番外編4-12
「今持っているのはこれだけです」
エレノアは胸元で光る緑色の魔法石が嵌め込まれたネックレスを持ち上げる。僅かに魔力が見えるから傀儡を送り込む事は可能だ。
「それは……大切な物ですか?」
「母の形見です」
「………………一緒に買いに行きましょうか。ついでに他の使用人の分とシャーロットさんの分も買いに行こう」
「何を……でしょうか?申し訳ありませんが、レイン様の仰ってる事に理解が及んでおりません」
「とりあえず向かいながら話しますね。馬車に乗っけてもらえませんか?」
「もちろんです。行きましょう!」
レインと馬車に乗れる事でエレノアの表情は明るくなる。笑顔を見せるエレノアに護衛の兵士たちも赤面する。ただレインは特に何も思わない。
◇◇◇
「どちらへ行きますか?」
「えーと……あの何とか=何とか宝石のお店……みたいな名前の……ありましたよね?」
馬車の中にいるエレノアと公爵家のメイドはキョトンとしている。ここほどまでテルセロだけでなくイグニス王国を代表する装飾店の名前を覚えていない人も珍しい。
神覚者クラスが行くような宝石のお店なんてそこしかない。行った事のない平民ですら知っている装飾店だ。
「神覚者様……リト=スフェル装飾店で間違いありませんか?」
エレノアの隣に座るメイドがそれを聞く。
「あー……そんな名前でしたね。まあ何で装飾品を買いに行くのかっていうと俺のスキルが関係してるんですよ」
メイドが馭者にそれを伝える。目的地がリト=スフェル装飾店になり、馬車はゆっくり走り出した。向かう途中でレインが何をしたいのかを説明する。
「スキル……ですか?」
「そうです、そうです。みんなが不死の軍団って呼んでるやつですね。学園でカトレアと試合した時も少し使いましたね」
「そうでしたね!あれはとても素晴らしいものでした!」
「いや……ただカトレアにボコボコにされただけでしたけどね。やっぱり俺は魔法が使えないから向かってくる魔法がどんな効果なのか知らないんですよね」
「レイン様は魔法が使えないのですか?覚醒者……その中の最高峰である神覚者様ほどの魔力であればある程度は扱えると聞いているのですが……」
"…………そうなの?"
「正確には使えない訳じゃないんですけどね。
「そうなのですね。……もう着きますよ?」
エレノアは馬車の窓に付けられたカーテンを少し開けて風景を確認する。
「早いですね」
「王族と公爵家が使用する馬車の進行を正当な理由なく妨げたら重罪になりますからね。皆さん馬車が通り過ぎるまで道の端に寄るんです。なので到着は早くなりますね。さて到着しましたね」
馬車が停まり、扉が馭者によって開けられる。そしてその馭者の手に支えられるようにエレノアが先に降りる。その後はレインとメイドが続く。
「…………相変わらずキラキラした建物だな。眩しい」
「国内最高の装飾店ですからね。宣伝も込めてこのような外観をしていると聞いております。オーナーのシドナさんもいると思いますので、彼女に案内してもらいましょうか」
エレノアはレインへ手を差し出す。ただレインはエレノアが何をしているのか分からず、その手を眺める。何とも言えない空気が2人の間に流れた。
「…………これ何を待ってます?」
「ふふ……殿方は淑女をエスコートするものですよ。私が階段から落ちないように手を取って支えて下さいまし」
「ああ……なるほど……」
理解したレインはエレノアの手首をガシッと掴む。公爵家の馬車が来た事で既に装飾店周辺にいた人から注目されていた。中から出てきたのがエレノアだけでなく神覚者もいた事でさらに注目される。
そんな神覚者がいきなりエレノアの手首を掴んだ。兵士が犯罪者を取り押さえる前みたいな光景になる。
「あの……レイン様?」
「あれ?違った?」
「投げ飛ばされるのかと思いましたよ?もう少し優しく手を握って下さいませ」
「これは失礼しました。平民上がりの神覚者なんで貴族の作法なんて分からないんですよね」
レインはエレノアの手を握って階段を登っていく。そして扉の両サイドに立っている警備員が開けてくれた扉を通る。
"さて……さっさと買い物を終わらせて帰って寝よ"
◇◇◇
「いらっしゃいませ。本日はどのような物をお探しですか?」
前にもお世話になったシドナに応接室へ案内される。神覚者や公爵家は店内を歩いて商品を探すような事はしない。探している物を持って来てもらうのが普通らしい。
「前と同じです。高品質の魔法石を使ったブレスレットを…………10個くらいほしいです」
「ブレスレットですね。かしこまりました。すぐにお持ちいたしますので、少々お待ち下さい」
「お願いします」
そう言ってシドナと付き従う従業員たちは部屋を出て行った。そこにはレインとエレノアとメイドの1人が残される。
「ところでレイン様……今回ブレスレットを購入しに来たのとレイン様のスキルの関係をまだ聞いておりませんでした。そろそろ教えていただけませんか?私とても気になっておりますの」
「大した事じゃないんですけどね。俺のスキルの傀儡は魔法石とかに命令を与えて潜ませる事が出来るんです。うちの使用人全員には持たせてるんです」
「命令とはどのようなものがあるのですか?かなり複雑な命令も出来るのでしょうか?」
「複雑な命令は無理ですね。例えば危害を加えられそうになった時とかに飛び出してその人を守れ…とかですね。そんな時が来ない限りは何も起こりませんし、俺も何か干渉できる訳じゃないです。大体の位置くらいは分かりますがそれくらいですね」
レインは正直に話す。
「……でもそんな事をすればレイン様が召喚できる駒の数が減りませんか?……いえ!レイン様が弱くなると言っているのではありませんよ?」
「別に大丈夫です。弱くなるって言ってもそこまで影響はないです。そんな事より俺の周囲にいる大切な人が怪我する方がずっと怖い。
妹や使用人には渡していましたが、シャーロットさんやエレノアさん、他の人たちにも渡しておこうかと思いまして……」
「そ、それは私も大切な人の中に含まれていると!」
エレノアは立ち上がりレインへ顔を近付ける。レインにとっては何となく意味もなくサラッと言った事だったが、エレノアにとっては非常に重要な事だった。
「…………え?ま、まあ…赤の他人というわけではないですしね。ダンジョンの数も増えているらしいですけど、俺は1人しかいません。常に全員を守れる訳じゃないですからね」
「あ、ありがとうございます!でも召喚士の
エレノアは落ち着きを取り戻し、座り直してレインへ問いかける。エレノアが持っているレインに関する情報はかなり古いものだった。
「100体?…………今は2,000体くらい召喚できますよ?」
「に、にに、2,000?!」
エレノアは驚きすぎて後ろ向きに倒れた。
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