第253話






「す、凄いじゃないですか!」


「…………え?」


「兄妹で神覚者……それもこれだけ強力な召喚魔法を使えるなんて……世界中探しても見つかりませんよ?!」


 ステラはエリスの手を握って微笑む。兄妹で共に神覚者となった事例は1つしかない。メルクーアのイスベルグ兄妹だ。しかし彼らは個人では神覚者全体でも中間くらいの強さだ。


 今回、エリスが4度覚醒しているという事で2組目となる。しかもあの世界最強格のレイン・エタニアの妹だ。強力な4体の天使を召喚し、死者蘇生すら可能とする神のスキル。


「……でもね…この力を使うとお兄ちゃんと別れないといけなくなるの」


「…………どうしてですか?」


「だって……お兄ちゃんの力は闇の力で私の力は光だから。このまま一緒にいるとお兄ちゃんに嫌われるかもしれないから……」


「………………えーと、すいません。何でそうなるんですか?」


「天使たちがそうだって言ったの。光と闇は相容れない。必ず反発し合うって……」


「確かに連携は難しいかもしれませんが……それで何故レインさんがエリスさんを嫌う事になるんですか?」

 

「だって……こんな光の力がある妹なんて……嫌でしょ?」


「レインさんがそう言ったんですか?」


 ステラの質問にエリスは首を振る。そもそもレインはエリスが覚醒している事を知らない。それを見たステラは安堵した。ならば絶対に大丈夫だと。


「じゃあ心配いらないですね。あのレインさんがエリスさんを嫌うはずがありません。……レインさんがエリスさんのことをどれだけ溺愛しているかご存知ですか?あの人がエリスさんを嫌う?想像出来ませんし、そんな事はあり得ません」


「そ、そう……なの?」

 

「断言できますね。もしそんな事でレインさんがエリスさんを嫌いだなんて言ったら私が腹を切ります」


「そんな事しなくていいけど……そうかな?大丈ッ」


「母よ!お下がりください!!」


 エリスが安堵したのも束の間、神の盾イゼラエルが叫びエリスの前に立つ。それと同時に周囲が大爆発を起こした。エリスがいた場所以外は大きな窪みが出来た。まだ生きていたヘリオス兵ごと地面が消し飛んでいた。


 イゼラエルは巨大な青いドーム状の盾を召喚し、エリスはもちろん、ステラや生き返った兵士と神の癒しシファーを包み込み守った。


 離れた場所にいた2人の天使は翼を使って空へと舞い上がり爆発を回避した。爆発が終わると同時に全ての天使がエリスの周りに集合する。


「母上!ご無事ですか?!」


 オルファノは取り乱した様子でエリスへ駆け寄る。しかしすぐに冷静さを取り戻して周囲を確認する。


 エリスたちがいた場所のみは無傷だ。イゼラエルの神の盾はあらゆる攻撃を無力化する。


「だ、大丈夫……な、なに……あれ?」


 エリスたちの視線の先には地上から約500メートルの地点で浮遊し、触れると大爆発を起こす魔法を込めた物体を高速で撃ち出している魔動飛行船があった。


 地上からの魔法攻撃がほぼ届かない安全圏から攻撃しており、神覚者…それも魔法攻撃を得意とする者がいない国では対処が出来なかった。


 そんな1機でも十分な脅威となる飛行船が3機もいた。ヘリオスの第1飛行船隊だ。さらに遅れてエリスたちを追跡していたヘリオス軍第一師団の本隊が到着した。別の方向から走ってやってきた。今、この場にはヘリオス軍第一師団本隊総勢約4,500人が集結した。


「ちぃ……この数…それにこの威力の爆発を無制限に放つだと?……人間が…翼を持たぬ人間が我らと同じ領域に立とうなどと…付け上がるなよ」


 オルファノは剣を構えて突撃しようとする。

 

「オルファノ……落ち着け。俺たちの目的は敵の殲滅だが、母を守らなくていい訳ではない。イゼラエルの盾も絶対防御に近いだけで完全ではない。この規模の爆発を永遠に耐え続ける事は出来ない」


「分かっている」


「攻撃手段を持つのは俺たち2人だ。ただあの数を全て相手にするのは…………おい…何が来てるんだ?」


 アギアがある方向を見た。何かがすごい速度で近付いて来ている。オルファノも数秒遅れて気付く。

 

 それと同時に、ドガァンッ!――と3機あった魔動飛行船の1機が大爆発を起こした。ヘリオス開発の装甲と強化魔法を合わせた強固な防御性能を持つ飛行船が墜落する。大炎上し落ちていく飛行船の上にそれはいた。


「おい……あれって龍王種か?古の大戦の龍王が何でこんな所に?」


 好戦的なアギアでさえ狼狽える。大炎上する飛行船の上に立つように炎を纏った剣を両手に持つドラゴンが巨大な咆哮を上げている。


 ガアアアアッ!!――炎に包まれた巨大な剣を武器として持つ異様な龍は墜落していく飛行船から飛び立つ。

 そして身体を空中で回転させながら左右に展開する飛行船の推進部分となるプロペラや乗組員がいる搬器部分を破壊、両断した。

 炎の剣で斬られた部分は激しく炎上する。それだけであそこに生存者はいないと理解できた。


「アギア……取り乱すな。相手が龍王種だろうが、関係ない。人間の兵士も龍王も我々が全て排除するだけだ!」


 オルファノは自身が持つ剣だけでなく全身に黄金の炎を纏わせる。その猛々しい姿に鼓舞されたアギアも笑顔を浮かべて拳を固く握る。


「やってやろうぜ。ようやく母の元へ来れたんだ。すぐに退場しちゃ勿体ねえ」


「その意気だ。それでこそ張り合いがあるというものだ。シファー、イゼラエル…お前たちは命を賭けて母とその勇敢な人間たちを守れ。私たちも命を賭けて敵を殲滅する」


「分かっている」

「分かっております」


 4人の天使たちは各々が出来ることを理解し、ヘリオス兵とその上空で咆哮を上げる龍に対して一歩踏み出した。その天使たちの決意と龍の出現によりヘリオス兵たちにも動揺が走る。


「行くぞ!」


 オルファノが剣を、アギアが拳を構えてイゼラエルの盾から飛び出した時だった。


 さらに別の何かが空から降ってきた。位置はちょうど天使たちとヘリオス兵の中間だ。舞い上がる土煙の中に何かいる。


 エリス配下の天使たちが警戒した時だった。舞い上がる土煙は吹き飛ばされその中から漆黒の魔力が溢れ出す。天使たちが放つ光の魔力を掻き消し、飲み込むような真っ黒な魔力だ。


「…………おい、これはどういう状況だ?」

 

 

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