第248話




◇◇◇


 レインは黒い渦から飛び出した。そしてその先の光景に言葉を失う。

 

「……………………なんだここ?」


 レインが降り立った場所は何も無い荒野だった。しかしただの荒野でもない。空は真っ暗で夜のようで紫色の稲光が起きている。でも不思議と周囲の様子はよく見える。


 そして何より目を引くのが荒野の奥に聳え立つ城だ。テルセロにある王城のような城がある。ただ屋根も壁も窓すらも漆黒だ。


「あそこに行けって事だよな」


 レインは剣を持って警戒しながら漆黒の城へ向けて歩き出した。


「やあやあ!いらっしゃい!!」


 そんなレインの警戒を突破して後ろから肩を掴んで声を掛けてくる者がいる。レインはその声の主が誰かも確認せず振り返り様に斬りかかる。


「おお!かなり速くなったねぇ!」


 レインの予想通りその声の主は魔神だった。会うのは1年ぶりだが、その特徴のある声と話し方は忘れていない。


「魔神……お前…騙したのか!」


「え?騙した?……ごめん、何が?」


「惚けるな!……俺は、アルティを殺してここに来たんだぞ!お前があの時言った出来ない事って言うのはその事なんだろ!何が大丈夫だ、だ!」


 レインは自分の行いを棚に上げて声を荒げる。この怒りを魔神にぶつけること自体間違っている。それでもそうせざるを得なかった。

 

「え?!いやいや……でも生き返ったでしょ?私がやった改変は弱体化の軽減で……あれ?なんか噛み合ってなくね?」


「…………え?」


「…………え?ね、ねえ…アルティの身体どうしたの?」


「え?……そりゃぁ……埋葬した…けど」


「ああ……それはダメだ。魔王になったらここへ直接来られるように転移門ゲートを設定したのが良くなかったね。30分もしないで来たんでしょ?だってそれくらいで生き返るはずだからね」


「…………まあすぐに…来たよ?でも……生き返る…とかあり得ないだろ?」


「魔王はそうなんだよ。魔王は殺されると下級悪魔として復活するんだ。でも魔王の時と比べたら雑魚になるからみんなやらないんだ。で、私はアルティが魔王を手放した後でも最上位悪魔、魔帝くらいの強さが残るように改変……したん……だけど……」

 

 それを聞いたレインは尻餅をつく。力が抜けて立てなくなった。そして安堵と同時にある事に気付いた。


「…………あれ?俺殺されるんじゃない?」

 

「お?気付いた?」


 レインの言葉に魔神はケタケタとお腹を抱えて笑いながら話す。宙に浮きながらなのがさらに苛立ちを助長する。



◇◇◇



 同時刻の思い出の場所。レインとアルティが長年過ごしたあの場所だ。


 その場所にある大きく盛られた土、墓標代わりの剣、レインが作ったシンプルなお墓だ。


 そのお墓の土の中から突如として手が突き出てくる。子供が見たら泣く光景だ。


 そして土と剣は勢いよく周囲に吹き飛ぶ。黒い魔力が溢れ出し、強い振動が起きる。


「おぇッ!!口に土入りまくってる!ペッ!ペッ!……あー、髪もぐちゃぐちゃだよ!なんで私埋められてんの?!」


 元魔王アルティは周囲をキョロキョロと見渡す。レインが通った漆黒の転移門ゲートは既に消えている。その場には土に塗れたアルティだけが取り残された。


「…………え?レイン?まだ30分も経ってないよね?帰ったの?私を埋めて?」


 アルティはゆっくりと立ち上がって身体中に付着した土をはたき落としていく。そして身体を小さく震わせる。


「………あの野郎!!速攻で帰りやがったな!!死ぬ前に、私…じゃあまたね…って言っただろうが!泣いてるレインの前で復活してそのままベッドに連れ込む作戦が台無しだ!!……覚えてろよ!次会ったら周りが引くほどのすんごいキスしてやるからなぁ!!!」


 アルティの怒号は洞窟を破壊する。ここは本来ならダンジョン内部だ。声を荒げるだけで崩壊するなんてあり得ない。しかしアルティが強大な魔力を遠慮なく放出したせいでダンジョンごと崩壊し、天井が崩れて外の世界と繋がった。


 アルティはそこから地上へ飛び出す。そして目を閉じて集中する。自分を置いて行ったレインの魔力を全力で探す。



◇◇◇


 そして場所は移り魔神とレインのいる黒の領域へと戻る。

 

「やっちまった……なんで言ってくれないんだよ。これも制限のせいなのか?」


「いや?復活する事は言ってもいいはずだよ?……まああの子の事だから泣いてる君の前で復活して感動の再会!そしてイチャイチャへ!みたいな計画立ててたんじゃないの? 今はそれが失敗してブチ切れてると思うけどねぇ……ははは!」


「なに笑ってんだよ。……でも…そうか、死んでなかったのか。まあ…とにかく後で本気で謝るよ。それで?ここは何処なんだ?」


 レインは落ち込みながらも本題に戻る。ここでずっとこうしている訳にはいかない。


「ここかい?ここはあの子が住んでいた領域であれが彼女の城だよ。城も空も全部自分で作ってたね」


「あれを?趣味悪いな」


「当時はあれがカッコいいって思ってたんだよ。触れてやるな。悲しくなってくる」


「…………わ、分かった」


「で、本題に戻ろう。君は私の試練をクリアした。ここからはボーナスタイムみたいなもんだ」


「ボ……なに?」


「今からあの城の中にいる奴らを解き放つ。あの子が人間界に逃げる時に置いて行ったんだ。もうあの子の魔王の力は君が受け継いだ。なら奴らも君が貰い受けるべきだ」


 魔神はレインの周りをクルクルと浮遊しながら話す。その度にいちいち向きを変えないといけないからやめてほしい。たまにフェイントで逆方向に回り始めた時はイラッとした。


「…………で?奴らって?」


「先代の魔王アルティが残した傀儡の軍団の主力だよ。全部で5万くらいはいる。それらをこれから解き放つ。レインは自分だけの力でそいつらを捩じ伏せるんだ」


「捩じ伏せる?……えーと…殺せってことか?それで俺の傀儡にし直す……みたいな?」


 魔神の説明にいまいち理解が追いついていないレインは頑張って質問する。どうせ魔神はこの後どこかへ変えてしまう。聞けるうちに聞いておかないと自分が困る事になる。


「そう言うことー!じゃあ行こう!降参と叫べば私が助けてあげるね。そうしたらそれまでに倒した奴らは全部レインの傀儡になるよ!でも死んだら本当に終わりだから死なないようにね!マジで!」


「…………りょ、了解」


 "死ぬと思ったら降参って叫べばいいのか。タイミング大事だな。……あれ?"


「傀儡って使えるの?」

 

「使えないよ?て言うかレインが殺した奴しか傀儡に出来ないでしょー?もう本当に頭悪いんだからぁ!」


「………………いや、傀儡使って取り押さえて俺がトドメ見たいな感じにしたいんだけど」


「うーん……なんか楽してるように見えるからダメ!」


「そうですか」


「じゃあ行くよ!!…………解放」


 魔神は指をパチンと鳴らす。するとアルティの王城の屋根が吹き飛んだ。そしてそこから奴らは出て来た。


 

 黒い全身鎧や神官服を着た全身真っ黒の天使たちだ。武器は槍や二刀流、盾と剣または槍など様々だ。カトレアの天使の黒い版みたいな奴らだ。


 ただ問題はその数。ただでさえ黒い空をさらに黒い天使たちが埋め尽くす。


「さあまずは天使だ。3万くらいいるから頑張って死ななようにね。敵はどんどん強くなるよ」


「ふぅー……やるか…」


 レインは剣をいつものように両手で持って天使たちへと歩いて行った。

 


 

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