいだ。そして巨躯の悪魔は1番近くにいた悪魔の集団に向けて走り出した。


「このまま良さそうなのを……」


「ご主人様!!」


 阿頼耶が叫ぶ。その言葉を受けたレインがより一層警戒を強めた時だった。レインの視界の端にいきなり鋭い物が入り込む。それを仰け反り回避する。まだ見てから回避できる速度だが、阿頼耶の呼びかけがなければ危なかったかもしれない。


 レインはそこから飛び退き、突然現れた気配の正体を確認する。


「なんか……強そうなのがワラワラ出てきたな」


 レインたちの前には騎士鎧を着用し、見た事ないデザインの長槍を持った悪魔のナイトたちが隊列を組んで向かって来ていた。

 レインの傀儡にいるような上位騎士ではなくスピードに特化したタイプだと予想できる程の細身だった。


 レインがそれらを確認したと同時だった。1体の悪魔のナイトが突出し、レインの首に向けて槍を突き立てる。


 "やっぱり速度特化だな。普通のAランクなら反応も出来ない速度だ"


「…………でも俺には通用しないけどな」


 レインは向かってくる槍を半身を退け反らせて回避する。そしてそのまま身体を半回転させ、悪魔の側頭部に後ろ回し蹴りを放つ。

 その一撃で悪魔が付けていた頭全体を覆っている兜は大きく凹んだ。レインの蹴りの衝撃はあまりにも強く、首の部分の鎧がミシミシと嫌な音を立て、今にも千切れそうになるほどだ。


 真っ先に突っ込んだ悪魔は数秒だけフラフラと何もない方向へ歩いたかと思えば、すぐに膝から崩れ落ちて絶命した。


 


 

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